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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(7)


【第3章】 生活を整える 

02:住居の健康 Health of Houses


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住民の健康を守るためには、つぎの5つの基本的な要点がある。

1.清浄な空気 2.清浄な水 3.効果的な排水 4.清潔 5.陽光

これらのどれを欠いても住民が健康であるはずがない。そして、これらに不備や不足があれば、それに比例して住民は不衛生となる。


〜住まいは、もう一つのわたしたちの身体だ〜

ナイチンゲールは住居が健康に与える影響を大きく捉えていました。当時は貧富の差が激しく、住居の環境が劣悪であったり、上下水道の不備であったりの理由から、5つの基本的な要点を実現したり、改善したりすることは困難でした。〝健康〟に欠けた住居は、人々の衛生観念の無知と相まって、多くの病気を発生させました。

ナイチンゲールの問題意識は深いものでした。住居の健康を啓発する一方、病院の構造や病室の設計にも考察を広げました。ナイチンゲールが考え、自ら設計したナイチンゲール病棟と呼ばれるスタイルの病院を各地で建設しています。感染症の患者の療養や院内での感染防止に役立つアイデアや仕組みがある、当時としては画期的なものでした。

わたしたちは住まいに対して効率性や快適性を求めます。家事の動線であったり、家族の団欒であったり、個別の空間であったりと、現代の家族事情や生活のスタイルが反映されています。しかし、そこに住民の健康を守る5つの視点を持って眺めたときにどんな光景が見えてくるでしょうか。衛生という要素は加味されているでしょうか。感染症への備えは今日でも必要です。


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新型コロナウイルスに考え方も感染していないか。

ナイチンゲールの時代の感染症患者に対する人々の考え方は「感染症患者には自分の安全を守るために寄りつかない」というものでした。患者が望んだり、必要だったりするケアでも、自分の安全を守るためには最小限のことしかしないという考え方でした。感染症の原因が解明されていない当時の事情を反映したものだといえますが、わたしたちの新型コロナウイルス感染症の感染者に対する考え方はどうでしょうか。

ナイチンゲールは当時の風潮に対して「真の看護が感染ということを問題にするのは、ただ感染を予防するという点においてのみである。患者に絶えず注意を注ぎながら、清潔を保ち、開け放した窓から新鮮な空気を取り入れること、それが唯一の防御策であり、真の看護師はそれを人々に求め、また、自らもそれを守る」と考え方を示します。感染を予防することと患者のケアは全く別のものだとしました。

新型コロナウイルス感染症の感染を予防することは大切です。しかし、感染者を必要以上に隔離したり、恐れたりすることは正しくはありません。社会のなかに感染した人が安心して治療を受け、療養できる仕組みと場をつくることは健康なわたしたちの責任です。感染症に日夜向き合う医療者や関係者に間違った見方をすることはあってはなりません。ナイチンゲールは「思慮深くこころをこめて患者を管理することこそが、感染に対する最良の防衛手段なのである」と言います。こころに刻みたいことばです。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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