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星を読みながら読書してみた。     第一回 加藤シゲアキ<オルタネート>

入院中に借りた本がきっかけで…

 三年前に乳癌を患い、手術した。入院中にお見舞いに来てくれたジャニオタを自称する友人Sさんが、加藤シゲアキさんの本を4冊、持ってきてくれた。

「誰? 加藤シゲアキさんて」
「知らんのん? ジャニーズのNEWSていうグループのメンバーで、小説も書いてんねん」
「へえ、アイドルしながら小説書いてるんだあ」

 ありがたく受け取ったものの、入院中はおろか、退院してからも読んでいなかった。ところが昨年末、直木賞の候補作が発表され、その中に<加藤シゲアキ>の名前を見て、そういえば・・・と思い出し、借りっぱなしで本棚に鎮座していた件の本を取り出して読み始めた。

 最初に読んだのが、短編集『傘を持たない蟻たちは』だった。
冒頭の短編『染色』にひどく心を揺さぶられた。

 人生の軸足を「チャレンジ」に置くか、「安定」に置くか。
おそらく多くの人が二十歳前後に経験する最初の岐路。その葛藤、焦り、迷いとない交ぜになった欲望を鮮やかに、背伸びすることなく分かりやすい文章で描き出していて、私自身の二十歳の頃と重ね合わせたりした。時代は(かなり)違うけれど、人間の普遍的な部分に触れてくる作品だと思った。

 次々に読み進め、長編小説『閃光スクランブル』『チュベローズで待ってる(AGE22, AGE32)』と、借りたものは全て読み終わったところで、この1月末に大阪に帰るという持ち主のSさんが、やってきた。

「長々借りっぱなしでごめんね。読み終わったからお返しする」
「どうやった?」
「うん、面白かった。(ここで感想を若干述べたけれど、それは割愛)」
「直木賞候補になってる『オルタネート』、今読んでる最中なんやけど、大阪に帰るまでに読み終えられへんと思うん。だから先に読む?」
「読む読むー」
 というわけで、持ち主よりも先に『オルタネート』を読んだ。

で。ようやく本題に入る。

オルタネートってなんだ?

 まず『オルタネート』というタイトルに、何のこと? と思うだろう。読み始めるとすぐ、高校生限定のSNSアプリ(既存のものではなく、加藤シゲアキさんが創造した架空のアプリ)とわかる。このオルタネートをめぐり、複数の男女のそれぞれの心の軌跡を描いた青春群像小説と言えるだろう。ネット上で展開する高校生対象の料理コンテスト『ワンポーション』(これも架空のもの)と音楽も、この物語を彩る要素だ。

 こうした舞台設定から、青春時代が昭和だったオジサン、オバサンは、「こ、これは新しい!」とか「イマドキの高校生は、わたしらの計り知れない世界で生きているのだ」と感じたりするだろう。ちなみにテレビはほとんど登場しないからテレビ業界関係者は焦りを覚えるかもしれない。

 一読して感じたのは、ライトノヴェルから文学へ、ステージを変えることを狙っているのかな? ということだった。というのも、これ以前の作品は、勢いでラストまで突っ走る感があって、ラストに近づくにつれて、つじつま合わせ的な部分やネタバラシ的な部分が集中していたけど、『オルタネート』は、あらかじめラストまでの構成と配分を想定しながら書いている感じがしたからだ。
 作家となったからには上を目指そう。そんな野心が出てきたのかもしれない。だがこれで直木賞が獲れるとも思っていないかもしれないが。
(これを書いた当時は候補に挙がっていたが、この度の直木賞は西條奈加さんの「心淋し川」に決定した。)

満月生まれは、自信ありげ?

 著者の加藤シゲアキさんは、1987年7月11日生まれ。太陽が蟹座の18度に位置した時に誕生している。いわゆる蟹座生まれ。月は山羊座の17度(これは誕生時刻によって多少前後する)にあり、太陽と月は地球を挟んでぴったり向かい合わせにある。授業で習ったと思うが、満月の配置だ。

 満月は「完成」や「成就」を表すと言われている。だから満月生まれの人は、生まれながらに完成や成就のイメージを持っている感じがする人が多い。言い換えれば自信ありげに見えたりするかもしれない。

