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パラノイアになるにはうってつけの宿〜マカッサル、インドネシア〜

2016年5月20日

 さっきから蚊が数匹、部屋の中を飛んでいる。只今午前2時28分、まったく眠くない。

 昨日、慣れない土地のせいで結局8kmも歩いてクタクタになったっていうのに、今日も今日とて結局アホみたいに歩いてしまった。バックパックとギターを持って。

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 思うに、マカッサルはバックパッカーにとっては滞在する価値のない街だ。やたらとデカい空港があるっていうのに、空港から市内中心部までの終バスは早いし、かと言ってタクシーに乗ったらクソほど高いし、安宿は全然見当たらないし、都市としては栄えているほうなのにそれにかまけて暴走族やってるみたいな堕落した奴らが多いし、それに加えてあまり英語が通じない。最後のは街の所為じゃないけど。よく酒も飲まずにクラブで踊ってられるよ、まったく。いや、逆に考えたらクラブで踊るのに酒はいらないってことになる。

 特段、宿が非道い。ジャワ島からバリ島まではひと晩平均80000ルピア弱でそこそこの宿に泊まれたっていうのに、ここじゃ100000ルピアを切る宿が全然見つからない。ドミトリーでさえ、小奇麗にしてあるからといって120000ルピアも取りやがる。
 着いてから二晩、1泊120000ルピアのダブルでAC付きの部屋に泊まったが、甘ったるいコーヒーと、食パンにバターとチョコレートほんのちょっと塗っただけの朝飯なんかいらないからもっと安くしてほしかった。緑が眩しすぎるプラスチック製の皿に乗って毎朝出てくるのも気に食わない。
 そこが高いと思って、3日目にちょっと南に寄って宿を探していたら、80000ルピアのとこあるよってカフェの兄ちゃんが教えてくれたから一応行ってみたら、窓も無いのにちっさい扇風機(フロントの網は取れてる)しかない、かなり饐えた臭いのする部屋で、というかまず建物に入った時点でカビ臭かった。廊下を進むと下水の臭いもする。

 もうそろそろ日が暮れるしひと晩だけならいいか、つって荷物を置いて、海沿いで日が暮れるまでじっと座って、往来の人々をぼーっと眺めながら過ごしたけど、夕日だけはこの街の取り柄だと思った。今まで生きてきた中で、もっとも美しい夕日だった。それとマカッサルはどこまでも続く空の青さも鮮やかでいい。その青の中を、白からオレンジに変わってゆく太陽が少しずつ沈んでいき、そして青はそのうち紫から黒に変わる。雲は見えなくなり、代わりに数多の船舶の夜光灯が輝き始める。

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 部屋が臭かったから、どこかでスティック香を買って帰ろうと思ったが、バリ島ではどこでも売ってたのに、ここでは全く見つからない。ムスリムの人たちはお香は使わないのかしらん。
 残るひとつのマカッサル名物である、牛モツのスープを食べて仕方なしに部屋に戻ると、3階ということもあり熱気がこもりさらに居心地が悪くなっていたので、フロントにかけあって2階のACの部屋に変えてもらうことにした。プラス55000ルピア、結局昨日までより高いじゃねえか。阿呆か、俺は。ああ莫迦だよ。

 まあ、気温と湿気は申し分ない。あとは、このドアの手前に置いてあるカビだらけのボロボロの椅子を表へ出せばオーケーだ。

 そうしてなんとか環境を取り繕ったが、シャワー室を覗いたらシャワーは無くバキバキに割れ目のイッた手桶と例のバケツだけで、もうシャワーを浴びる気も失せた。シャワーねえときなんて言うんだろう、水浴びかな。
 しばらくギターを弾いたりして過ごしているうちに、エアコンが寒くなってきたのでフロントにリモコンを借りに行くと、男が3人たむろしてテレビに見入っていた。こいつらも俺を苛つかせる要因のひとつだ。
 大して安くもねえ宿のくせにまったくもって仕事もしないで、テレビを見るついでにちょっと言われたことをやるだけの脳みそしか無い。実際、最初に選んだ部屋のベッドに置いてあったタオルは、使った後そのままなのか乱雑に置かれ、しかもかなり濡れていた。だから椅子だって部屋だってカビだらけ、そこら中雨漏りだらけで壁には新聞紙だらけだ。
 リモコンを借りる時も返す時も、3人ともテレビから視線を外さないでヘラヘラしていやがるから心の中でずっと”こんな宿とっとと潰れちまえ、そしてお前らは飯喰えなくなればいい”って唱えてた。どうして生きていられるんだろうか、こいつらは。

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 そんなこんなで今現在に至るが、部屋の中で何か物音がする度に目が覚めていく。ヤモリならまだいいが、さっきカフェに行った時に見た大きめのゴキブリが頭から離れない。
 ドアには隙間があって廊下の照明が差し込み、たまに人がうろついてるのがわかるので、鍵は閉めてあるが内開きのドアの目の前ぴったり、蚊よけ薬のスプレー缶を、さっき置いた。
 たぶんだけど、今夜は眠れないだろう。明日、仕切りなおしだ。1週間後クアラルンプールに飛ぶまでの辛抱だ。

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