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ナイチンゲールの足場から〝いま〟の わたしたちを見たら(11)


【第3章】 生活を整える 

06:食事 Taking Food


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〜食べることに知性をはたらかせる〜

身体に負担なく食事をとり、必要な栄養も摂取するにはどうすれば良いでしょうか。ナイチンゲールは「食」を「とり方」と「内容」の2つに分けて捉えています。この章では「とり方」を考えていきます。

「食物を摂れる時刻について考慮をめぐらす」とはどういうことでしょうか。規則正しくとるのではいけないのでしょうか。ナイチンゲールには「とらせる」のではなく「とってもらう」という発想の転換があります。食べる意欲がない患者に時間だからとか必要だからという理由で無理に食事をとらせることは自然の営みに反します。身体も衰弱している状態ですから、消化機能に負担を与えます。食べるタイミングを見極めることは患者の負担を最小にし、回復過程を妨げないことです。

ナイチンゲールは看護師が「食膳の運搬人」ではなく「知的な存在」であるならば「知性」を発揮することを求めました。「観察」「創意工夫」「忍耐力」は、食事の時間であり、食事の量であり、食事の環境を考えることです。ナイチンゲールは「非常に些細なこと」としながらあるエピソードを紹介しています。「カップの底は、いつもきれいに拭いておくこと。これを怠ると、患者はカップを口へ持っていくたびに受け皿を添えなければならず、そうしなければ雫がたれて、シーツやガウン、まくら、あるいは起きている患者であれば着物を汚してしまう。このちょっとした注意のあるなしが、患者の安らぎに、ひいては患者の食事を摂ろうとする意欲に大きな相違をもたらすのであるが、なかなか人びとは気づかない」。知性を発揮するとはこういうことなのでしょう。


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食物はあるのに、食事ができない。

新型コロナウイルス感染症の対策のひとつとして特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されました。不要不急の外出を制限され、行動の自粛を求められました。生活は一変しました。単調な毎日が続き、変化がなくなりました。自粛疲れといわれる心身の不調を訴える人も多く出ました。

ナイチンゲールは病人の強い自制心について述べています。自制心とは自分の感情や欲望をコントロールすることです。自粛生活中のわたしたちもある意味、病人と同じように自制心を働かせている状態であったかもしれません。自制心を働かせて家に居ることが増えました。いつもは顔を合わせない家族が顔を合わせるようになりました。地域のなかでいろいろな用事を済ませるようになりました。

自制心を働かせた単調な毎日が変化を生みました。会社や商業施設が集中するエリアから地域に人が戻ってきました。地域で生活をするようになりました。本来の生活圏に戻ったという見方もできるかもしれません。ずっとではないかもしれません。元に戻るかもしれません。しかし、変化は起こりました。これからを考えるとき、この小さな〝変化〟はどんな大きな〝変化〟に結びつくのでしょうか。


ひとりでも多くの人にナイチンゲールが言う「生活を整える」ことの大切さを伝えたい…、そんな願いからnoteで発表することにしました。本記事は一般社団法人チーム医療フォーラムの季刊誌『ツ・ナ・ガ・ル』35号(2020年6月発行)の特集記事を転載したものです。ほぼ毎日「1章」か「1節」ずつ記事を掲載していきます(下記の目次をご参照ください)。

※本記事は以下に記載した文献を出典とし、参考にしています。 看護覚え書 フロレンス ナイチンゲール (著) 現代社、新版 ナイチンゲール看護論・入門 金井一薫(著) 現代社 白鳳選書、ナイチンゲール言葉集 現代社 白鳳選書、ナイチンゲールの『看護覚え書』金井一薫(著) 西東社、看護覚え書きフロレンス ナイティンゲール (著) 日本看護協会出版会、フロレンス・ナイチンゲールの生涯 宮本百合子 (著) Kindle版、他。
・記事監修:秋山和宏(医学博士、東葛クリニックみらい院長)


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