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【読書記録】鷺沢萠『F 落第生』

学生時代、模試で読んで忘れられない作品だった。

つい最近、人生の中でも数えられるくらいに底まで落ち込んで、
ふと思い出して本棚から取り出した本がこの『F 落第生』だった。

「落第生」の話なのに、何故かスッキリとした気持ちになれる不思議な文章。
模試の問題文として読んだ文章だったのに、問題を解きながらも、最後の数文でこんなに心を持っていかれる作品があるのか、と印象強く残った。

この本に収録されている「家並みの向こうにある空」という短編の途中から出題されていた。
全部読みたくて、図書館で倉庫の奥から引っ張り出してもらって読んで、やっぱり手元に置いておきたくて中古で手に入れた。
探し回っても見つからなかったのは絶版になっているからだと知った。

7つの短編に出てくる女性たちは皆、「S」や「A」をもらえるようなキラキラと輝く人生、今でいう「陽キャ」な人生からは程遠い距離にいる。
むしろとことんついていなくて、「普通」の人生が羨ましいとさえ思える、
ランクで言えば「F」がつくような人生。

だけど、彼女たちが出会う、一つ一つの小さな幸せは、「S」や「A」ランクの人たちが感じるよりも何倍もの重みがある。
誰かの一言に、ふっと心を救われたり、明け方の空を見て希望を持てたり。
そんな幸せ。

後悔したっていいじゃないか。
傷つきながら、「後悔」を思う存分「後悔」したって、大丈夫。
だって、頑張ったから。
「前向きになれ」「落ち込むな」「心配しすぎだ」
そんな言葉は時として必要だが、ちょっと聞き飽きちゃったよね。
そんな時に読みたくなる本だと思う。

マツコさんが番組で言っていた、
「人生の変わり目って手を差し伸べる人がいる。差し伸べられた手に気付くくらいの、世の中と向き合う気持ちは忘れないでほしい。」
この言葉がぴったりの物語たち。


最後に、「あとがき」の文章が好きなので、引用させていただきます。

「A」ばかりの人生なんてつまらない、などと言う気は毛頭ありません。
そうできる条件と幸運にさえ恵まれたのなら、泣かない方がいいし痛みや悲しみは経験しないほうがいい。後悔なんて、する必要がない方がいいに決まっています。       
けれど、人々がよく口にする「後ろを振り返るな、後悔だけはするな」ということばにも、やはり私は簡単に頷くことはできません。常に常に「前」だけを向いて生きていくことが、そんなに正しいこととは思えないからです。
(中略)
前を向いていなくても、胸を張って顔を上げて歩いていなくても、強くなくても優しくなくてもカッコ悪くても構わないと思うのです。
ちょっとずつでも歩くことを止めさえしなければ。
(角川書店『F 落第生』P.196-197)

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