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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(16)


【第3章】 生活を整える 

11:からだの清潔 Personal Cleanliness


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病人の身体を不潔なままに放置したり、あるいは病人に汗やそのほかの排泄物が沁み込んだ衣類を着せたままにしておくことは、健康をもたらす自然の過程を妨げて患者に害を加えることになる。


〜不潔は毒となり、清潔は生命となる〜


わたしたちの体表を覆っている皮膚にはさまざまな機能があります。汗の分泌や老廃物の排泄、湿布やぬり薬などの体外物質の吸収、体内外の防護、体温調節や保温、感覚の察知と伝達に加え、最近では免疫機能も注目を集めています。病気になるとこうした皮膚の機能に不調が生じます。清潔は皮膚の機能を働かせる基本となる条件です。子供や重篤な症状の患者は皮膚からの排泄が多くなり汚れがちです。意識的に清潔を保つことが必要です。

皮膚を清潔にすることはこころにも影響を与えます。わたしたちは入浴やシャワーを浴びた後に、さっぱりとした気持ちになり、すがすがしさを感じます。ナイチンゲールは「(皮膚を丁寧に洗ってもらい、すっかり拭ってもらったあとに感じる)その解放感や安らぎは、生命力を圧迫していた何ものかが取り除かれて、生命力が解き放たれた、まさにその徴候のひとつなのである」と言います。

ナイチンゲールは「部屋と壁の清潔」と「からだの清潔」の2つに分けて清潔について述べました。人がいる〝場〟と人の〝身体〟の清潔は切り離して考えることはできません。ナイチンゲールは「(不潔であることで)皮膚から与えられた毒物は、口から与えられる毒物と同様、確実にその作用を現す。ただその作用が表に出てくるまでに時間がかかるというだけの違いである」と警鐘を鳴らします。不潔は毒です。


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いきすぎた清潔至上主義が、まかり通る。


新型コロナウイルス感染症の対策として、マスクの着用や手洗い、食器・手すり・ドアノブなど身近なものの消毒が求められました。一人ひとりができる感染予防の対策です。みんなが同じ意識を持って取り組むことで、感染を抑え込む効果が期待できます。いつまでも大切にし、根付いてほしい習慣です。

昭和から平成、令和の時代で、わたしたちの清潔に対する意識は大きく変わりました。平成生まれの人が昭和の中頃の暮らしを知ったら驚くに違いありません。暮らしのなかにいろいろなモノの匂いが溢れている、そんな印象でした。いまの暮らしに匂いはありません。匂いはあるのですが、それを発生させたり、感じさせたりしないようにしています。体臭や汗の匂いを防ぐデオドラントや洗濯物の芳香剤、部屋の匂いを除去する消臭剤など、その種類は数え切れません。

いきすぎた清潔主義にはさまざまな弊害があります。身体の本来の働きを阻害したり、化学物質による過敏症を引き起こしたりします。除菌も同じです。人間はもともと善玉や悪玉を含めいろいろな細菌と〝一緒に〟生きています。衛生に気を配ることは大切ですが、消毒がすぎると、人間が本来持っている免疫の力を損ねることにもなってしまいます。清潔は大切ですが、清潔至上主義になってはいけません。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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