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韓国ドラマ『わかっていても』のどこがモヤるのかを考えてみた

ソン・ガン、ハン・ソヒ主演のNetflix配信ドラマ「わかっていても」が最終回を迎えた。

前半はともかく、後半はジェオンとナビのグダグダな関係にモヤモヤすることも多く、その結果としてドラマの評価は様々。

でも、このドラマは嫌いじゃない。
見れば見るほど味が出るタイプの物語だとも思う。

それはそれとして、モヤモヤしたのは事実。
このモヤり感がどこからくるのか考えてみると、たぶんそれは、ヒロイン、ナビの心情があまりにリアルだったからなのだと思う。

リアル=現実は、ドラマのようにスッキリと展開しないのは当たりまえ。
でもそれをあえてドラマで表現しようと試みたのがこの作品。

なので、個人的にはこのグダグダな関係をどう最終回で着地させるのかを含め、結構楽しんで鑑賞した次第。

ここでは、ナビの気持ちの変化を中心に、「わかっていても」のモヤり感について考察してみたい。

*ドラマをこれから見る方はご注意ください。ネタバレ含みます。
ネタバレなしの作品みどころ紹介と考察は↓こちら↓のブログをご覧くださいませ

1. エピソード5までは恋愛ドラマとしてわかりやすい展開

「わかっていても」は全10エピソード。
ちょうど真ん中のエピソード5で、物語はトーンを変える。

以下のグラフはナビの幸福度の変化を表したもの。

わかっていても2.001

最高値を100として、独断と偏見に基づき、感情の推移をグラフ化していみた。

このグラフからみると、エピソード5の「終わりにする宣言」まで、ナビの感情は激しくアップダウンする。


思えばナビは不幸続き。
最低な元カレとの別れ⇨モテ男ジェオンと出会い⇨ジェオンと関係が深まるも⇨恋人同士になれない曖昧な関係が辛いという流れ。おまけにジェオンには女の影がちらついている。

さて、その「女の影」として登場するのがソラ。彼女の立ち位置はいまひとつ明確ではなく、もう少し効果的にナビを刺激する役どころでもよかった気がする。ともあれ、ナビにとっては面白くな存在であることには違いない。

ちなみに、ナビがジェオンに出会ったのは、失恋間もない時期。こういう時期って寂しいオーラが出るのか、男の人が寄ってきやすいってのはよく聞く話。
ジェオンがナビからそのオーラを感じ取ったかどうかはわからないけど、「恋愛はしない主義」という独特なポリシーを持つ男との出会いは、ナビにとって苦難の始まりに他ならない。

それでも、彼女はジェオンにハマっていく。
思わせぶりな態度をとるジェオンに翻弄され、キスをしたまではいいけれど、イニシアチブは常にジェオンがとっている。

その後も、予期せず後輩に振られたり、ジェオンに優しくされたり(=病気の看護)と、心揺さぶる出来事の連続。で、一気にジェオンに傾いてしまう。

そして二人は結ばれるワケだか、この時のナビの幸福度は最高値の(100)。
でもそれは、あることに目を瞑っているから。

そう、二人は付き合っているわけではなく、友達以上恋人未満の関係なのだ。
「そのうちジェオンの気が変わるかも」と密かに思うナビだが、肉体関係含め一緒に過ごす時間は楽しいのに恋人にはなれない。

結果、この関係に耐えられなくなったナビが、ジェオンに本音をぶつけたのがエピソード5の「終わりにする宣言」。

つまりは、エピソード1からエピソード5までの間に、ナビは天国と地獄の両方を味わい、それに伴い感情もジェットコースター状態に揺れ動くのだ。
ここまでは恋愛ドラマとして刺激もあるし、ある意味わかりやすい展開。

視聴者的は「前半で感じたジェオンとナビの関係に付随するモヤモヤ感は、きっと後半でスッキリ払拭されるはず・・・」と期待して、ドラマの後半に臨む。しかし実際は、ますますモヤモヤ&混迷していく二人の関係が待っているのであった。

2. 「パク・ジェオン」とは、いったいどういう男なのか

ところで、ジェオンとはどういう男なのか。

ぼくはいつも
相手との適度な距離感に満足している


まあ、これはわからないではない。
私だって適度な距離感は好きだよ。楽だし。

でも、そういう思考に至るまでの彼の過去や生い立ちはこのドラマでは詳しく語られない。
母親との関係が少しだけ描かれるけど、ほんの触りだけだ。
少なくとも、ジェオンとジェオン母(自分の生き方を優先している)との間には、親子らしい気安さは感じられない。自分の領域に入られるのをひどく嫌うジェオンが作られたのは、この母との関係が影響しているのは間違いないのだろうけれど。


そんなジェオン母が言う。

自分を大切にしなきゃ 誰も愛してくれない


この言葉には、ジェオンが抱えている問題の本質が隠されていると思われ、彼の影の部分がちらりと見える場面でもある。


とはいえ、恵まれたルックスやアーティストとしての才能を備えた彼の人生はそれなりに充実している。「手当たり次第女に手を出す男」と評されながらも仲間はいるし、結構楽しく生きている。


そんなモテ男ジェオンは、物語の最初から最後まで一貫してナビに惹かれている。
わざと冷たくしたり、心にもないこと言ったりすることもあるけれど、ナビのことが好きなのは明白。(→恋愛してんじゃん)

つまりジェオンとナビは両思い。恋人同士になっても何の問題もないけれど、それを怖がっているのはジェオンの方。ジェオンは傷つくのが嫌なのか、それとも距離感フェチなのか。

