幸運はなにに左右されるか①

サクッと腿になにか刺さった感触がした。

「包丁だ」
気づくと同時に脚を退かすべく少し動いたが
角度がよろしくなかったようだ。

切っ先はどうやら刺さったままで、今度はスウッとスライドされた。

ため息をついて脚を下に抜いて傷を確認する。

1cm角くらい皮膚が抉れていて、隣の皮膚との段差があること、ぷくぷく溢れている濃い赤色。
思ったよりしっかり傷ついていたことに狼狽する。

よくあるアパートのキッチン、シンク下の包丁立てにわたしは包丁をしまっている。

ステンレス包丁が憧れだった。

いま持っている漢字三文字彫られたお手軽な包丁は、雑に使ったせいで切れ味が抜群に悪い。

鶏皮はのこぎりのようにギコギコしないといけないし、そのせいで100均で買ったまな板は傷だらけだ。
(わたしは安いものをどんどん取り替える方がむしろ清潔なんじゃないか派なのでまな板は100均を愛用している)

とにかく鶏肉を切るのに1日のエネルギーの1/4くらいごっそりもっていかれるので包丁を新しくしようと思っていた。

買ったばかりのステンレス包丁はするりとしたフォルムが気持ち良くて、なによりよく切れた。

切るだけで切れることに、つまりギコギコしなくても食材がカットできることに感動した。

それで包丁立てにしまったのだが、大きさが絶妙に合わなくて少しガタガタ揺れるようだった。

大した問題じゃないと思っていた。

シンク下にしまっているボウルを取ろうとしゃがんだその腿に、包丁立ての下からはみ出ていた切っ先が刺さるまでは。

わたしよりオロオロして懸命にティッシュで血を拭う夫を眺めながら、包丁立てを早急に買おうと考えていた。

それが昨日の夜。

一夜明けて朝になった。

これはものすごく同意してもらえるんじゃないかと思うけど、
取り憑かれたようにマックが食べたくなる時がある。

それが今朝だった。

ぐるぐる鳴る腹が「朝マックが食べたい!!」と叫んでいたのでわたしは7時からマックを買うべく出掛ける。

財布をポケットに突っ込む。

鍵は右手、そしてスマホは左手につかむ。

右手で玄関を開ける、と同時に左手からスルッとスマホが抜け落ちた。

やべえと思った直後、思ったより軽い音を立てて足元のコンクリートに落ちる。

まあそんなに愛着もないけど、壊れてないといいな、1mちょいの高さだし大丈夫だろう。

拾い上げるよりずっと早く、落ちた衝撃でそのままスマホは滑っていく。

わたしはアパートの2Fより上に住んでいて、そして玄関を開けると共同廊下を挟んでその先はそのまま外だ。
廊下には隙間の空いた柵がある。

その隙間をわたしのスマホはすり抜けていった。

つまりコンクリートに落ちた挙句、さらに落ちた(なんて言えばいいか分からないけどそういうこと)。

今度は明確にカシャンと落下音が響いてきた。

裏手にまわりこんで拾い上げるとわたしの相棒は幽体離脱のようにカポリと割れていて、オマケに充電口には謎の植物が入り込んでいた。

とにかくそのまま押し込めて元に戻すと、どうやら液晶は無事なようだった。

言い忘れていたけど雨上がりだったので、もちろんスマホも濡れていて、なぜだか隙間からじわじわ水が出ていた。

本体に数箇所の傷を残し、充電口に謎の植物の種子が詰まっていたものの(植物を取り除こうと引っ張ったら葉と茎が取れて種だけが残ってしまった)奇跡的にスマホは無事だった。

朝からそんなイベントが発生したのでわたしはマックに向かいながらラッキーとアンラッキーについて考えることになった。

これは自覚しているわるい癖なのだが、いつでも伝えたいことが多すぎてわたしの話は婉曲的になってしまう。

やっとタイトルに触れるところまできたのに、スクロールしてみるとなんだか長くなってしまった。

続きはまた改めて書こうと思う、これをパート1とでもして。

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