未来を見てきた男mininの「オイスタートミンの手引き(序)」

「牡蠣都民」ではありません。
「老いが始まる民」すなわち、これから第二の人生を謳歌する「初老」の人達が生きやすくなるための手引きです。
人生の縮図である高齢者の治療を通して様々な人生経験を勉強(未来の予習)させて頂きました。それは老いの入口に立つ皆さんのこれからの人生のヒントになると思います。

「のに」じゃなくて「から」

買い物や旅行などで普段より長時間歩いたり、階段の登り降り、やりなれない家事や不意なちょっとした動作で体に痛みや不調を訴えることが年々増えてきていると思います。
痛みや不調を訴える患者さん達の殆どが『何もしてない「のに」痛くなった。調子悪くなった』とおっしゃいます。ところがその殆どは『何もしてない「から」痛くなった。調子悪くなった』が本当なのです。
多分皆さんは体に負担になるような無理をしていない、体を害するような不摂生もしていない、痛くなるような怪我などもしていない云々ということをおっしゃりたいのだと思われます。対外的な加害があって体調不良や痛みが出てるのだと考えています。東洋医学的に言えば外邪に犯されたということになります。
しかしながら実際に診察してみるとそれは自分自身の内面から起きてることが大半です。東洋医学的に言えば内邪に犯されたことになります。内邪に犯されたと聞くと自分自身は何も悪くないように感じ取れますがそれは自業自得の結果なのです。
「何もしていない=サボってる」とも言い替えられます。
若い頃、学校や職場、家庭で忙しく活動されていた時は時間に追われて多少の体調不良や痛みなどは忘れて生活していたと思われますし多少の無理にも耐えられる体だったと思います。
体を動かしていればそれに必要なだけの筋肉や体の組織などを維持し続けますが、楽をして体を動かさなくなると体は自動的にそれに見合った筋肉や組織にダウンサイジングして減らして行きます。宇宙飛行士が体への負担が少ない宇宙空間では骨や筋肉が極端に減少してしまって地球に帰還したときに立つこともできない位に体が弱ってしまうので宇宙に滞在中は日々の筋力トレーニングも重要な任務の一つとなっていることは有名な話です。

「無理のない程度」の呪文

全身の筋肉のうち、上半身が約三割で下半身が約七割の大半を占めていますが筋肉の衰えは下半身から進みます。人間は成長期が終わって大人になるとなるべく消費・消耗しないように無意識のうちに手を抜くことを覚えます。普段から意識して運動したり面倒くさがらずに体を動かしていないとみるみるうちに筋肉は衰えてきます。大きな筋肉から衰えてきますので全体の七割を占める下半身の特に足の筋肉から衰えてくるので足腰か真っ先に弱くなるのです。上半身の特に腕・手はどんなに面倒でも日々の生活の中で食事するときも整容するときも着替えや入浴、トイレでは小まめに手を使っていますので上半身の運動をしていることになります。一方、下半身はゴミ捨ても面倒、台所に何かを取りに行くのも面倒、お尻に根っこが生えたように座ったまま立ちたくない、終いにはトイレに行くのも面倒なんてことになりますので足の筋肉は一向に運動されることがありません。特に大事なのは太ももの大腿四頭筋とふくらはぎの腓腹筋です。とりあえずこの二つの筋肉さえ維持できていれば日常生活で困ることは無いでしょう。大腿四頭筋は立ち上がるときや立位を維持(立ち続ける)ことや歩くときの主力です。また大腿四頭筋は膝を支えて(膝蓋を包む)いますので膝が悪い膝が痛いという人の殆どは大腿四頭筋の筋力不足が原因だと感じています。最近は膝の切らない治療が増えてきていますが殆どは足の筋力増強で膝の疼痛を治しているのでしょう。殆どの人は多少の変形や老化で膝軟骨の磨り減りはありますが本当に手術が必要な膝疾患の患者さんは極少数です。体を動かしたときにズキンとした電気が走ったような痛みの人は手術が必要かもしれませんが何となく痛苦しい程度では筋肉を強化した方が手術しなくても治る症例だと思います。ふくらはぎの腓腹筋は第二の心臓と言われているのをご存知な方も多いと思います。

