弱さは人を惹きつける
『あらしのよるに』。
木村裕一さんのベストセラー、
映画や朗読劇などにもなっており、多くの人から愛されている作品である。
一言では説明し難いが、がんばってまとめると、
“ヤギとオオカミが真の友情を育んでいくものがたり”
だろうか。
(※このあと、ものがたりの場面の説明がいくつも入ります。)
嵐の夜、真っ暗な小屋の中で話は進んでいく。
ふたり(二匹)とも、鼻風邪をひいている設定になっている(笑)
お互いの姿が見えない中、「似ている」ところを見つけていく。
まず、食事に行く場所が同じ。
そこのエサは特別おいしいよね、と意気投合する。
母親に「早く走れないと生き残れないわよ」と言われていた思い出も同じ。
(指しているものは、ふたりとも違うところが面白い。)
ふたりの心の距離がぐっと縮まるのが、
かみなりの音に驚き、体をよせあってしまう場面。
自分が気にしているかっこわるい一面を、相手に知られてしまう。
すると、目の前の相手も自分と同じ弱みを持っていた。
うれしく、安心し、救われる。
本当の意味で「似ている」と、確認し合うのだ。
―――――
ヤギは「わたし」という一人称を使い、
オオカミは「おいら」と言う。
ジェンダーバイアスが、と思いきや、
ちっぽけな体のヤギが、オオカミをぐいぐい引っ張っていく。
この『あらしのよるに』は、続編が何冊も出ているのだが、次の『あるはれたひに』では、さらにはっきりしてくる。
ドシンと構えているのはヤギであり、
不安でいっぱいなのはオオカミなのだ。
一作目『あらしのよるに』の中でも、
一番はじめに「すごい嵐ですね」
と声をかけるのはヤギであり、
「今度、天気のいい日にお食事でも」
と誘うのもヤギである。
オオカミは
「いいっすね」である。かわいすぎる。
―――――
こども、お年寄り、障がいのある人、持病のある人、女性、性的マイノリティの人…。
社会的弱者、と呼ばれてしまうカテゴリーに当てはまる人は多く、
え~と、当てはまらないのは…
と考えてしまう。
上記にあげたものは、自分が当てはまることが分かりやすい。
ここで気がかりなのは、
周りからも気づかれにくく、自分でも自覚しにくい人たち。
たとえば、“強くない男性”。
はっきり言い切れるのは、
強い=よい、弱い=わるい、
ではないということ。
ただ、絶対でないとはいえ
強い=有利、弱い=不利
はあると思う。
分かりやすく、生き残りの視点で考えると、
体が強い(丈夫な)方が有利である。
寒さに弱かったり、免疫力が低かったりというのは、不利だ。
本人はつらい上に、そのケアに莫大な時間を取られる。
自然界では、死と結びつく。
たまに、「健康保険は払っているだけで」との声を聞くが、
健康保険の恩恵を存分に受けている私からすれば、使わないに越したことはない、本当に。
話は戻り、
“豆腐メンタル”などと揶揄するのは、
さびしいことだと感じる。
心を痛めているご本人の悩みは、
ストレスに強い(気分転換や、気持ちの切り替えが上手な)方には理解しづらい。
でも、
本人にとっての“弱さ”である部分は、
実は魅力的なのだ。
―――――
ここから、私(女性)目線の話になってしまうことを、お許しください。
私は、Googleマップを握りしめて迷子になるという、本物の方向音痴である。
何回も家に帰れなくなった。
そんなとき道で助けを求めるのは、
ベテランカップルか、女性か、
(強そうでなく)やわらかい雰囲気の男性だ。
いそがしそうな人、歩きスマホをしている人、しかめっ面の人に声をかけないことは、言うまでもないはず。
『あらしのよるに』のオオカミは、
言葉を選ばす言えば、気弱な性格だ。
大食らいとあるから、体は大きいのかもしれない。
カミナリが苦手で、奥手で、やさしくて。その一生懸命な姿にファンになってしまう。
「だいじょうぶですか?」とぱっと口に出せて、
本来敵であるオオカミのことを信頼しきれるヤギも、もちろん好き。
ちっぽけなヤギが信じられたのは、
姿が見えない中でも、強くない・・・相手を力で負かさないオーラを、オオカミが放っていたからではないだろうか。
アナログな男性らしさがないことを
悩んでいる方がいらしたら、
自信を持ってほしいなぁ。
いつも不機嫌なマッチョより、
人の話をききながらボロボロ泣いてしまう人の方が、
ずっと魅力的だもの。
おまけで、興味深い研究をひとつ。
ヒトに最も近い類人猿である、チンパンジーとボノボ。
チンパンジーは、群れの中でボスであるオスがいばっている。
ボノボのオスは、メスの尻に敷かれている。
チンパンジーは仲間うちで頻繁にケンカをし、
ボノボの群れは平和だそうですよ。
2024.2.10
今回は、女、男という言葉が何回も出てきました。モヤモヤしてしまった方は、ごめんなさい。
私はアライで、これからもアライです。
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