_BALLYTURK_ポスター-01

【勝手に 『バリーターク』 妄想中】

白井晃さんの描いた『バリーターク』は、こういうことだったんじゃないかなぁ~ と考えてみたのですが、ほぼ私の妄想かもしれません。
(観劇レポではありませんが、ある意味ネタバレは満載です。)  
駄文の長文ですので、お暇つぶしにでも。
宜しければどうぞ。


*   *   *

Chapter1:プロローグ

【幼い子】

家族とビーチで過ごした帰り道、その子は父親の運転する車に乗っていて事故に遭った。それはチューインガムの甘さが口いっぱいに広がり、心地良い疲れが体を包み、眠りに落ちた瞬間だった。
残念ながら、幼い彼の魂はすぐに飛ばされた。

白い光の中から、黒い服を着た男が現れて言う。
「君は幼過ぎてすぐに天国には入れない。
ここで迎えが来るまで過ごすのだ。」
幼い彼には天国の意味もわからなかった。

連れて行かれた部屋には一人の少年がいた。

*   *

【少年】

少年は妹の幻影を追っていた。
それは彼が望んでしたことだったのか、事故だったのか。
湖に落ちた少年は、助け出された時には既に魂が抜けていた。

黒い服の男が現れると、少年を取り囲んでいた黒い羽根を持つ者たちは何処へともなく消えた。
男は言う。
「自ら命を落とした者は天国へは行けない。
でも、君は妹を深く愛していた。
これからここへ来る小さな子を救うことが出来たなら・・・」

*   *

【男3】

男の仕事は「魂を集めること」だ。
所謂天使というやつだが、そう言い切れないのは、彼が集めているのは曰く付きの魂だということだ。
そんな魂を部屋へ送り、しかるべき時が来たら新たな宿り先へと導く。
功績次第で、天使へのステップアップがあるとかないとか!?
しかし彼は、好きなだけ煙草が吸える今の仕事が気に入っているようだ。

*   *   *

Chapter2:中空の部屋

【少年】

少年が連れて来られた部屋には何も無かった。
するべきこともわからなかった。

途方に暮れた彼は、かつての彼がそうだったように「何か食べようかな」と思った。
気が付くと手にスナック菓子の袋があった。

やることが無いので、「じゃあ寝るか」と思った。
気が付くと、ベッドに横たわっていた。
知らぬ間にパジャマに着替えて。

*   *

【部屋】

天国と地上の間にあるその部屋は、天国ほど幸せに溢れていはいないが、地上ほど不幸な目に合うこともない。わざわざ手間暇を掛けなくても、念じるだけで必要な物は手にすることが出来る。

重力や時間の流れも地上とは違うが、天国ほど自由ではない。
命の危険や痛みを感じない代わりに、生の息吹を感じることもない。
何より、住人は自らその部屋から出ることは出来ない。

*   *

【少年と幼い子】

少年が部屋での過ごし方に慣れた頃、突然現れたドアからその子は入ってきた。そして、乱雑に置かれた家具やらを見廻した。

それは少年が、少しは部屋らしくしてみようと思い立って整えた部屋だった。しかし、貧しい家に育った少年は、見栄えの良い家具など実際見たことも無かった。当然センスの良いインテリアと呼ぶ物には程遠く、幼い子の目にも、どうにも不思議な感じに写ったのかもしれない。

そして、その子が入ってきたドアは、そこから外へ出てみようと思う間もなく、元通りに消えて無くなった。

*

その子が泣いてばかりいるので、色んな遊びを考えた。
ただ、魔法使いのように欲しい物を頭に浮かべるだけで、何でも好きなだけ手にすることが出来るのだから、着替えることや食べることや、その他の何でも全てが“遊び”になった。

しかも、お互いの気持ちが、言葉にしなくても手に取るようにわかった。
だから名前を呼び合う必要も無かった。

*

少年の頭の片隅には、黒い服の男の言葉があった。
「この子を救う・・・」
それはきっと、キチンとした大人になる為の手助けをすることなのかなと漠然と考えた。

誰に決められた訳ではないけれど、時計を置いて一日の区切りをつけた。
そして毎日の決まり事を一つずつ増やしていった。
何だかとても楽しかった。
その子もいつしか泣かなくなった。

