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対談4 中島 佳人さんに聞く、就学支援のすすめ

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは高橋真さんが各分野の専門家を訪ねて聞いた、多様な視点と具体的なアドバイスをご紹介していきます。

第4回目となる今回は、コピーライティングを専門とされており、本プロジェクト名「みんなで就学活動」の生みの親である、中島佳人さんを訪ねました。

中島 佳人(なかじま・よしと)
コピーライター。ナカジマ製作所代表。大学卒業後、会社員経験を経てコピーライターに転身。マンション広告や街づくりなど、暮らしに寄り添うブランドコミュニケーションやコンセプトメイク、広告表現など実績分野は幅広い。ユーモラスな言葉づくりでわかりやすく伝えることを得意とし、社会課題の解決も難しい話を優しく伝える。「みんなで就学活動」のプロジェクト名や、「わたしの”こうしよう”術」の名付け親。また、大学など単発で、2時間でGood Changeが起きてしまう等をテーマに、コピーライター・ワークショップも開催。ナカジマ製作所のホームページはこちら

難しい話をやさしく、少しでもポジティブに

高橋 真(以下、高橋さん) 中島さんは普段コピーライターとしてどんなお仕事をしているんですか?

中島 佳人(以下、中島さん)いろんな分野の企業や取り組みに関わっています。たとえばマンションや暮らしに関するデベロッパー企業の広告やウェブサイトのコピーは、もう20年以上担当しています。あと社会課題やソーシャル活動と呼ばれるような活動のお手伝いも多いですね。例えば、妊産婦の方や子育て家庭の子育てに対する不安を和らげる表現として、子育て環境を童話のプリンセスに例えた子育て環境診断・スキル向上ウェブサイト「もしプリ」のコピーライティングを担当させていただきました。

中島さん また、大きな花火大会でゴミのポイ捨てが問題に挙がり、花火鑑賞マナーのポスターを作ることになったんですが、どうしたらより効果的に「ゴミを捨てないで」というメッセージが伝わりやすくなるのか、と考えて、ユーモアを交えたカルタ風の広告コピーを作ったりしたこともあります。たとえば、「捨てたら悲しい 両手のゴミと マナーの心」とか、その他のマナーとして「きれいだね 花火と恋人 両方ほめよう」とか「花火見る 準備とトイレはお早めに」等です。

高橋さん ゴミはちゃんと捨てよう、ということがポジティブに転換されていますね。

中島さん 「ゴミを捨てるな」と、ただ言うだけでは反発心をもつ人もいるかもしれないですし、少し別の角度からカジュアルに、気軽な感じにもっていきたかったんですね。こういう方法や言葉は普段から意識していることかもしれません。

高橋さん 中島さんはわたしたちのこの「みんなで就学相談」という名称や、活動におけるコンセプト文を書いてくださって、やはりポジティブで明るい言葉を使ってくれました。この時はどんなことを意識されていたんですか?

中島さん 最初にお話をうかがったときに、支援の必要な子どもたちの学校選びを「みんなで考えることにしたい」「社会の課題にしていきたい」というお気持ちを聞かせていただいて、それなら伝わりやすい言葉が欲しいと思いました。単純に言葉として多くの人に口に出してもらえる言葉がいいな、と。

事前に高橋さんやissue+designさんから教えていただいた話の中に、「就学相談」という言葉があること、すでに支援が必要なお子さんの保護者たちには定着しているものの、厳密には「就学相談員さんとの相談」を指す言葉であって、その前後にある準備や出来事は含まれないこと、そうした使われ方には違和感もあるため、結局は就学相談に関するいろんなことをひっくるめて「就学活動」と呼んでいることなどを聞いたんですよね。その時なんだか少し、「就学活動」という言葉にメジャーな感じがするというか、こういう活動をする人がこの世界に存在しているんだよ、と周りに伝わりやすくなるように感じたんです。仕事を探す「就職活動」と響きが似ていて一見まぎらわしいかもしれませんが、かえってそこが引っかかりとなり、「就職じゃなくて、就学活動なんだ」って記憶に残ったり、話題が広がっていけばいいのかなと思いました。


「みんなで」がつなぐ保護者同士の励まし

高橋さん 就学活動をしている保護者は、どうしてもつらい思いをすることがあるんです。でも「つらい、つらい」と言っていても次に進まないので、みんな子どもや自治体、学校と向き合いながら、そのつらさと向き合って取り組んでいます。だからせめて、前向きな言葉で少しでも誰かの力になったり、仲間がいるんだと伝えられたり、子どもの将来を見据えて行動できるようできるようなメッセージが必要で、こういう明るさはとても大切だと思っています。

中島さん そうなんですよね。まさに「みんなで」っていうのがこの活動が目指す大きなポイントだと思いました。僕自身も経験があるのですが、就学活動のときって、本人と保護者だけではなく、いろんな人が関係しているんですよね。他の兄弟や家族、学校の先生、地域の人たちも。まさにこれは本当にみんなの課題なんだよっていうことを強調したかったですし、あともうひとつ、孤独でつらいときは自分の視野が狭くなって、どんどんネガティブになってしまうので、つながりのある言葉を使って、みんな仲間なんだってことも示したかったです。

どうしても家族や学校の先生、もしくは相談員さんと意見があわなかったり、相手に対してネガティブな気持ちを持つこともあると思うんですけど、コミュニケーションの大切さは忘れないでいたいです。いつも同じ方向をみんなで向くのは決して簡単ではないですが、責めあっても仕方ないですから。あと、自分自身の気持ちをケアすることも忘れちゃいけない大切なことだと思っています。

高橋さん 中島さんが経験された就学活動について伺っても良いですか?

