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タダイマ トーキョー

五年ぶりに日本へ帰った。
もう、帰ると言うには疎遠になりすぎてしまっただろうか。
ただの見知らぬ国への観光になってしまっているのだろうか。
自分の気持ち的には、そんなことはない。
そんなふうに考えたくない。
いくら国籍を取られても、何年も帰国していなくとも、日本が自分の生まれ故郷であることに変わりはない。
祖父母の墓もある。
両親と家族を連れて、暖かい日に墓参りに行ってきた。
私はおじいちゃんっ子で、毎晩祖父の部屋へいってはそこでテレビを観ていた。私の実家は、二世帯住宅だった。
祖父は私が何を観ようが、何も言わずに一緒に観ていてくれた。
クリーミーマミ、ルパン三世、あとはなんだっただろうか。
一緒に住んでいた実家はもうない。
土地も売り払った。
私が日本に住んでいたと言う証拠は、軌跡は、少しずつ、でも確実に、消えていく。
記憶だけが鮮明に残っている。

日本に来て、東京の雑踏の中に放り投げられた。
こじんまりしたスイスに慣れてしまうと、まるで津波のように押し寄せてくる東京の人々の流れが怖いくらいに感じる。
東京都民は、みんなただ日常を生きていて、仕事に行ったり、デートしていたり、学校へ通っているだけだ。その波に当てはまらない私と家族は最初、その波がどういう法則で流れているのかわからず、水の上に落ちてしまった虫のようにもがいていた。異物だった。
その感覚が私を嬉しいような、悲しいような気持ちにさせた。
嬉しいのはこの法則がないようであるような東京の流れに今、自分がまた身を置いていること。悲しいのは、生まれ故郷の流れの中にいながら、自分は異物だと感じること。
そんなこんなで、私と家族は波に揉まれながら、エアビーで予約したアパートへ向かった。

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