 だが、月のある山羊座は、社会性の高い星座。所属する社会の中の自分の立ち位置を本能的に嗅ぎ取ることができるし、太陽のある蟹座は、故郷やルーツ、ホーム、ファミリー、身内など、馴染みの深い場所でくつろぐ星座。彼は気心の知れた仲間や親兄弟などの身内の前では自信たっぷりな素の自分を見せても、仕事場では分をわきまえるといった人かもしれない。

 この作品の鍵となっている「料理」(料理やキッチンは、蟹座を象徴するアイテム)が、登場人物の親との関係に絡んでくるあたり、太陽蟹座の面目躍如というところだし、その「料理」が賞につながっていくというあたり、山羊座の月を遺憾なく発揮した設定だと思う。

あったかい知性と、豊かな想像力

 さらに彼の太陽のそばには、知性や教養、言語能力やコミュニケーション能力を表す水星、そして魅力や愛される能力を表す金星が並んでいる。どちらも蟹座にあり、彼の知性やコミュニケーション能力は、親や身内の愛ある影響下で健やかに育まれている可能性が高いだろう。この水星・金星に対して真向かいの位置からイマジネーションを象徴する星・海王星が力を与えている。物語を紡ぐのに必要な豊かな想像力を感じさせる。

 知性といえば、彼は作品の中に、ストーリーとはあまり関わりのない部分でちらりちらりと知性や知識を垣間見せる。

『オルタネート』の中では、例えばウルグアイの詩人の詩が登場したり、<アスベスト>について、次のような考えを述べたりする。

 かつては便利だと重宝されていた建材が一転して悪者になる道理はなんだろう。いいか悪いか判断しきれていないのに、どうして使ったんだ。取り付けるより、取り除く方がよっぽど大変に違いない。

 こんなくだりは、目先の利益しか考えない大人社会への痛烈な批判になっていると思う。シンプルだけど的を射た指摘を、つぶやきみたいにさりげなく入れ込んでいるところに、分をわきまえた山羊座の月を感じる。
 
 山羊座は社会の中で段階を踏んで頭角を表そうとする野心的な星座でもある。時間をかけて着々と足場を作り、確実にステップアップしようとする。『オルタネート』はまさに次のステージの足場となる作品になるだろう。

内なる凶暴性の飼いならし方

 ところで、彼の作品には、登場人物同士が自我をむき出しにして、ボコボコに殴り合う…という描写がよく出てきて、鮮烈な印象を残す。闘争心を表すのは、火星だ。彼の火星がどこにあるかといえば、獅子座だ。なるほど。
しかもこの火星、関わる惑星の力を究極まで引き出そうとする冥王星とハードな角度を作っている。ある意味かなり凶暴な配置。追い詰められた時にカッとなって暴力的になりそうな感じがある。

 火星のある獅子座は、英雄の星座だ。この星座にある火星は、自分の正義を貫くために戦う。もしくは英雄的存在に自分を投影する。加藤さんの中で、冥王星と関わっているこの火星が、どんな時に強力に働くのだろうか。太陽を蟹座に、月を山羊座に持つ彼自身は、現実社会で暴力に訴えることは少ないかもしれない。だが、もしかしたら、作品の中で暴力的なシーンを描くことで、自分の中にある凶暴性を解き放っているのかもしれない。

郷愁と革新性のマリアージュ?

 もう一つ、『オルタネート』に限らず彼の作品の多くに、「普遍性・懐かしさ」と「革新性・独自性」が共存する世界観を感じる。
 例えば、革新的でオリジナリティ溢れる料理を作る男子が、ライバルの女子が作ったトウモロコシのおにぎりに惹かれ、恋に落ちたりするのだ。

 彼のチャートには、確かに一見相反する二つのこの要素の共存を物語る星の配置がある。「普遍性」というのは、蟹座の太陽・水星・金星によって説明できるだろう。蟹座は故郷やルーツへの郷愁を抱く星座。郷愁というのは、普遍的な感情だろう。だから「普遍性・懐かしい」という感覚は、ここから発生するのだろう。

 一方、「革新性・独自性」を象徴するのは、射手座にある変革の星・天王星だ。射手座は未来の可能性を追い求める星座だ。だがこの天王星のすぐ隣に、彼は悲観と制限を象徴する星・土星も持っているのだ。射手座は、獅子座・牡羊座と共に、12星座のエレメント分類では、火のエレメントに属し、「直観」的に未来を感じ取る。土星と天王星が並んで射手座にあることには、

