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対談5 オレンジキッズケアラボ・戸泉めぐみさんに聞く、就学支援のすすめ

「みんなで就学活動」は、支援の必要なお子さんが小学校に就学する時にご家族が遭遇する困難や悩みを知るとともに、自分たちにとってより良い選択を描きながら就学できるようにするための“こうしよう”術を、みんなで対話し、つくりあげていくプロジェクトです。
ここでは高橋真さんが各分野の専門家を訪ねて聞いた、多様な視点と具体的なアドバイスをご紹介していきます。

第5回目となる今回は、福岡県で医療的ケアを必要とする子どもと家族を支援する施設オレンジキッズケアラボで活動していらっしゃる、戸泉めぐみさんを訪ねました。

一般社団法人Orange Kids’Care Lab.(オレンジキッズケアラボ)
福井県福井市にある、医療的ケアを必要とする子どもと家族を支援する施設。病院生活を終えた後の生活相談や助言を行う他、日中の預かり、訪問型支援、就学に向けたサポートなど、医療的ケアの必要な子どもと家族を支える多数の事業を展開する。「誰もが安心して暮らせるまちづくり」のため、個人によって異なるさまざまなニーズを共に考え、話し合いながら前例を作り出す支援のかたちは、多くの子どもに新しい可能性を切り開いている。(ホームページ


一緒に目指すそれぞれのネクストステージ

高橋 真(以下、高橋さん) 代表理事のおひとりである戸泉めぐみさんをお迎えしました。オレンジキッズケアラボ(以下、ケアラボ)さんでは、人工呼吸器や胃ろうといった医療的ケアを必要とするお子さん(以下、医療的ケア児)たちの就学活動もサポートされているそうですが、実際にはどんなケースが多いのでしょうか。

戸泉めぐみ(以下、戸泉さん) ケアラボに通い児童発達支援にも慣れてくる過程では、ご家族の皆さんも、いろんなことを吸収しながらお子さんが成長されていることを実感されていきます。そこから「地域の保育園や小学校に通わせたい」というお気持ちにつながることが多いようです。

最初はケアラボに通っているお子さんたちを対象に支援していましたが、今ではケアラボを使っていないお子さんのご家族からも「どうしたら地域の幼稚園に行けますかね?」と相談されることが出てきました。また最近はこの地域で、わたしたちの就学支援に関してご存知の方も増えたようで、病院施設から「地域の保育園を希望している患者さんのご家族にアドバイスをお願いしたい」というお問い合わせをいただくことも増えました。

高橋さん 実際に地域の保育園や学校に入る希望が叶ったお子さんたちはいらっしゃいますか。
戸泉さんこれまでに地域の子ども園もしくは保育園に通えたケースが13名、公立の小学校に入った子が4名、中学校に入った子が2名、特別支援学校ではない県立の普通高校に行ったのが1人、全部で20名います。公立小学校に入った4名も、気管切開をしていたり、胃ろうやストーマなどのケアを必要とするお子さんたちでした。

みんなの合意形成をつくる「なぜ」の確認

高橋さん 就学先に関するご相談を受けた時、どんなことに気をつけていますか。

戸泉さん ご希望のお声としては「教育委員会に特別支援学校を勧められたけど」とか、「とにかく地域の幼稚園・保育園に入れたい」などさまざまですが、わたしたちはまず、なぜそれを希望するのか、誰が希望しているのか。親御さんなのか、お子さん本人なのか、もしくは両方なのかといったことを確認しています。地域の学校に入れることが必ずしも良いとは限らないですし、特別支援学校が悪いなんてことはありません。そこを希望する目的はなんのためか、明確にすることは非常に重要なことです。

例えばお母さんの希望が強い場合でもお父さんはどういうお考えなのか、お子さん本人の希望が置き去りにされていないか、保健師さんやケアラボなどで関わるスタッフ、入学希望先の先生や教育委員会など、できるだけその子に関わる全員の意見が一致できる状況が望ましいです。

福井の事例にはなりますが、保育所などでは支援の必要なお子さんが年長さんになった4月頃、該当するお子さんに関する情報を進学先の教員に伝えることになっています。その際、学校に入ったらどんなサポートが必要なのかをお子さんのご家族に聞き取る調査も行います。そのため学校のことでわからないことがあるような時は、わたしたちも説明しながら一緒に就学希望先を考えるようにしてるんです。

気持ちの強いチームをつくる

高橋さん 就学先を決める上で関係者みんなの希望を統一させておく重要性は理解できました。ではみんなの意見を揃えられるようにするには、どういった準備をしたり、考え方の整理の仕方があるのでしょうか。

戸泉さん まずは学校の見学に行くことですね。通えるとしたらここがいいな、と考えている学校をできれば2箇所以上、比較のために見に行って欲しいです。学校全体の雰囲気や教頭先生の対応、子どもたちの様子などからイメージしていた就学先と繋がるかどうか、入学を希望する理由や目的がここなら果たせると感じられるかどうかを見て欲しいです。

