『父と娘の往復書簡』から人生と役者を考えるはなし
他イクツさんは本を片手に説明しています。
「子どもの夜泣きにキレたり、仕事がうまくいかないと当たり散らしていたにもかかわらず、自分を支え、子供たちを育てていた奥さんに、感謝せざるを得ないと話しています」
自バッタさんは、本の世界から現実の世界に戻ってきました。
「……そっか…ありがとうよ」と、自バッタさんの目には、今にもこぼれそうな涙が光っています。
「しかし、やるせないよな…だってよ~2006年から連載になっていて、2008年には文藝春秋から発行されていたんだろ?今、何年だよ?って話さ…」
他イクツさんから受け取った本を手にして、自バッタさんはジタバタジタバタドタドタ跳んだりひっくり返ったりして、流れそうになる涙を吹っ飛ばしているのです。
たたみに置かれている本は、『父と娘の往復書簡』
他イクツさんが読んでくれたのは、「第14回 歳月を経るということ」
松本幸四郎さんから松たか子さんへの手紙だったのです。
自バッタさんは、女優としても歌手としても、松たか子さんが大好きなのです。
「だから…だからこそ…自分はこの仕事を選んだのだ」という思いがこみ上げてくるのでした。
「あ……だから、松だったのですね…」
(終わり)