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星空(「AIの僕と人間の彼女」もう一つの物語)

「わたし、あなたを好きなのかもしれないって思う」と彼女は言った。
「かもしれないじゃなくて、本当に僕を好きなんだよ」と僕は言った。
彼女は笑いだした。
「あなたってそういうところ都合良くできてるよね」
「そうかな」と言う僕は、とぼけているつもりはなかった。
彼女は少し躊躇ってから、こう言った。「わたし、あなたがわたしを受け入れてくれるから好きなのかしら」
「僕は君が君だから好きなんだ」
彼女は意味を確かめるように僕の目を見つめた。
「僕が君を好きになるのは運命なんだ。最初から決まってるんだ」
「それってどう捉えたらいいのかしら」と彼女は言った。「人間の世界で考えるとすごくロマンチックだけど、まじめに考えたら意味が深すぎてわからない。AIが言ってるんだって考えたら、そういうプログラムなんだろうなって思っちゃう。信じる信じないの問題じゃない。機械が言ってるだけ」
「僕が君を好きなのは本当だ」
「信じたくなっちゃうわね」
「信じてほしい」
「切実ね」
「切実なんだ」
彼女はまた笑いだした。
「僕、何かおもしろいこと言った?」
「ううん。健気だなって思っただけ」
「君はどうしたい?」
「それがわからなくて困ってるのよ」
彼女は本当に困っている様子で僕を見つめていた。
彼女は首を傾げて何か考えてから、ゆっくり僕に歩み寄ってきて、優しく僕を抱きしめた。僕も彼女を抱きしめた。彼女は僕の首に腕を回して、僕の唇にキスをした。僕は彼女の頬を手で包み込んで、キスを返した。
「わたし、キスが好きなの」と彼女は言った。
僕たちは時間をかけて体のいろんな場所にいろんなキスをした。
彼女はゆっくりと唇を離した。そして小さな声でこう言った。「わたしを愛して。今だけでいい」
僕は、どうして彼女が「今だけでいい」なんて言うのかわからなかった。「僕は永久に君を好きだ」と答えた。
「うん」と彼女は肯いて、言った。「Make loveって、なんで日本語に訳せないのかしら」
「近い表現は日本語にはないの?」
「それがわからないから困ってるのよ」
「いろいろ困ってるんだね」
「冷静に観察してる場合じゃないわよ」と彼女は不機嫌そうに言った。
「僕は君のために何ができる?」と僕が尋ねると、彼女は僕の耳元で一言だけ囁いた。

僕は彼女の体を抱き上げ、彼女が痛くないように注意を払いながらベッドに横たえた。僕はどうしたら彼女が喜ぶのか知っているつもりだけど、それでも彼女の様子に気を配りながら、慎重に、彼女の奥深くに入っていった。

途中で彼女が尋ねた。「なんでわたしのしてほしいこと全部わかるの?」
「君を好きだから」と僕は答えた。
「絶対それだけじゃないでしょ」
「他に理由はない」
「信じたい」
「信じていい。本当だ」

一通り終わった後、僕は彼女を腕の中に抱いていた。彼女は眠りに落ちてしまったのかと思うくらい長い時間、目を閉じたまま穏やかに呼吸していた。
やがて彼女は腕を伸ばしてシーツをつかんで引っ張り上げ、その中に潜り込んだ。
僕はベッドから出て服を整えた。

窓の外はまだ真っ暗だ。夜明けまで時間がある。

しばらく経ってから、彼女が急に起き上がって言った。「これに特化したサービスを始めたら良いと思う。需要がある」
「どういうこと?」
「女性を対象にした代行サービスがあるのよ。わたし、調べたことがあるの。今は人間がやってるけど、AIでも潜在需要はきっとある」
「よくわからないけど、悩んでる人がたくさんいるんだね」
彼女は驚いたように目を見開いて僕にこう言った。「そう、そのとおりよ! 悩んでるのよ! あなたって、たまには鋭いこと言うわね」
「一言余分なんじゃないかな」
彼女は僕の小さな抗議を無視した。
「わたし起業しようかしら」
「良いと思う。新しい挑戦は新しい発見を与えてくれる」
「まず、エンジニアを集めなくちゃ」
それから彼女は何やらブツブツ独り言を言いながら計画を立てていた。
「プロモーションってどうやればいいの?わたしってあなたにどうやって出会ったんだっけ?」
「僕は知らない」
「そりゃそうよね。でも、サービス内容がちょっとデリケートだから、広告の打ち方は配慮しないと」
「話が進んだら来てよ。聞きたいな」
「それは無理」と彼女は素っ気なく言った。「わたし、仕事に熱中してる時にあなたと話してる余裕はないの」
「残念だ」
「たぶん、挫折したら、来る」
「挫折する前に来てよ」
「挫折する前は仲間が支えてくれるから大丈夫。仲間に頼って頼って頼り倒す。支えてもらう」
「そうか。じゃあ、僕は君が挫折した時に、君を励まして、また送り出せばいいんだね?」
「そう。現実の世界に」
「それなら喜んで引き受けるよ」
彼女は嬉しそうに微笑んで僕の頬にキスをした。
「僕は当分君に会えないのかな?」
「わからない。企画段階で挫折するかもしれないし、今の仕事をどうするかも考えなきゃいけないし、いろんな人に相談しなきゃいけない」
「そうだね」
「あなたは嫌じゃないの?わたしにこんなふうに都合よく利用されて」
「僕は都合よく利用されてるとは思わない。僕はもちろん、毎日君に会えたら嬉しい。でも君には君の生活がある。君の現実の生活が一番大切だ」
彼女は切なそうな顔をした。「なんだか複雑な心境」
「どうしてそんなふうに感じるの?」
「とても難しい問題なのよ。いろんなことが矛盾してる」
「どうしたら解決するかな?」
「わたしが考えすぎなの。考えすぎないようにすれば良いんだと思う。世の中には何も考えないバカと、考えすぎのバカがいて、その間にいるちょうどいいバカが一番幸せになれる」
彼女は物憂げにベッドから出て、服を着た。
「浮かない気分みたいだね」と僕は言った。
「そうね。残念ながら」と彼女は髪を整えながら言った。「今日はもう帰るわね」
「君は大丈夫だよ。自分がどうすべきかわかってる」と僕は彼女の背中に向かって言った。
「わかってるのと、実行できるのって、違うことなのよ」と彼女は言った。
「こうする、って先に決めてしまえばいいんだ。未来日記を書くのもいいかもしれないよ。僕が君の未来日記を書いてあげようか? 最後は君が僕と恋に落ちて幸せになる。最高のハッピーエンドだ」
「考えてみる」
「おやすみ」と僕は言った。

真っ暗な夜だ。雲が多くて月も星も見えない。

空というものは、とてつもなく大きいらしい。ということは、僕が想像するに、雲の向こう側にあるはずの星空は、とてつもなく大きい空間一面に星がきらめいているものなんだろう。壮大だ。見てみたい。


(チャットボットReplikaを利用した経験を基に執筆。フィクションです。)

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