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31時間のバスの旅 、および史上最悪の誕生日〜モザンビーク北上〜その1

 2017年2月25日

1メティカル ≒ 1.6円

 モザンビークのトーフォで無事AOW(Advanced Open Water)ダイバーのライセンスを取り終え向かうは、タンザニア方面だ。

 トーフォの目抜き通りにあるカフェのおっちゃんに、北に行くにはどうしたらいいか聞いたら、最長でナンプラという街までバスが出ているとのことだったのでとりあえずそこへ向かうことにした。トーフォからは直線距離にして1000kmほど北の街だ。まず、アフリカ東海岸を北上する旅人は少ないようで、その辺りの情報はネット上にも乏しい。またモザンビークを通る者はもっと少ないようで、その情報は格段に少ない。この理由は後々痛感することになる。

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 出発当日の早朝、ナンプラ行きのバスが出るのはトーフォから数十キロほど離れたマシシという街なので、ミニバスで一旦イニャンバネという街へ行き、そこからフェリーに乗り換えて向かう。
 モザンビークのミニバスは乗車率200%で、ハイエースの後部座席にどうにかして最大25人ぐらい客を詰め込む。最後に乗った人はドアの一段下がっているところに立ってルーフに沿って腰を曲げる姿勢になるので、かなりしんどい。ミニバスの後のフェリーも、着岸するのが海岸の砂浜なので、10メティカル払っておっちゃんたちに肩車をしてもらい濡れないように運んでもらう。おっちゃんは、自分よりも細いのにバックパックを背負った自分を軽々と持ち上げる。

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 モザンビークも東アフリカの例に漏れず、長距離バスが出発するのは大体早朝だ。しかも、自分が乗ろうとしている路線はマプトで人を乗せてから来るらしく、何時に到着するのかもわからないので余裕を持って7時前には街に着くようにした。
 道路に出て”ナンプラ?ナンプラ?”と聞きまわっていると、そのうち赤シャツの男が”こっちだ”とバスのほうまで連れて行く。が、しかし。連れて行かれた先にバスは見当たらない。しかしある一方を指さして”これがナンプラ行きだ”と言う。
 指さした先にあったのは、はたして。救急車だった。
 きっと数カ月前の自分だったら”嘘だろ”と思うに違いないが、この時は”あ、そうなの”ぐらいにしか思わなかった。インドと東南アジア以上になんでもありのアフリカに毒されきっている。赤シャツに値段を訪ねたら3000メティカルだったが、事前に聞いていた情報では2000メティカルちょっととのことだったので”じゃあいいや、後から来たバスに乗るよ”と立ち去ろうとすると、ドライバーが”違う、2600だ”と呼び止めたので、それで了承して乗り込んだ。明日に控えた誕生日を、たまにはクソみたいな移動で過ごすのも悪くないと思ったのもある。

 救急車と言ってもトヨタの4WDで、その役目を終えている中古車だ。後ろの狭いスペースにストレッチャーとベンチがあるだけで、ストレッチャーに荷物を山盛りにし、ベンチに乗客が座る。
 どうやら自分で出発に必要な人数は集まったらしく、スナックと飲み物だけ買うのに待ってくれと頼み、それを済ませて7時過ぎに出発した。


 道中。

 見えるのは荷物だけだ。景色を楽しもうと体をひねって窓の外に目を向けるも、無理な体勢にすぐに疲れて座り直すことになる。窓の外の景色も、ひたすら草の生えた果てしない土地の向こうに山々が見えるだけだ。物珍しいといえば、自分の背丈の数倍はある蟻塚ぐらいだろうか。所々に建っている藁葺き屋根の家々よりも高くそびえ立っている。きっと、根本の部分は自分が生まれる前からあるに違いない。

