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読書記録 ⁑ 物語のおわり 湊かなえ

ストーリー:それぞれに悩みや迷いを抱えた人たちが、思い出の地、北海道を訪れる。旅の途中で彼らが出逢ったのは、『空の彼方』という結末のない物語。それは、夢を持つ一人の女性が、人生の岐路に立たされる、というところで終わってしまう。バックグラウンドの異なる彼らが、それぞれに導き出した『空の彼方』の結末とは?そしてそれは、彼らの明日に向けたささやかな決意でもあったー。



私の知っている湊かなえさん小説は、人間の怖い心理を巧みに織り込んだミステリー、というイメージ。これは、、なんだか違う。

それぞれの章では、バックグラウンドの違う登場人物たちが、各々の目線から、『空の彼方』を読む。もちろん、物語の捉え方が、全然違う。ふむ、”立場が違えば考え方も違う”、頭では分かっている。でも、じゃあ、具体的に、どういう考え方で、どういう葛藤があって、その結末に辿り着いたのか、、それって、実際にその人の立場になってみないと分からないものだ。単に想像だけじゃ辿り着けないことがある。相手の人生を、一緒に見なきゃ。そんなことを、理屈じゃなくて感情から、教えてくれる。彼らが結末を見出す過程に、心が震えた。
そして迎える最終章。ほお、そういうことか!湊さんのからくり、やはり凄い。ハートフルで、明日を生きる力をくれる小説、、だけじゃなくて、ストーリーの構成にも感服致しました。

物語の舞台となっている、北海道の自然の描写も素敵。彼らの悩みをスーッと吸い込んで、背中を押してくれるような空気感を、文章から感じられる。もう、なんという表現力。何かに行き詰ったとき、大自然の中に身を置きたくなる理由が、なんとなくだけど、分かった気がする。北海道、行きたい。



―『空の彼方』の結末を、私だったらどうするだろう?

絵美は、両親もハムさんも振り切って、夢を追いかける。でも、現実は甘くない。打ちひしがれることもある。それでも灯を絶やさずに夢を追う日々。そうして、心がボロボロになったある日、ふらりと、故郷に帰る。家族が、おかえり、と迎えてくれる。何も聞かず、あの日のことを咎めることもなく、ただ、受け入れてくれる。涙が溢れる。でも、そこにハムさんはいない。

ここから先は、どうしよう。家族の応援を力にもっかい頑張るか、大切な人と過ごす時間の尊さに気付いて田舎に戻るか。夢が叶うか叶わないかは、私にはさして問題じゃない。大切な人の大切さを身をもって実感したうえで、今度は何を選ぶのか。ううん、自分で続きを考えておいてなんだけど、人生って本当に難しい選択肢だらけだなあ。

ここの登場人物たちは皆、挫折や後悔など、自分の中の苦しいものと向き合って、今の自分を見つめて、これだ!と思う結末を導き出している。そしてそれが、これからの生き方の指針みたいなものになっている。考えて考えて考えぬいて出した答えって、納得できるし、力強くてぶれないのかなと思う。格好いい。それを私も見つけたい。


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