「動物」の真意

健康維持のためには血の廻り(血液循環)が大事だということもご承知だと思いますが、血の廻りを司る循環器は心臓だけではありません。心臓から送り出された血液は大小様々な血管を通って食事から得た栄養や処方されているお薬の成分や呼吸して得た酸素などを必要な臓器まで届けなければいけませんが心臓のポンプ作用だけでは限界があります。循環器と言われる通り、心臓から出て行った血液は血管を巡って循環し心臓に戻ってきますが往路の主用は心臓ですが復路の主要は筋肉なのです。必要な臓器で仕事を終えた汚れた血液を心臓まで送り届けるために各所の筋肉が動くことで往路の血管である静脈をしごきながら心臓に向かって血液を送り返します。そのため静脈の管の中には逆流防止のための弁が随所にあって心臓まで送り返す助けになっています。ちなみに心臓から各臓器まで届ける往路である動脈の管の中には弁は一切無くスムーズに流れるようにツルツルです。
血液循環のために心臓だけが一生懸命に働き続けることで心臓の筋肉(心筋)が鍛えられて発達し心筋肥大の病気になってしまいます。体中にうまく血液が行き渡らなくなると血圧が上昇してしまいます。動脈硬化や塩分の取りすぎなどが有名ですが筋肉量の減少による血圧上昇も高齢者には多く見受けられます。血圧が高いことばかりが悪いように思われがちですが体を働かせるためには動かす臓器まで血液を送り届ける必要があるので必要に応じて血圧を上げなければいけません。高齢者をみていると一般的に言われる血圧高めの方々はそれなりに元気に日常生活を送っていらっしゃいますが一般的に言われる適性値や血圧低めでは意欲も気力も湧かずに動けない体の人が多く見受けられます。最近、健康診断での受診推奨基準値が見直(収縮期:140mmHg以上/拡張期:90mmHg以上から収縮期:160以上/拡張期:100以上)されたことをご存知ない方も多いと思います。認知症も血圧が高めの人の方が少ないと言われています。血圧を下げる効果のある血圧降下剤や睡眠導入剤、精神安定剤などを常用している患者さん達の中には気を失って倒れた方や頭が朦朧としてロレツも回らずグッタリしてしまう方もおりました。特に夏季は熱中症にまではならなくても気圧の影響で血管が拡張して血圧低下しますので先の薬などを常用している方は主治医に薬の摂取量を調整してもらうことをお勧めします。
もうひとつよく見受けられるのが、脳に異常が無く筋力も保たれているのに以前より立てない・歩けない・動けないという患者さんが多いということです。当然皆さん方は何か病気になってしまったんではないかと心配して検査のために通院します。ところが検査結果は「異常無し」です。補足説明は「歳のせい」です。廃用症候群ということになるのですが結局は運動不足です。患者さんの日常生活をよく観察すると一日中ゴロゴロしてばかりで外出はおろか庭先に出ることも極端に少なく、立ち上がったり歩いたりするのはトイレくらいという人が殆どです。体に負担をかけず無理をせず安静に休めることこそ元気になり体調が良くなると考える方が多いのではないでしょうか。安静が必要なのは感染症などで発熱して免疫が働いてるときと骨折や手術後の数日だけだと考えています。人間は広い意味で「動物」ですが「動くもの・動けるもの」ではなく、「動いていないと健康が保てないもの」だと思います。体を動かすこと込みで健康の恒常性・正常性を維持するように設計されています。例えば便秘は様々な要因がありますが大腸の腸管自体を動かすことを込みで排便の作用が出来ています。腸管の蠕動運動で便を排出しますが自律神経的な作用だけでなく腸管そのものを動かすことで刺激となり蠕動運動と排出のための筋力が得られます。大腸は大便から水分を吸収するのが大きな仕事ですから排便されずに長時間腸内に停滞すれば便は干からびてカチカチになります。確かに肛門付近の便が硬く詰まれば排便し辛いですが、元を正せば便が硬いから便が出ないのでは無く腸管が動いていないことが始まりです。便秘の薬の多くは大腸の水分吸収の働きを抑止して便が緩い状態のまま排便するようにしますが腸管の働きが無く緩いままで排便するとスッキリ感が無く、まだ便が残ってる、また便が出そうな感じがあってお腹が落ち着きません。
循環器も消化器もそれぞれの器官の働きで成り立っているのではなく、身体全体の仕組みとして各器官の周囲の筋肉がアシストすることで完成されるものなのです。そのため日常的に動かない「何もしない」身体を大事に休めてるだけの生活では健康は維持できないのです。