いつしか黒い服の男が言ったこと、そして黒い服の男のことも忘れた。

*   *

【男1と男2】

部屋に来たばかりの頃、泣いてばかりいた幼い子のために考えた遊びの一つが『バリーターク』だ。
最初、それはその子のパパとママを演じることから始まった。

少年の家族だったり、親戚や近所の人だったり、母親がよく見ていたソープドラマの登場人物だったり、記憶の中にある大人を総動員して“村人たち”が出来上がった。

もちろん少年らしい妄想も大いに発動させて。
情景を描写するト書きも考えた。
彼にはどうやらそちらの才能はあったようである。

幼い子は絵を描くのが好きだ。
少年がイメージする村人の絵を描いた。
そのうち『バリーターク』の村が出来、森や湖が出来た。

*

『バリーターク』の村人を演じていくうちに、幼子と少年は大人になった。
(男1と男2になった。)
実際には、どれくらいの時間が流れたのかはわからない。
あの部屋では、彼らが望むなら子供のままで居られたはずなのだ。
子供のままでは演じる役柄が限られてしまうので、自ら大人の風貌になっていったのかもしれない。

二人の生活には音楽が欠かせない。
男2がかつて大好きだった歌のレコードを架ける。
レコードが無くったって音楽は流れるのだが、そこは敢えて、レコードを架けたいんだろう。

*   *   *

Chapter3:予兆

【男2】

いつの頃からか、男1の様子がおかしい。
何かを目で追っていたり、何かが聞こえるような仕草をしたり。
寝ている時に苦しそうにしていることもある。

そしてそれと同じくして、昔のことを思い出そうと変な質問をしてくるものだから、男2もなんだかソワソワしてきた。
思い出さなくてはいけないこと・・・約束(?)があったような?

でも、きっとそれは今の生活を乱すもののような気がする。
思い出さない方がいいことなのだ。

でも、男1は急に痙攣が始まるようになった。
本当に放っておいても大丈夫なんだろうか?
居たたまれなくなって、思わず男1の頭にヘルメットを被せた。

*   *

【男3】

地上でまた新しい命が芽生えた。
そこに宿る魂を割り振るのもこの男の仕事である。
中空にある幾つもの部屋から、新しい命に適した魂を選ぶ。
部屋にいる者には内緒で、お試しで魂を飛ばしてみたりするのだ。

相性が良さそうだったら、いざこの男の出番である。

次の候補には、あの部屋の男1を選んだ。
この前から“お試し”を始めているので、体にも異変が出始めているかもしれない。そろそろ幻聴に悩まされている頃だろう。
(あれは新しい命が芽生えた母親の胎内に聞こえてくる、外界の音なのだ。)
魂が体と融合するための準備に入ったのだ。
今までは感じなかった痛みや、重さなどの感覚が芽生える。
会いに行かねば。

*   *

【男1】

彼は今日、初めてそれを見た。
飛んでいる 小さな黒い 羽根のついた?
思ってもいないものが、目の前に現れたのは初めてだ。
それは、彼の意志とは関係なく動き回った。
大きな羽音をたてて。

男2はそれに気付いていないようだ。
今までそんなことは無かったのに。
男1は見つからないように、それを鳩時計に隠した。

*

今日は黄色い花を見つけた。
それも突然現れて、勝手に開いたり閉じたりしている。

ここへ来てから、自分たち以外の生き物を見るのは初めてだ。
(どんなに念じても、生き物を出現させることはなぜか出来なかった。
うさぎの足が本当に5本なのか?確認したかったのに。)

そういえば、昔はそういうものに囲まれていたような気がする。
そういえば、僕は何処からここへ来たんだろう?
そういえば、ここは何処なんだろう?
そういえば、なぜ此処にいるんだろう?

僕は生きているんだろうか?
生きるって何なんだろう?

・・・あの声は何処から聞こえてくるんだろう?

