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残したいものは

東京のほんの少しだけ田舎の
とあるショッピングモール。

夜になると鳥たちが
けたたましく鳴き出す。

彼らの声をきいて
思い出すのだ、

ある方からきいたお話を。



その方の好きだった
大きな大きな木、

建物の三階まではあろうかという、タイサンボクの巨木だったとおっしゃる。

タイサンボク(泰山木)は、
梅雨のこの時期に
真っ白で上品な花を咲かす。

その姿は、蓮の花が木の上にあらわれたかのようで、
親指姫が中で眠っていそうな大きな花。

モクレン科の常緑樹。
葉は、分厚く硬くて、艶がある。
水を弾き、火に強い。

不思議なかたちの実から、
赤い種が出てくる。

花は 虫たちを惹きつけ(虫媒花)、
種は 鳥に食べられ、運ばれる。

散歩中に拾った未熟果



木は切られた。
一日で切られた。

すずめが巣を作り、
にぎやかだった。

「切られた理由はそれかな」
その方は、少し寂しそうにおっしゃった。



私たちは奪ったのだ。
彼らの住処を。

何十年も生きてきた
木の命を。

一本の木が育んでいる命は
数え切れない。
それらをすべての営みを。


私たちは
そろそろ学ぶべきだろう。

奪うのは一瞬であることを。

住処も、歴史も、文化も、
約束も、暮らしも、命も。



帰る場所を奪われ、
夜になっても落ち着けず、
鳥たちは鳴き出す。

いえ、泣き出すんだ。

心さまよい、途方に暮れて、
泣いているのだ。

悲しそうには きこえまいか。
嘆きには きこえまいか。



夏がやってきた。

79年前の夏
一瞬で消えた命は幾万か。

死んだら 敵も味方もない。

焼き尽くさないで。
握り潰さないで。
切り捨てないで。

どうかお願いだ。

生きているから
できるんだよ。

誰かと手をつなぎ
心を結ぶこと。

「次、いつ会う?」
そんな何気ない約束で
幸せはできている。

「いつもの時間に、いつもの場所で。」
そんな何気ない約束で
私たちは生きていく。


何十年後も何百年後も
残したいものは何?

奪い合いではないことは
確か。


葉書きの由来となった
タラヨウの葉に刻む。

「ありがとう」と。


2024.7.5

いただいたタラヨウの葉、
茶色くなってきました。
どう変わっていくか楽しみ♪


はがき(葉書)は、
モチノキ科の常緑広葉樹
「タラヨウ(多羅葉)」が由来。

裏面に、とがったもので字や絵を描くと、やがて茶色っぽく浮かび上がり、乾燥してもそのまま残る。





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