見出し画像

世界を救ってきた言葉と音 #2 Bjork「Joga」

アルバム「Homogenic」(1997)の収録曲。雨のフジロックで披露された後、小さくキュートな声で「アリガト、ベリーマッチ」とささやいた瞬間を忘れられない。強い。この人は、この声は。その強さとは屈強を意味するところではなく、むしろその逆だ。可憐で儚げな小さな生物の内部から、まるでマグマのように吹き出す感情と、こんな言葉。

State of emergency,
緊急事態
How beautiful to be,
なんて美しいところなの
State of emergency,
緊急事態
Is where I want to be.
私の望む場所はそこ

現在、2021年の4月。この国でもコロナの影響で2度の緊急事態宣言が出され、社会は一変し、人々は疲労困憊。僕も。そしてきっと君も。できたらコロナのない世界線に行きたいし、それは無理だとしても「もう、こんなのまっぴらだ!」。そのストレスで、気付けば他人に強く当たってしまったり、当たられたり、なんだか過度に傷ついてしまったり。

しかし、この不思議な生物は歌う。「緊急事態、なんて美しいの。それこそ私の求めていた場所だ」と。もちろん、1997年と現在の「緊急事態」についてのイメージが同じかは疑わしい。しかし、それがどうにも苦しくて、きつくて、もうまっぴらだと感じてしまう場所、というのは同じなのではないか。

そしてふと思う。
この世界が緊急事態ではない時なんて、実はなかったんじゃないかと。世界は、そして君のライフは、常に緊急事態に直面し、またはその渦中を生きてきた。業田良家の「神様物語」に登場する神様は、そんな世界を「豊潤」と表現した。戦争、飢餓、疫病、殺人……そんなネガティブな要素も世界には必要で、それがあるからこそこの世界は豊潤で素晴らしいと。

と、そこまでの境地になれたら本当に神の領域だが、こんな「まっぴら」な世界こそ、自分のいるべき場所だと歌う強さ。その境地に思いを馳せてみるのも悪いことではないかもしれない。外出自粛で人に会えない、誰もが疲れてしまったこんな時代でも、公園に咲いた桜は美しかった。ビバ・世界。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?