阿佐ヶ谷レコード

AIによるレコメンドにちょっと疲れた人に。架空レコード店の店長がオススメする音楽、映画…

阿佐ヶ谷レコード

AIによるレコメンドにちょっと疲れた人に。架空レコード店の店長がオススメする音楽、映画、漫画などの数々。失われてしまった、かけがえのない日常にそっと寄り添い、ときに背中を押してくれるような、そんなお店でありたい。

最近の記事

バカで幼稚で情けない全ての男たちへ…映画「泣く子はいねぇが」で泣き叫べ

本当にどうしようもない。仲野太賀演じる主人公には、その言葉しか浮かんでこない。吉岡里帆演じる妻との間に娘が生まれたばかりだが、夫婦仲はかなり険悪な様子。なんとか家族を再建したいと思ってはいるのに、それとは真逆な行動をして破滅。そのせいで、妻からは三行半を突きつけられ、地域にも迷惑をかけ、兄の結婚は破談に。そこから逃げるように故郷・秋田から上京して数年奮闘するも、やっぱり元妻や娘が忘れられずに帰郷してしまう…。 本当にどうしようもない。けれど… これを書いてるだけで、「本当に

    • 世界を救ってきた言葉と音 #4 スピッツ「波のり」

      長いキャリアを持つ「スピッツのベストアルバムは?」という問いほど難しいものはない。グランジ・オルタナ感が強い初期のヒリヒリした作品群が好きな人もいれば、「ロビンソン」以降のヒット曲連発時代こそ至宝という意見もあるだろうし、なんなら今のスピッツが…というファンもいるだろう。まぁ、どの時代も最高なのがスピッツなんですけども。 そんな中、アルバム「惑星のかけら」(1992)に収録された「波のり」は、そこまで人気のある曲とはいえず、wikipediaにはこのような記述がある。 メ

      • 世界を救ってきた言葉と音 #3 冬にわかれて「もうすぐ雨は」

        エッセイストとしても著名なシンガー・ソングライターの寺尾紗穂、星野源や細野晴臣など錚々たる面々のサポートベーシストとしても活躍する伊賀航、片想いとしての活動やソロ名義でのリリースも素晴らしいポップマエストロ・あだち麗三郎からなる3人組。「もうすぐ雨は」は、セカンドアルバムとなる「タンデム」(2021)の収録曲。 もうすぐ雨は止むんだよと 君は僕に言ったけど 雨が止んだら元通り 虹が出る日もあるのかい 今から出たら多分、あの橋のあたりで 僕ら会えるだろう 行けるところまで行く

        • 世界を救ってきた言葉と音 #2 Bjork「Joga」

          アルバム「Homogenic」(1997)の収録曲。雨のフジロックで披露された後、小さくキュートな声で「アリガト、ベリーマッチ」とささやいた瞬間を忘れられない。強い。この人は、この声は。その強さとは屈強を意味するところではなく、むしろその逆だ。可憐で儚げな小さな生物の内部から、まるでマグマのように吹き出す感情と、こんな言葉。 State of emergency, 緊急事態 How beautiful to be, なんて美しいところなの State of emergenc

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          世界を救ってきた言葉と音 #1 Fishmans「IN THE FLIGHT」

          Fishmansの7枚目にして、最後のオリジナルアルバム「宇宙 日本 世田谷」(1997)に収録。作品全体で見れば、シングル「MAGIC LOVE」やライブ定番曲「WEATHER REPORT」などと比較すると、やや地味な曲ではある。しかし、弱々しく着地点を見つけられないままの佐藤伸治の歌声が、奇跡的なフレーズを奏でる瞬間の「静かな高揚感」といったら…! ドアの外で思ったんだ  あと10年たったら なんでもできそうな気がするって でもやっぱりそんなのウソさ やっぱり何も出来

          世界を救ってきた言葉と音 #1 Fishmans「IN THE FLIGHT」

          記憶をなくしながら生きること。映画「万歳!ここは愛の道」に寄せて

          嫌な記憶をすべて忘れてやり直したい。誰であれ、生きていれば、そんなことを思うことは少なくない。事実、忘却機能は人間の防衛本能でもある。辛い体験や、ショックな出来事などを、そのままの強度でずっと受け止め続けられる人はいない。いたとしたら、きっと生きていくことは……。映画「万歳!ここは愛の道」は、監督の⽯井達也(現・達上空也)が、2年分の記憶を失ってしまった彼女との関係を撮り続けた、嘘のような本当の、本当のような嘘の話だ。「私は、生きていくために記憶を消したんだろう」と彼女は語る

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          生きることがちょっと苦手な人のためのヒーロー「大丈夫マン」

          そもそも「それ」が得意な人がいるのか疑問ではある。いつもうまくやっている同僚や、すぐに恋人ができる友達、怪しげなネットサロンで語る成功者にも、それぞれに悩みがあり生きることがしんどいと感じる時があるのだろう。それをなんとなく頭では理解しつつも、やっぱり自分は本当に「生きることが苦手だなぁ」と感じてしまうことが最近多い。じゃあ、いっそのこと、やめちゃえば…というわけにもいかない。仕事や学校や人間関係ならば、思いきって逃げ出すこともできる。でも、生きることを、おいそれとやめるわけ

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