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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(15)


【第3章】 生活を整える 

10:屋と壁の清潔 Cleanliness of Rooms and Walls


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病人の部屋に要求される徹底した清潔ということについて、
すこしでも理解しているひとは、その社会階級の上下に関係なく、
きわめて稀である。


〜清潔さは細部に宿る〜

ナイチンゲールが生きた当時の英国では赤痢やチフス、コレラなどの感染症が蔓延していました。街中や住居、病室の不衛生な環境がこうした状況を引き起こしていました。当時の人々の衛生に対する知識はほとんどなく、感染症を恐れこそすれ、衛生を気にかけることはありませんでした。医師や看護師も状況は同じでした。

当時の病室や患者の居住する部屋は吸湿性のある素材が多く使われていました。人の体から出る有機物や外から持込まれた土やゴミが染み込んでいました。加えて当時の清掃の方法はほこりをまいたたせ、他の場所に移動させるようなものでした。室内のほこりはダニやカビだけでなく細菌や花粉などを付着させます。ナイチンゲールは不衛生をもたらしている環境を考察し、素材選びや清掃の方法について改善策を示しました。

ナイチンゲールは「どんなに換気に努めてみても、清掃の行き届いていない部屋や病棟では、空気を新鮮にすることはできない」と言います。ほこりは「新鮮な空気を愛する人びとにとって疫病神」です。健康な人にとってはこの疫病神はすぐには影響を与えないかもしれません。しかし、病人にとっては深刻です。ナイチンゲールは「健康な人間には不思議な習性があって、自分には「がまん」できる些細な不便が、病人にとっては重い苦悩の種となり、それで死期が早まることはないにせよ、回復を遅らせる原因となることに、まるで思いが及ばない」と言います。細かなことへの配慮や気配りは看護だけでなく、わたしたちの日常の生活でも大切にしたいものです。


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日本人が靴を脱ぐ理由とは何か。

新型コロナウイルス感染症の対策でも部屋と壁の清潔は大切です。ナイチンゲールが本章で述べた内容は当時の英国の生活を前提にしたものでした。わたしたちは英国とは異なり、和を基本とした生活ですが、いまは洋式のスタイルを取り込んだ生活に変化してきています。和と洋が折衷する生活で気をつけるのはどんなことでしょうか。

日本人の生活スタイルの大きな特徴は靴を脱ぐことです。家の外では靴を履き、家の中では靴を脱ぎます。土間に当たる玄関には上がりかまちで室内との段差が設けられています。靴を脱ぐ習慣と合わせて、外からゴミなどが室内に持ち込まれることを防いでくれます。畳の上に布団を敷いて寝る習慣も日本独自のものです。毎日、布団の上げ下ろしをすることで、室内を簡単に掃除できます。他にも張り替えができる障子やふすまなど、日本の住まいには清潔を意識したいろいろな工夫があります。

日本人には清潔に対する感性が古来より備わっています。20年に一度、社殿をあたらしくつくりかえる式年遷宮もその一例です。日本方式の生活スタイルを再考したり、新たな発想で取り入れたりという動きはこれまでも数多くありました。新型コロナウイルス感染症対策をきっかけに、清潔という新たな意味がそこに加わるかもしれません。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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