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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(14)


【第3章】 生活を整える 

09:陽光 Light


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太陽の恵みをいっぱいに受けて、部屋が明るく快適なこと、それは病気の治療に欠かせない条件である。


〜陽光あれ!〜


ナイチンゲールが暮らした英国は北海道より北に位置します。年間を通して日照時間も少なく、1日を通して天気が目まぐるしく変化します。雨具はいつも欠かせません。人々は陽光に対して特別な思い入れがあります。

ナイチンゲールは「太陽は、たんに光で描く画家であるばかりでなく、物質に働きかけて造りかえる彫刻家でもある」と言います。画家であり彫刻家であるという喩えはナイチンゲールの独特の感性です。太陽の恵みが実質的なものとしてわたしたちの健康に影響していることを示します。病室の患者はいつしか陽光の方を向いています。ナイチンゲールは「自然は必ず患者の顔をひかりに《向かって》向き変えさせる。しかも自然がもたらす光のほうへ」と理由を述べます。

ナイチンゲールは陽光の効用について、「身体への実質的な効果(回復過程)」、「室内の空気を浄化させる作用」「病気の予防」「健康の維持」「心理的な効果」などをあげています。太陽の光を適切にあびることは健康と生気をよみがえらせます。患者は1日のほとんどをベッドの上で過ごします。患者にとってベッドの位置は「窓の外が見え、たとえ何も見るものがない場合でも、空と陽光だけは見えなくてはならない」とナイチンゲールは言います。現代の病院事情では難しさもありますが、看護するものは常に心がけておきたいものです。


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太陽があるところには思想がある。

「密閉」「密集」「密接」の〝3つの密〟を避ける新型コロナウイルス感染症対策は「陽光」とも関係があります。陽光がないと〝3つの密〟の可能性が高まるからです。外に向かって大きく開いた窓から、新鮮な空気と陽光がたっぷり入り込み、すみずみにいきわたる、それは清浄さと清潔さにあふれた〝3つの密〟ではない空間です。

ナイチンゲールは「太陽があるところには思想がある」という哲学者の言葉を引用し、生命科学の成果はこれを裏付けると言います。「まったく陽のささない狭い街路の裏町や地下室には、人類の退廃と病弱がある—人間の身も心もともに退廃するのであろう。色あせしぼみかかった植物や、ひ弱で蒼白い人間を、太陽のただ中に置いてみよう。弱りすぎていないかぎり、どちらも健康と生気をよみがえらせるであろう」。

ナイチンゲールの高邁な思想と清廉潔白な性分がわかる言葉です。現代の都市環境や文化のあり方ではそぐわない部分もありますが、陽光という視点でわたしたちのこれまでの生活を捉え直してみることは大切かもしれません。陽光があるか、陽光がないか、という基準です。人間が考える効率性や有効性ではなく、陽光という自然の摂理を基準とします。これまでにはない「思想」が生まれるかもしれません。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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