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JORKERを観て思う ニューヨークの治安

先日,話題の映画「JORKER」を観た。決して楽しい気分になるものではなかったけれど,社会や政治の在り方について考えさせられる映画だった。だが,私が何よりも注目したのは舞台となっていたニューヨークの様子だ。私が今留学しているのもニューヨークだからだ。

劇中で現実の地名と結びつくような描写はなかったが,明らかにロケ地はニューヨークの地下鉄や路地裏だ。店の宣伝を街頭で行っていると,少年らに絡まれ路地裏でボコボコにされる。夜中の地下鉄では女性が酔っ払いに絡まれ,色々ともつれ込んだ果てに酔っ払いが主人公によって銃殺される。デモに参加するピエロたちが乗り込んできた警察官らの銃を奪い馬乗りになって殴り掛かる。

どこまでが主人公の妄想でどこからが現実を描写しているかは不明だが,全体的な雰囲気でいえば社会の不満がくすぶっていた20-30年前のニューヨークの様子をもとにしているのだろう。これを留学する前に観ていたらニューヨークを留学先に選ばなかったかもしれないくらい不穏な雰囲気だった。

翻って今のニューヨークを見てみると,当時に比べてはるかに治安は良くなっている。地下鉄はあんなに落書きだらけではないし,中心部で人の多いところを歩いていれば,いきなり殴り掛かられたりすることも滅多にないだろう。私は比較的安全なところしかウロウロしていないので映画で描写されたような今にも犯罪の起こりそうな雰囲気の場所ももちろんあるのだろうが,時間と場所さえ気をつけていれば,特に危険を感じることはない。(もちろん日本ほど安全ではないし色々な人がいるので油断してはならないのだけれど)

ここまで治安を改善するのには多大な費用と労力を要したのだと思う。New Yorkerに聞くと政治的にかなり力を入れてきたからだと言われた。肌感覚としても,かなり警察官や警備員が多いように思う(もしかしたら911の影響もあるのかもしれないけれど)。特に何もなくとも路上にパトカーが止まっていることは多いし,道端で警察官とすれ違うこともかなり頻繁にある。地下鉄の出入り口には屈強な感じの警備員が待機していることが多い。夜遅くや朝早くに一人で歩いているときはすごく心強い。コストがかかるのだろうけれど,市民の安心にとって代えがたい存在となっていると思う。

事件に関しての情報周知が物凄く素早いということにも驚いた。自転車窃盗や建物内での窃盗(キャンパス内でも残念ながらある),時に強盗が起きた際には,防犯カメラの画像とともにいつどこでどのような内容の犯罪が起きたかの概要がメールや掲示板などで翌日には周知される。犯罪の抑止効果にもつながりうるし,なによりも荷物の管理や深夜の出歩きには気をつけようと意識するようになる。

興味深かったのは,子供の連れ去りに関しても迅速に情報周知がされることだ。例えば,○時に○○公園で女の子が車で連れ去られた,というのが子供の人種や年齢,車の特徴やナンバーといった情報とともにスマートフォンのalertで流れる(日本でも一時期頻繁にあった緊急地震速報みたいな機能で流れるので結構びっくりする)。連れ去れた数時間後にはalertが流れており,かなり迅速に情報を周知している。第三者による誘拐以外にも,別居(や離婚)している父親が母親の同意なしに連れ去ったというような場合でもalertが流れていた。New Yorkerに聞いたところ,単に子供がいなくなったという場合でもalertが流れることがあるらしい(多くの場合はただの迷子で数時間後に見つかると聞いて少し安心した)。

この通知はアンバーアレート(Amber Alert)と呼ぶようで,過去にアンバー(Amber)という女の子が誘拐され,その後無残な姿で発見されたという事件に由来するらしい。amberというのは(信号の)黄色という意味もあり,red alertではないけれど注意信号という意味も含んでいるようだ。

個人情報は?プライバシーは?と色々と気になる点もあるが,一つ価値判断としてはありうる制度だと思う。日本での誘拐の事件や悲惨な結末が報道される度に,日本でおなじような仕組みがあったら何か違っただろうかという思いがどうしても頭をよぎってしまう。

話はそれてしまったが,今ある数々の防犯上のシステムも,JOKERで観たような不穏な街の雰囲気を背景とした数々の犯罪や事件での反省が礎となっているのだと思うとなんだか感慨深かった。

ちなみにハローウィンでJOKERに仮装している人を結構地下鉄で見かけて少しひやりとした。




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