個人的には、設備などハード面についてはある程度”どうにかできる”ことでもあると思っています。例えば、手を洗う位置がうちの子には高すぎると思っても、踏み台の用意や別の洗面台を新しく設置することだって無理ではありませんし、特別支援学級が大人数でワチャワチャしているように感じても、安全に配慮してくれることやもうひとつ別の特別支援学級がつくられることもあります。見学時の学校の状態だけに当てはめる必要はなくて、それよりも雰囲気を感じ取れるかどうかが重要だと思います。

もしも教頭先生が子どもに目線を合わせて「ここでみんなと一緒に勉強したい?」と声を掛けてくれたら親御さんは安心するでしょうし、逆に「うちの学校は今まで医療的ケア児の前例がないので」なんて最初からがんばってもらえなさそうなことを言われたりしたら、入っても大変だと感じるはずです。

高橋さん 学校の文化や雰囲気は、ハード面のように簡単に変わらないですものね。

戸泉さん そして見学後「良かった、あそこに通わせたい」あるいは「あの学校はダメだった」といった感想もまた、なぜそう思うのかを一緒に考えるようにしています。仮にダメだと感じても、それ以外の良い点を取った方が目的が叶うかもしれないからです。そうして希望する気持ちを具体的に明確にした上で、教育委員会に希望先を伝えると良いと思います。

高橋さん 地域の小学校に通わせるために、小学校前の段階、つまり幼稚園や保育園を選ぶ時から地域の園を希望する親御さんもいると思うのですが、その時も同じでしょうか。

戸泉さん 基本的には同じで、やはり「なぜ地域の保育園に通わせたいのか」を明確にしてもらうことをしています。しっかり言葉化しておくと、見学に行っても園長先生にその思いを伝えることができますから。その時もやはり、わたしたちケアラボのような施設スタッフや、主治医、ご両親や祖父母などご家族、それからいつも訪問看護などで関わってる看護師など、全員でチームになることが重要です。もしもうまくいかないことが起きても、みんなで「なんでここに通わせたいんだっけ?」という原点に立ち帰ることができます。それができると、へこまずにまたがんばれるんです。

高橋さん  ご家族がチームを作るタイミングって、どんな時なんでしょうか。

戸泉さん 入りたい保育園や就学先が見つかったときでしょう。希望した先から「どんなお子さんか教えてください」と言われて、園長先生などに会いに行く時も、できるだけチームみんなの予定を合わせて行くのが良いです。

医療的ケア児を受け入れる園にとって、どうしても気になるのは病状のことですから、いつも見ている看護師さんが説明したり、わたしたちケアラボのような施設スタッフが「いつも元気に、朝から夕方まで体調も崩さずに通えています」と普段の様子を伝えられることは非常に大きな判断材料にしてもらえます。また入園後も、ケアラボと併用するかたちが可能ですとご提案することもあります。例えば土日に体調を崩しやすい子だったら、月曜だけはケアラボに来て火〜金曜だけ保育園に行くとか、週2と週3で併用しながら少しずつ保育園を増やすとか、入園後も引き続きサポートする姿勢を示すと保育園側も安心してくれますね。

またこれはお子さんの状況によっても違ってきますが、できるだけ自立できる分野を早い段階でつくるサポートも重要だと考えています。自分で痰吸引ができるとか胃ろうができるようなら、「自分でできるからその点について看護師は要らない」と言うこともできますからね。これまでも、保育園のうちに吸引や胃ろうを自分でできるようになった子が3〜4人はいます。

将来のために練習しておきたいこと

高橋さん 将来を見据えた自立支援、とても大切ですね。最後に、小学校入学前に心掛けておくといいことや、将来を見据えて早くからしておくと良いことなどを教えてください。

戸泉さん 地域に出るとたくさんの人と出会うことでしょう。もしもみんなと同じ言語でコミュニケーションすることが難しい場合は、なんとか家族以外の人とコミュニケーションできるように、表情とかジェスチャーとか、ツールを使った意思表示の方法を模索しておくことです。親御さんのように長時間ずっと一緒にいる人でなくてもわかる意思表示があると、ケアする方や本人にとってもとても助かることに繋がります。そのためにも早いうちから、訪問看護やヘルパーなどの専門職の他にも、イベントや外出等を通じて、お子さん本人がいろんな人に出会っておくことはとっても大切です。

ここ数年いろんな団体や施設などからお問い合わせいただくことも増えたのですが、医療的ケア児に関する活動は毎回が手探りで、「こうすればいい」といったマニュアル化が難しいと思っています。ただそれでも、これまでの事例や学びから次に活かせる何かを考えて絞りだしたポイントが7つあって、医療的ケア児に関する勉強会などでお伝えしています。

この7つを頭に入れておくと、もう動くしかないって気持ちが湧いてくるんです。
高橋さん医療ケアのあるお子さんの就学活動についてのお話でしたが、すべての人に通じる学びがありました。特に最後の7つのポイント。地域に出て子どもを知っている人を増やすこと。本人を主語として話し、チームを作り、それぞれができることを実施すること。課題はつぶすのではなく「どうしたらできるか」を考え、前例を作っていくこと。皆さんも就学先を決めるにあたり、また活動するにあたり折に触れて思い返せるといいですね。



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