《エッセイ》 不安 その4
病院で、急に息ができなくなってびっくりしてバルコニーへ走り出たんです、と説明したら、担当医に「まさか飛び降りようなんて思ってなかったですよね?」と心配そうに聞かれた。
それだけは断じてない。そうじゃなくって、逆だった。
死ぬのが怖くて、死にたくなくてバルコニーに飛び出したんだから。
あの頃は、パニック発作なんてものがあることすら知らなかった。
つまりは過呼吸になり、止まらなくなってパニック発作になったという状態だったんだろう。(ちなみに過呼吸という症状も知らなかった、幸せ者である。聞いたことはあったかもしれないけど、その時はピンとこなかった。)
まあそれからは、色々あったな。
夫に2週間息子を任せて、私は実家に戻って療養した。
精神科にも通ったし、薬も飲んだ。
私にとって一番の問題は、この発作がまた起こることが怖くてたまらないことだった。不安でしょうがなかった。そのせいで、行動するのが怖かった。
車を運転するのが怖かったし、遠出するのも怖かった。
今でも少し残っている症状がある。
運転している時、赤信号の前で車を止めると、ぶわあっと言いようもなく不安になる。ヤバい、パニックになるかも、と急に体が熱くなって、汗をかく。数年前までは、がんばってハンドルをぐっと握りしめ、呼吸に意識を集中してなんとか耐えられた。でも結果を言うと、結局ひどい発作になったのは、あの一度きりだった。その後はただ、長いこと再発の不安で押しつぶされそうになりながら生活していた。
どうしてこんなになっちゃったんだろう。
よく考えた。私は理屈っぽい人間なので、日々起きることや精神的な浮き沈みに理由付けすることが癖になっている、というか、もはや趣味とでも言えるかもしれない。
私のパニック障害は、自分はこれでいいやって言えない自分、自分はこれではいけない、もっとこうじゃないと、もっとああじゃないと、とどこまでも自分自身を壁に追いやり続けてきた結果だと思う。
自分は自分。
口で言うのはものすごく簡単だけど、言葉は自分の奥まで届かない。
実感が湧かないし、この心の焦りは取り除けない。
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