なかなか面倒な男ではあるが、ソン・ガンが演じているからこそ許されるキャラであり、魅力があるのだと強く、強く思うのであった。


3. モヤモヤの原因は、グダグダでリアルな二人の駆け引き

さて、なぜ「わかっていても」がモヤるドラマなのかに話を戻す。


エピソード6から活躍するのは、ナビの幼馴染ドヒョク。彼の存在が、ナビにとっては癒しになり、一方で、ジェオンの嫉妬心を燃え上がらせる。

ここからは三角関係がノロノロと続くのだが、先ほどのグラフでおさらいをしてみたい。

わかっていても2.001

エピソード6〜9までは、一貫してナビの幸福度は低く、唯一、ドヒョクの優しさに癒される時だけ、幸福度は回復する。

このエピソード6〜9までの4エピソードこそが、視聴者のモヤモヤ度をマックスにしてしまうのだが、その原因は、振った相手(ジェオン)に後ろ髪ひかれるナビの煮え切らなさと、振られた相手(ナビ)を自信満々に追いかけるジェオンの鼻につく態度にある(対比してドヒョクのいい人っぷりがクローズアップされるわけだが)。

要はドヒョク以外=ジェオンとナビが魅力的に描かれていないのがエピソード6〜9なのだ。

クールに振る舞っていても内心ナビを手放す気がないジェオンと、それをなんとなく感じていながら「このままじゃ不幸になる!」と葛藤するナビの駆け引きが透けて見えるのだ。

ああ、なんてグダグダな。。


このモヤモヤを少しでもスッキリさせるために、ジェオンとナビの気持ちを整理をするとこんな感じ。

わかっていても4.001

①両思いなんだけど💙、②望む関係が真逆❌、③ドヒョクは毒にも薬にもなる存在で、二人の関係に影響を与える▲。

つまり、ドヒョクのは①と②を揺さぶる役目を担っていて、結果、ジェオンの②を撤回させるきっかけとなってしまう。ドヒョクとしては、ナビの心を揺さぶって、ナビの①を「ジェオンが好き⇨ドヒョクが好き」に変えたかったワケだけど。

それらを踏まえこのドラマをすごく短く説明すると、惹かれ合う二人だが、主義や考え方が折り合わずモヤモヤとした関係を続け、我慢比べの結果ジェオンが折れたというかんじ。

そう考えると、ジェオンの前ではいつもオドオドしていたナビも「なかなかやるではないか」と感心する。

さて、エピソード6〜9で最も激しい動きといえるのは、エピソード9のジェオンの感情吐露の場面。ライバル、ドヒョクへの嫉妬心から、(というか、男って競争相手ができると急に気持ちが盛り上がるよね)、ナビへの執着心がマックスに。
結構ひどいこと言っちゃうんだよね、ナビに向かって。


その言葉にキレたナビにバッサリと振られたジェオンの感情の変化を含め、大きく山が動くのがエピソード10。

この最終回は、グダグダ、ノロノロ進んでいたそれまでが嘘のように、エピソードてんこ盛り&ハイスピードで展開する。

ここでもう一度グラフで確認。Ep10を見てほしい。

わかっていても2.001


初めて感情を露わにしたジェオンを完膚なきまでに打ちのめしたナビだけど、これは惹かれている男との決定的な別れの瞬間でもあり、その時の幸福度は(0)。

決めるのは私だといったよね
二度と現れないで

この、ナビのセリフにはちょっとばかりスッキリした。

が、悪いことは続くもの。
展覧会直前、手がけてきた作品が事故で崩壊。ナビは絶望の縁に落ちる。

そんなナビをジェオンが真摯に支える。
この「真摯に」ってのが大事なポイントで、これによってジェオンの立ち位置が変化したことを表現している。

ともあれ、ナビはアーティストとしての情熱を取り戻す。自己実現を成し遂げた達成感と幸福度はジェオンと結ばれた時に匹敵する。つまりは(100)。
その後に続く、ジェオンとの恋愛あれこれよりも高い幸福度。

そしてついに付き合うことになった二人の幸福度は、まあまあ高い(80)というところ。で、付き合い始めた後は気持ちも落ち着き(70)。その幸福度は初めてジェオンとキスした時と同程度と推測。


にしても、この展開にはホッとした。
エピソード9までのグダグダ具合から、最終回であっさり結ばれてしまったらつまらない。それまで見せてきたリアルな恋愛模様が急に嘘くさくなってしまうし。

また、恋愛依存気味のナビが情熱を注ぐ対象をジェオン以外に見つけのもよかった。そして、そのことによってジェオンとナビの間に適度な距離間ができあがった。これはジェオンが望む距離感と性質は異なるかもだれど、彼にとっても良きことのはず。

さて、その「適度な距離感」を保つジェオンとナビが表現されるのがラストシーン。街でドヒョクを見かけたナビが、一瞬、繋いでいたジェオンの手を離しそうになるのだ。

おぉ、そう来るか。。
相変わらず女たちに愛想がいいジェオンといい、ある意味お似合いの二人なのだ。

ともあれ、最終回がどうなるか心配しながら観ていた身としては、なかなかよい落とし所だったのではないかと思う次第。


いずれにしても、「わかっていても」はリアルな恋愛模様を、リアルのごとくモヤモヤと楽しむ、新タイプのドラマかも。賛否両論あるけれど、丁寧に感情の動きを表現していたのは事実だし、ナビ視点でみれば興味深い作品だった。

2時間の映画にすれば、その良さが凝縮されたかも、とは思うけど。



そして最後に。
私も前髪をおろしたジェオンが好きです。


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