これは泣けました。好きな映画の話です。
「英国王のスピーチ」
最後のスピーチは泣けた。
私はアナウンサーだけど、マイクの前で収録が怖い。
それをずっと感じてきたからかもしれない。
1分前、30秒前、10秒前。時間をカウントダウンされると高鳴る鼓動。
ただ、読むだけ。なのに、それができない。
それが仕事なのに。それができない。なんて無様だ。恥ずかしい。
そんなことが山ほどあった。
「ただ頭を空っぽに!もっと練習して!ここはこうじゃない!」
…あぁ、私も指導されたこともあった。
考えれば考えるほど、怖くなってできなくなるのに…。
指導者はただ自分のやり方を押し付けてきた。
できないと、周りの目が気になる。
周りの目が気になれば、周りが笑っているような気になる。
周りが私を蔑んでいるような、そんな気がして、胸の中にじわっと、冷たく鈍い痛みが入り込んでくる。
最後のスピーチは、イギリス対ドイツの戦争が始まるため全国民を鼓舞するためのもの。
9分もの原稿。
緊張の中で読む原稿、それはそれは長い。
一人で海の中に漂っているかのような。すごい孤独を感じる。
でもマイクの向かいに立っていたライオネル(スピーチの指導者)が
「ただ、私友達に言うように話して」と言った。
それってすごい。
多くの人に向けて話すと、ぽつんと一人方向を見失う。
でも、この人にって思えば方向が定まり、原稿の大海原でも迷わず進める。
怖いと思うと発することができなくなる。
苦手な音も。
怖いと思うと吸えなくなる息も。
ただライオネルに伝えると思えば…。
アナウンサーになって、得したこともあれば、損したこともあった。
でも、「英国王」なんて共感できるはずもない人の映画で共感できた感覚は、一つ得したことなのかもしれない。
いいは悪い。
悪いはいい。
シェイクスピアの劇、マクベスで
魔女が言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。
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