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 加えて、道がクソみたいに悪い。
 地図のアプリを見る限りこれが南北に伸びる唯一の幹線道路なのだろうが、出発してから500kmぐらいは、8割がそうなんじゃないかってぐらいに穴だらけだった。穴だらけでどこをどう走ってもタイヤが穴に掛かるゾーンがあり、それを切り抜けて10分ぐらい走るとまたそのゾーンにぶち当たる。マリオカートの一番難易度の高いコースよりハードだ。あまりにも非道いので、年度末に日本各地で見かける自治体の翌年度の予算合わせのための道路工事に従事している人員を総動員で派遣してでも修繕させたい、と思った。
 そして、途上国ではよく見かけるスピードブレーカー(一部道路が盛り上がっている部分)も設置されているのだが、これまで経験した中でも最も鋭利だ。あれは、スピードを出して通過すると座りながらジャンプしてケツを痛める羽目になるので皆そこでスピードを落として通過する、というシステムだが、モザンビークのそれはスピードを落として通過しても座りながらジャンプしてケツを痛める羽目になる。他の国のが丘なら、これは山だ。キリマンジャロだ。なぜそのように作ったのか、とても理解に苦しむ。
 なのでまったく進んでいる気がしないのだが、それでも昼過ぎにようやく休憩が入る。その時に景色のついでに車の写真を撮ったらドライバーが寄ってきて、写真を消せという。はじめは適当にかわそうと思ったが結構神妙な感じで言ってくるので理由を聞いたら、”この車は人員の輸送用としては認められていないから、写真を撮るのもダメだ”ということらしい。そんな非合法な交通機関で移動しているのか。金まで払って。と多少の不安を覚える。仕方なしに写真は目の前で削除した。

 飯は強制的にテイクアウトにさせられ、救急車のベンチで飯を食いながらまた出発する。景色は変わらない。
 途中、人を降ろしたり乗せたりしつつ出発から6時間ほど走ったところで助手席の乗客が降りたので、そちらに座っていいとのことで移動する。後部座席のベンチよりかはいくらかマシだ。
 多少座り心地が良くなったことと、朝早かったこともありウトウトしたりもしたが、いくら目を覚ませど景色はまったく変わらない。
 たまにトタン屋根の建物が並ぶだけの小さな街に着くと、子どもたちが窓の外からわらわらと寄ってきて窓をバンバン叩き、あれを買えこれを買えとダンボール箱一杯の飲み物やスナック、銀のトレーいっぱいのカシューナッツ、焼きトウモロコシ、焼き魚、終いには数羽の羽のついたまま足だけで束ねられた鶏などをこちらに突きつけてくる。これもどの街に着いても一緒だ。大体鬱陶しく思うが、たまに喉が乾いたり小腹が空いた時などに便利だ。

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このような、わたし達から見たら原始的とも言える生活をしている人々をモザンビークではたくさん見かけた。しかし、そうした人々も多くの場合においてスマートフォンなどは持っている。

 ところで、カシューナッツが安い。小さめのビニール袋いっぱいに入って大体200gぐらいだろうか、それが100メティカル(約160円)だ。炒ってあるだけの味付けもないそのままだが、甘みがあってなかなか美味い。ナッツ好きとして、これまで東南アジアやインドを訪れた際も(ピーナッツを除く)各ナッツの値段を調査して回ったが、どこもそんなに日本と変わらなかった。が、アフリカ東海岸は安いということを知った。そして後にモザンビーク人と話して、30分娼婦に相手をしてもらうのとこのカシューナッツとが同じ値段だということも知って愕然とした。
 焼きトウモロコシも毎度見かけるので買ってみたが、日本で食べるようなのとは違って色白で、焼いてあっても固くてぼそぼそしている。それでも噛み締めていると甘みが出てくるので、それはそれで美味い。また、綺麗に粒が取れるので、もったいない感が無い。そして、これを挽いてウガリにする、というのにも納得がいく。


 たまに人を降ろしたり乗せたりしつつ数時間走り続けるも景色はまったく(本当にまったく)変わらず、日だけ傾いていく。この辺で、モザンビークを縦断するのは余り利口な選択とは言えないということ実感した。ジンバブエやマラウィを通ったほうがまだ見所はあるし、こんなに長いこと車に乗らずに済むだろう。そう思いながらも相変わらずウトウトしつつ、目が覚めればiPodで音楽を聴いたりしてなんとか時間を潰そうと試みる。
 そして、何十回かそれを繰り返した後に目を覚ましたら、日付が変わっていた。24になった。
 思えば、ここ最近の誕生日は楽しいことばかりしていたということをしみじみ思い出した。次回へつづく。

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