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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(10)


【第3章】 生活を整える 

05:変化 Variety


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長期にわたって1つ2つの部屋に閉じ込められ、毎日毎日、同じ壁と同じ天井と同じ周囲の風物とを眺めて暮らすことが、どんなに病人の神経を
痛めつけるかは、ほとんど想像もつかないであろう。


〜NO Variety, NO Life 変化がなければ、生きられない〜

日本語では変化と訳されていますが、原著では「Variety」です。「単調でないこと」を表し、「変わる」を意味する「Change」とは異なります。療養中に直面する制限や制約による単調で変化に乏しい生活を述べた内容ですが、背景にはクリミア戦争従軍から帰還後に体調を崩し、90歳で亡くなるまで自室で病を抱えながら仕事をしたナイチンゲールの体験があります。

変化とはなんでしょうか。わたしたちは、毎日の生活のなかで、仕事や家事の合間に休憩をしたり、散歩や買い物に出かけたりしています。気持ちを切り替えたり、心と身体をリフレッシュしたりしています。人は生きるために無意識に変化を取り入れています。変化を感じて生命のエネルギーを生み出しています。人には変化が必要です。ナイチンゲールは「単調な食事によって消化器官が損なわれるのと同じく、神経組織もまた、たしかに、この種の単調さによって損なわれる」と言います。

病気になると事情は一変します。自分から変化を生み出すことはできません。外から与えられない限り変化は感じとれなくなります。無意識の欲求が制限され、生命のエネルギーを生み出すことができません。病人は「あなたが知っているどんなに強い自制心よりもはるかに強い自制心を働かせている」とナイチンゲールは言います。変化は薬です。無用の用です。窓外の風景と一枚の絵、一輪の季節の花が患者の生命のエネルギーとなります。


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〝単調〟は〝変化〟の母である。

新型コロナウイルス感染症の物音とはなんでしょうか。それは情報です。意識的にせよ、意識的でないにせよ、情報は入ってきます。姿やかたち、中身がはっきりしない〝相手〟だからこそ、確かな情報や不確かな情報が入り乱れました。情報の渦に飲み込まれ、考え方や行動にいろいろな影響が生じました。

情報を得ることは大切です。では、正しい情報を得るためにはどうしたら良いのでしょうか。発信元が明らかな新聞やテレビの情報だけではありません。ホームページやブログ、SNSなどの発信元が不確かな情報もあります。真偽を見極めて振り回されないようにすることは困難かもしれません。しかし、ただひとつできることはあります。わたしたち自身が不確かな情報の発信者にならないことです。安易に情報の根拠や信頼性を確かめることなく反応しないことです。

ナイチンゲールは「あなた自身の心のなかに何らかの疑問やためらいのあるようなことは、たとえそれが些細なことであっても(私はむしろ些細なことのほうが良くないといいたい)、絶対に患者に伝えないこと。疑問はあなた自身の内にしまっておき、決定していることだけを患者に伝えること」と言っています。情報は〝ある〟のではありません。発信者が〝生む〟ものです。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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