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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(6)

【第3章】 生活を整える 

01:換気と保温 Ventilation and Warming

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良い看護が行われているかどうかを判定するための基準としてまず第一にあげられること〜それは《患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、屋外の空気と同じ清浄さに保つこと》なのである。


〜空気の〝感性〟を取り戻す〜

ナイチンゲールは「看護であること」の最初の条件として換気と保温をあげました。「細心の注意を集中すべき最初にして最後のこと」であり、「それを満たさなかったら、あなたが患者のためにするほかのことすべてが無に帰するほどたいせつなこと」とも述べています。

換気とは汚れた空気を排出し、新鮮な空気を取り入れることです。新鮮な空気はわたしたちの身体の健康の維持には不可欠です。わたしたちは外部から新鮮な空気を取り入れて生命の源となるエネルギーをつくります。そのエネルギーを使い生命の維持に必要な自然治癒力を発動させます。新鮮な空気がなければわたしたちは生きていくことができません。

わたしたちは日常生活で空気を意識することはあるでしょうか。空気は「あるもの」として捉えていないでしょうか。ナイチンゲールの時代と異なり、わたしたちの生活空間は機械的なシステムによって空調が管理されています。住居や職場、公共施設などで一定の基準が設けられ必要な換気が行われています。換気に気を使うことなく生活ができることは便利ですが、それと引き換えに空気に対する感性が鈍り、汚れた空気のなかにいることに気づかないことが増えていないでしょうか。

ナイチンゲールは「寒気」と「換気」の混同についても指摘しています。「部屋を寒くすることがすなわち換気では、絶対にない」と述べ、身体の保温の大切さを強調します。人間の体温は常に一定を保つように調整されています。寒気によって体熱が奪われ、体温が低下すると免疫力が低下します。「患者は常に、外から与えられる熱がちょっと不足しただけで衰弱するものである。こうした事態は季節を問わず起こるもので、暑い夏の真っ盛りの頃といえども例外ではない」とナイチンゲールは言います。寒気と換気に注意して常に室内の空気を新鮮に暖かく保つようにしましょう。


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ひとは閉鎖した空間に住む生きものです。

新型コロナウイルス感染症の感染を防ぐには「3つの密」を避けることが大切です。「密閉」「密集」「密接」です。新型コロナウイルス感染症は飛沫感染と接触感染により感染します。飛沫感染とは感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒に放出されたウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染することです。空気感染は起きていないと考えられていますが、閉鎖した空間や近距離での多人数の会話等には注意が必要です。

閉鎖した空間にはさまざまな汚染物が潜んでいます。二酸化炭素や一酸化炭素、ホルムアルデヒド、臭気などのガス状のもの、ダニや花粉、真菌(カビ)などのアレルゲンや細菌、ウイルスなどの粒子状(エアロゾル)のものです。細菌やウイルスの多くは粉塵やミスト(飛沫)と共に浮遊しています。こうした汚染物質がわたしたちの健康に悪影響を及ぼします。

地球上で人間だけが家や建物という閉鎖した空間に住む生きものです。閉鎖することで内部を安全で安定した環境に保つことができます。しかし、その反面、外部と遮断することで空気の清浄さを保つことが困難になります。「3つの密」のポイントは開放です。閉鎖した空間に集うことは人間の習性のひとつです。人間らしさでもあり、文化でもあります。そこは決して否定できないからこそ、常に空気の質に気を配り、空調のシステムに頼らない、換気の意識を持つことが大切です。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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