見出し画像

ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(17)


【第3章】 生活を整える 

12:おせっかいな励ましと忠告 Chattering Hopes and Advices


画像1


およそ病人を悩ませ病人に忍耐を強いるものとしては、友人たちから
寄せられるこの矯正できない励ましの言葉かけ以上のものは、他にほとんど類がないのである。


〜あなたの満足のために見舞いはあるのではない〜


ナイチンゲールは章の冒頭で「病者より、忠告者の方々へ申し上げる」と言っています。病者とは自身のことです。療養生活を送っていたナイチンゲールが、友人や知人、家族からの励ましや忠告に心身ともに疲弊していたことが章の全体を通して吐露されます。患者を元気付けようとか、安心させようとか、良い方法を教えようとかいう善意から発した励ましや忠告が、患者を悩ませたり、忍耐を強いらせたりすることにもなります。

ナイチンゲールは励ましについて「病人が直面している危険を、わざと軽く言い立てたり、回復の可能性を大げさに表現したりして、病人に「元気をつけよう」とする、そのような行為は厳に慎んでいただきたい」と言います。慢性期の患者を想定していますが、だれにも心当たりがあるのではないでしょうか。患者は自分の病気についてよく知っています。たまに訪れる何も知らない見舞客の楽観的な意見に元気づけられることはありません。逆に気が滅入ったり、孤独を感じたりします。

ナイチンゲールは忠告についても「(実効性や安全性について知らないことを)患者に勧めて患者を悩ます友人や知人たち、彼らのずうずうしさは驚嘆に値する」と厳しく指摘します。それは「骨折を知らずに運動を勧める」ことであり、自分の考えの押し付けにすぎません。ナイチンゲールは「たった一人でもよいから、なんでも自分の思っていることを率直に話せる相手がいてくれたら、どんなに有難いことだろう」と思いを伝えます。見舞いとは何かを深く考えさせる言葉です。


画像2


バランス感覚を取り戻せ。


新型コロナウイルス感染症は、わたしたちの〝いま〟の考えかたや行動のしかたに影響を及ぼしています。だれもの頭のなかに新型コロナウイルス感染症をめぐるモヤモヤが入り込んでいます。それは致しかたないことです。

ナイチンゲールは病人や病弱者について「自分の身のまわりのできごとに対して《つりあい》の感覚に欠ける」と言っています。病気のことが中心となり、考え方がそこに偏ることで「他人の不親切や同情のなさなどに対して度はずれの苦痛」を感じてしまうのだそうです。病人の話を聞いていてそんな感じを受けたことはないでしょうか。

いまのわたしたちの状況はどうでしょうか。新型コロナウイルス感染症に関連して世の中でおこっていることに目を向けるとどんな光景が見えるでしょうか。「なぜそんなふうに」とか「どうしてそこまで」とか「それは間違いではないけれど」といった内容に驚くことはないでしょうか。その理由はなんでしょうか。それは〝つりあい〟かもしれません。新型コロナウイルス感染症に対する心配や不安が強いあまり、考え方や行動が偏ってしまっているのかもしれません。ナイチンゲールはつりあいを戻すには「広い世界の新鮮な出来事に関心を寄せること」と言っています。こんな状況の〝いま〟だからこそ広い視野で世の中をみることが大切です。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


画像3


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?