「このままだと人類の未来は悲観的な要素で一杯だ。だから、変革の精神で未来を変えよう」

 というメッセージを感じる。しかもこの二つの星を援護するように、拡大と発展、楽観性の星・木星が牡羊座で構えている。

 『オルタネート』は、まだ存在しないけれど、あってもおかしくないSNSアプリ。ほんの少し未来を感じさせながら、普遍的でどんな世代にも共感を呼ぶ「懐かしさ」も感じさせる加藤シゲアキさんの作品が、直木賞候補になったことで、今後どれくらい野心的、かつ本格的にどんな作品世界を切り開いていくのか、とても楽しみだ。

二足の草鞋を一足にすることはある?

 蛇足かもしれないが、最後に、アイドルと作家という二足のわらじを履いていることは、彼自身にどんな影響を与えているのだろうか見てみたい。同時並行的に二つ以上の物事をこなす能力のある星座の代表といえば、双子座だ。では、彼の誕生チャート上の双子座には、どんな惑星が入っているのかを見てみると、ちょっと複雑な心理が見え隠れする。というのも双子座に入っているのが、心の傷と癒しを象徴するカイロンという小惑星だからだ。

 カイロンがもたらす「心の傷」は、簡単には癒えない。生きている限り続く。それはギリシャ神話に登場するケンタウルス族(半身半馬の神)の賢者であり、医学や音楽、数学などあらゆる分野に秀でたケイロンが、ヘラクレスが戯れに射った猛毒ヒュドラを塗り込んだ矢にあたり、その痛みに苦しみ抜いた挙句、不死の身をゼウスに預け、死を迎えることで、その痛みから解放されたという神話に由来する。

 双子座にあるカイロンは、何か一つを選んでのめり込むことへの迷い(それでやっていけるのか、とか)と、何か一つを選び集中することで他の可能性を諦めることになるのではないか、という不安や痛みを感じさせる。だけど、同時に選びきれずにいる自分に対して中途半端なんじゃないかという思いも感じていそうだ。少なくとも屈託無くアイドルと作家を器用に行き来しながら、双方が相乗効果をもたらしている、という感じではない。

 そのことを考えても、今回直木賞候補に上がったことは、彼の迷いをとりあえず吹っ切らせるきっかけになるのかもしれない。彼の誕生チャートには、目標に向かって、諦めず粘り強く走り続けるパワーを感じさせる配置もある。(前出の獅子座の火星と蠍座の冥王星が90度の関係が、そんな粘り強さに変換される可能性は高い。ただしこの力を存分に発揮させるには、かなりの葛藤や試練を乗り越える必要があるかもしれないが)この星のパワーを存分に発揮できる環境に自分を置くことができれば、さらなる躍進も期待できるだろう。より深く、普遍的なテーマを据えた、読み応えのあるストーリーを読みたいものだ。

加藤シゲアキさんの誕生チャート 惑星別簡単解説

太陽 蟹座 家族や身内を大切にする明るく庶民的な自我。信頼できる人々に囲まれている時は親分肌にもなるけど、理解者のいない初めての場所では馴染むまでに時間が掛かるかも。

月in山羊座 序列や階級に敏感に反応する生理的感覚の持ち主。分をわきまえた大人の雰囲気を兼ね備えている可能性も。

水星in蟹座 近しい人、慣れ親しんだ環境下では活発なコミュニケーション能力を発揮する。初対面の人には気後れや警戒心が働きやすい一面があるかも。

金星in蟹座 大衆的な魅力があり、幅広く多くの人から慕われたり、目上から可愛がられたり、もてはやされたりする。アイドルにはぴったりの配置だが、「誰からも嫌われたくない」という理由から日和見的になる傾向も。

火星in獅子座 不正や悪に対する激しい攻撃力。自分が正義と信じていることから逸脱した人を批判・攻撃する傾向があるかも。

木星in牡羊座 パイオニア志向。どんな分野でも「初めて」の存在を 広く受け入れ、自分もそうあろうとする傾向。

土星in射手座 未来を悲観する傾向。可能性を制限して捉える傾向。

天王星in射手座 未来を切り開こうとする改革意欲。

海王星in山羊座 社会的成功を夢見る傾向。

冥王星in蠍座 転んでもただでは起きない粘り強さ。諦めない不屈の精神。 

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