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【読書記録】青山美智子『赤と青とエスキース』

「完璧な結婚」

絵と額縁がぴったりと合わさることを、ヨーロッパの額縁業界ではそのように表現したらしい。
人と人に限らず、何か心躍るものに出会したときには高揚感が沸き起こる。

『青と赤とエスキース』
私が今まで読んできた本の中でも、本当に心に残る作品になった。
まさに、私にとっての「完璧な結婚」という感覚だった。
(本側の思いは分からないので、これは片思いだろうか?笑)

この物語は、オーストラリアに留学したレイが、現地に住む日系人のブーと出会ったことから始まる。
彼らは、レイが留学している間限りの「期限付きの恋」を始めるが、
レイの帰国が迫る中、ブーはレイを記憶に残そうと知り合いの画家・ジャックに
依頼し、レイの絵(エスキース)を描いてもらうのだった。

ブーとレイ、ジャックの絵に魅せられた額縁職人、大賞を獲得した弟子の漫画家とその師匠、50代にして新しい仕事を始めた女性…。
彼らとエスキースの不思議なつながり。


ブーとレイの恋愛がとにかく美しくて、
いつまでもこの二人を見ていたいと感じ、二人の幸せをただ祈るばかりだった。
「期限がある」ということが、二人の恋愛をより一層美しく刹那的なものにしていたのかもしれないが、互いに心のうちに閉じ込める思いが、切なく、苦しかった。

そして、読後は絵を観に行きたくなったので、ちょうど先日、
国立新美術館で行われている「ルーヴル美術館展 愛を描く」を観に行ってきた。

幾千の人たちが同じ絵を観る。
だが、それぞれに絵を観て感じる思いは千差万別だ。
そして、絵は私たちよりもはるか長い年月を生きている。
色々な景色を、色々な場所で見つめてきたのだろう。
なんて、絵の気持ちを考えたくなった。

青山さんの作品は、不思議と普段考えない「もの」の気持ちを考えたくなる。
「月の立つ林で」は「月」の思いを、そして「今作」では「絵」の思いを。
この温かく穏やかな視点が、青山さんの作品の優しい読後感を生み出してるのかもしれない。





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