「サボる言い訳」にしない

運動と聞くと大変なこと・辛いこと・面倒なこと・疲れることなどネガティブなイメージが多いですが上段に構えなくても大丈夫です。他人と比較するとこでもありませんし何かの大会に出る訳でもないのでそれぞれの生活に必要な範囲でキチンと身体を動かしていれば良いのです。積極的にやりたい人は別ですが、わざわざ何々体操を何回で何セット、何々運動を何分など構える必要は無く日常的な家事で十分です。中でも掃除が最適で家中を掃除機かモップかけするだけで相当な運動量になります。途中に何かしらの体操の要素を取り入れれば更に効果が増しますが、大事なのは毎日続けることです。お部屋も清潔になり、荷物が片付き、身体も丈夫になり一石三丁です。
お散歩もとても有効ですが歩き方によって効果の出方が違いますので意識する必要があります。歩数や時間を沢山取れば良いというものではありません。
ぷらぷら散歩では筋肉はそれ程付きませんが気分転換や循環器の機能改善、関節をはじめとする運動器の稼働改善などが期待できます。お散歩などの歩行訓練で筋肉を付けたいのであれば歩数や時間よりも運動の質や方法を意識しないといけません。歩幅を大きく取って大股で歩いたり、少々早足で歩いたり、太ももを高く上げて歩いたり、筋肉に負荷を掛けなければ筋肉はつきません。ぷらぷら散歩の一部、一区間などに取り込むと無理無く筋肉を付けることが出来ると思います。階段の上り下りを取り入れるのも効果的です。
運動とは筋肉に力を入れることであり筋肉を緊張させることです。筋肉の運動という意味では緊張させることしかできません。運動すれば筋肉は縮んで硬くなりますし乳酸菌なども溜まります。そのままにしておくとコリや痛みの原因になりますので運動あとは筋肉をほぐしてあげるためにストレッチ(筋肉伸ばし)をお勧めします。また入浴など全身を温めて血流を良くすることも同様の効果が期待できます。
年齢が上がってくると頭では分かっていても身体が付いて来なくなって気持ちばかり空回りすることが多くなります。日中はウトウトと居眠りばかりしてるのに夜に布団に入ってからに限って頭が冴えて考え事ばかりしてしまいます。そういうときこそ身体を動かさなければいけません。そういうときこそ普段敬遠していることや後回しにしていることに着手することをお勧めします。
頭では分かっているけどヤル気が出てこない、ヤル気スイッチが入らないと何もする気が起きないので結局いつも通りダラダラ日常になりがちですか、ヤル気スイッチは無理矢理にでも身体を動かさないと入らないということが脳科学で証明されているようです。嫌々ながらも掃除や片付けをはじめてスマホ割みたら段々調子が出てきて時間を忘れて夢中になっていた経験をされた方も少なくないのではないでしょうか。
生きるということは動くことであり変化することです。
身体的には細胞組織が新陳代謝で常に生まれ変わっていますし四季も移ろい世の中の時事も刻々と変化しています。
健康は身体を動かすことで保たれることを忘れずに先ずは家事などの日常の生活動作から見直し、加えて少しの運動を加えることでこれからの人生を生き生きと過ごしましょう。

#創作大賞2024

#エッセイ部門

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