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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(12)


【第3章】 生活を整える 

07:食物の選択 What Food ?


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各種食品に含まれている「実質栄養成分量」をもとに食事の基準を決定
するにあたって、いつも無視されることがある。それは患者の身体は消耗からの回復に何を必要としているか、患者は何が食べられ、何が食べられないか、ということである。


〜胃の意見を聞いたことはありますか?〜


ナイチンゲールは患者に提供する食事について、食品分析表などから得られた数値だけではなく、患者の状態を観察した結果から導き出した条件で考えるべきだとします。「患者に何を食べさせるかを決める立場のひとの職務とは、あくまで患者の胃の意見に耳を傾けることであって、「食品分析表」を読むことなどではない」と言います。

「胃の意見」とはナイチンゲールの独特の表現です。身体の自然の営みから学ぶ姿勢が表れています。胃の意見を聴くには観察力が必要です。患者の状態を注意深く観察することで身体の消耗からの回復に必要な食事の条件を導き出すことができます。食事の内容はその条件から決定します。ナイチンゲールはこれを「選択原理」と呼びます。選択原理に従うことが「自然の明確な法則に導かれることになる」とします。

わたしたちは食に対して機能を第一に考えがちです。身体に良いことが理由になりがちです。栄養を考えることは大切ですが、それがすべてではありません。栄養の摂取だけが食事の目的ではないからです。人間には食べる力が備わっています。食事をとることで生命のエネルギーを生み出す力です。胃の意見は食べることを丸ごと捉えて、食べる力を引き出すことに他なりません。食べることを生命の営みのなかで考え、意識することです。もっと胃の意見に耳を傾けましょう。


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飽食の時代に、低栄養が存在する。

食べものにはいろいろな民間信仰があります。機能や効用をうたったものですが、科学的な証明がなされている訳ではありません。身体に優しく働くものなら良いのですが、なかには健康に悪影響を与えるものもあります。そのひとつに高齢者の食事についての〝常識〟があります。〝年をとったら野菜中心の食事にする〟〝年をとったら食べる量を少なくする〟といったものです。

こうした〝常識〟はすべて間違いです。高齢者だからこそ「肉や魚を意識的に」「3食をバランスよく」食べることが大切です。日本にはこうした間違った常識を信じている人たちがたくさんいます。日本の高齢者の2割の人は低栄養であり、およそ半数の人に低栄養のリスクがあるという事実をご存知でしょうか。飽食の時代と言われる現代に栄養が足りていない人たちがいるのです。

低栄養は健康な身体を維持し、生活するのに必要となる栄養素(エネルギーとタンパク質)が不足している状態です。低栄養は高齢者に見られる多くの病気の原因となるばかりでなく、介護が必要になったり、寝たきりや死に至ったりする危険性を増加させます。低栄養を間違った知識や思い込みが招いているとしたらどうでしょうか。低栄養は正しい知識を持つことで予防できます。正しい食事習慣が低栄養を遠ざけます。思い込みや常識は疑ってみることが大切です。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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