男1の心に疑問が生まれた。

*

今日は自分の血が流れるのを見た。
急に自分の体が重たくなった。

なぜだか、ジョイス・ドレンチ以外の役はやりたくない。

*   *   *

Chapter4:訪問

【男3】

あの部屋に男1に会いに行った。
男1と男2は、仲良く楽しそうにやっていた。
どうやら自分の見立てに狂いはなかったようだ。

少年二人でよく頑張ったと褒めてやりたいところだが、お茶の作法だけはすっかり忘れてしまったようだ。
まぁ仕方ない。誰もあの部屋を訪ねる者は居なかったのだから。

*

しかし、男2がわざわざ金庫の上に腰掛けたのは、ちょっと意味がわからなかった。椅子を出してくれば良いだろうに。

そもそも、あの部屋になぜ、あのような金庫があったのだろう?
あれは、あの部屋には最も必要の無い物のはずだ。

金庫破りのゲームでもしていたのかな?
そういえば、彼らはごっこ遊びが好きなようだった。
重たそうに引きずる演技には、ずいぶんと力が入っていたっけ。

*

さて、彼らには最後の宿題を課してきた。
男2は自らの使命を思い出すだろうか?

今度の生命には男1が相応しいのではないかと思うが、万が一、男2が次の人生を歩み始めてしまったとしても、それはそれで仕方ないこととされる。少々生きにくい人生になるかとは思うが。
自分の見識も完璧では無い。
それが返って良かったなんてことも、たまにはあったりもするかも!?

彼らの魂は今、あの部屋の中を自由に飛び回っているが、今度はもっと小さなところに閉じ込められることになる。
肉体というその入れ物は、なかなか思い通りには動かすことも出来ず、ようやく慣れた頃にはくたびれ古びてきてしまうものだ。
でも、あの部屋の中にいては決して経験することは出来ない刺激的な世界が待っているだろう。
12秒間、今度は最後まで歩き通すことが出来るよう、心から願っている。

さて、そろそろ迎えに行く時間だ。

*   *   *

Chapter5:12秒の生

【男1と男2】

突然壁が開き、黒い服を着た男がやって来た。

*

男1は、この時を待っていたような気がした。
自分の感じていた漠然とした疑問に、その男は答えを持ってきた。
もうこのままではいられない。

*

男2にとっては、恐れていた不安がついに正体を現した瞬間だった。
知っていたはずなのに。いつか迎えが来ることを。
いつしか此処に、永遠に二人で居られるような気になっていたのだ。

自分はどうするべきなのか?
どうすることが、彼の為になるのだろう?

*
*
*


そして、壁が再び開き、男1は歩き出す。
新しい人生に向かって。

人生とはたった12歩の行程
ただし歩幅は人それぞれ
どの道を選び、どんな風に歩くのかは自分次第

心を決めた彼の顔には、希望の光が射している。

*   *   *

Chapter6:エピローグ

【男2】

いつか自分にも、再び旅立つ時が来るのだろうか?

残された男2の部屋のドアが再び開き、幼い少女が現れる。
そして、散らかった部屋を見廻す。
彼女が微笑んだ。

さあ。何をして遊ぼうか?

<おしまい>

*   *   *

≪補足≫ 
というわけで、“辺獄”“煉獄”に送られた魂が、同じ空間で共に生活する世界を創造してみました。これが宗教的見地から無謀なことなのかどうか、私は宗教について学んだこともなく、所謂一般的な(一応)仏教徒の日本人なのでさっぱりわからないのですが、どうか大目に見て下さい。

*   *   *

二人の会話の中に登場する“ウサギ”の話しが気になりました。
“ウサギ”は色々な意味合いを持っているようで、多産の象徴というのは有名ですが、The rabbit diedという慣用句には「妊娠した」という意味があるそうです。
(夢の中のウサギは死んでしまったんでしたっけ?そこのところ記憶が曖昧です。)
また、ウサギは精霊の使いとも言われているようで、男1の夢に登場したことと、部屋の中に虫が出現したり、花が咲いたりしたことと、関連があるのかもしれません。
あと、5本足の意味がわかる方がいらっしゃったら教えて頂きたいです。

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ちなみに、私の観劇は5月中旬のシアタートラムでした。
これは、その直後に忘れないように書き留めたものです。
あくまでも、私が観た時点で考えた、私の『バリーターク』です。
その後、演出も徐々に変化したようですね。
兵庫公演では男3の台詞や、ラストシーンにも変更があったとか?
(本国の原作に近い演出に代わっていたというレポを目にしました。)
それを見届けていたら、解釈が変わってきたのかも気になるところです。

KAAT神奈川芸術劇場×世田谷パブリックシアター 『バリーターク』
https://setagaya-pt.jp/performances/201804ballyturk.html