中島さん 僕よりも妻の方が主にやってくれていたのですが、子どもが学習面での支援が必要だったんです。グレーゾーンなこともあり、最初は地域の小学校に入ったんですが、だんだん勉強が大変そうになってきて、僕らも子どもの勉強をサポートしていました。結果的に、小学校5年生から支援級に転校しました。仲のいいお友達と離れてしまったのがかわいそうだったんですが、勉強に関してはとても楽しそうに、のびのびと取り組めるようになりました。すごく良い先生に恵まれて、うちの子の良いところを伸ばそうとしてよく見て褒めてくれるんですよ。

高橋さん そうだったんですね。では入学する学校を決める就学相談というよりも、入学後の支援に関する移行支援を経験された、ということですね。新しい学級がお子さんにとって快適なら何よりの選択だと思います。そうしたご経験は、この「みんなで就学活動」の言葉選びにも影響がありましたか?

次の一歩を少しでも踏み出す人に届けたい

中島さん 「みんなで就学活動」もそうですが、サブコピーである「障害のある子と親のための小学校就学の”こうしよう"術を学ぶ」は自分の経験が効いているかもしれません。自分たちの思いや希望をちゃんと伝えたり、相談員さんや学校の先生の意見もちゃんと聞く、どこが譲れなくて何なら譲れるのか、これはまさに「交渉」が大事なんだと痛感しました。ただ、言葉として「交渉」は、僕にとってものすごく硬く感じて、少し攻撃的な空気も感じてしまいかねない気がしたんです。それで、ダジャレで柔らかく、クスッとするようなイメージの言葉にしようと思いつきました。どうにかして相手に勝ってやろう、と力んだ話し合いとは違って、まず親御さん自身の気持ちや「こうしよう!こうしたい!」という考えを遠慮なく伝えて、関係してる人同士が平和的に、うまくコミュニケーションできることが必要だと思っています。

それと個人的には、「なんでも完璧にすることは無理」という気持ちもどこかにあります。その時、その時に出来ることを目一杯するだけ。仮にどこかで妥協したり譲ることになったとしても、それはそれで良い部分があるはずで、そのときの選択の全部がダメなことはないはずだと思ってるんですよ。

より良い方向に自分自身を集中させて、一歩でも進めたらそれで良し。もしもちょっとしんどくなったら少し立ち止まって、それでまた知恵を出し合って、また一歩踏み出せるように考えてみる。その繰り返しだと思います。そうやって軽やかに、どんどんやっていけたら良いですね。

高橋さん  就学活動に取り組むにあたっての心の持ちよう、言葉のもつ力など、中島さんのお話にいろいろな気づきがありました。また中島さん自身も、ご家族でお子さんの学びについて考える仲間であり、一緒にこのプロジェクトに取り組めたことをうれしく思います。私たちも「みんなで」「こうしよう」と思いながら就学活動を進めていけたらと思います。

高橋さん  こうして中島さんが前向きな言葉をつけてくれたおかげもあって、保護者ではない支援側、つまり看護師さんとか学校の先生とか、支援の必要な子どもの団体をしている人とか、いろんな支援側人たちもこの活動に参加してくれる割合が多いんです。これは想像してなかった出来事で、わたしは保護者ばっかりになると思ってたんですよ。でも毎回いろんな方が参加してくれるおかげで、それぞれの立場から気づいたことや専門的な話をしてくれて、私自身もすごく嬉しいです。中島さんの言葉のような、まさに「みんなで」な感じになってきました。

中島さん それは素晴らしいですね。みんなどこか「役に立ちたい」とか、そういう気持ちがあるのかもしれないですね。保護者にもわからないことがたくさんあるから、「ここ(みんなで就学活動)に来たらいろんな人がいる、というプラットフォームが存在するだけで、多くの人の気持ちが励まされると思います。ついつい目の前のことで精一杯になっちゃいますが、本当は子どもにとってどんな環境が望ましいのか、どんな人生であって欲しいか、ということなんですよね。本質的にはそこを一心に見つめることが大事なので、一歩、または半歩であっても、前に進めることを手伝えていたら嬉しいです。

高橋さん  ありがとうございました。言葉のプロ、そして支援が必要な子どもを持つ中島さんは「みんなで就学活動」の名づけ親としてぴったりの方だったと思います。保護者同士も、保護者・子どもと支援者も、保護者・子どもと地域も、”みんなで”就学活動にのぞみその家族の納得いく形ですすめられるといいですね。


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