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生きなきゃと思った話

祖母の家が売れたらしい。 その家は祖母と祖父と母が暮らした家だ。 母は結婚してわたしたちが育った家を建てているし、 祖父はわたしが生まれる前、祖母ももう10年近く前に他界しているから、 誰も住んでいない空っぽの家だ。 実のところ、時たまこの空の家のことをわたしは考えていた。 ものすごく現実的に。 わたしも結婚して地元を離れているし、 父母も高齢に近づいてきて、 この建屋をどうしようかということを考えていた。 売れたらそれはラッキーで、 もしかしたら処分にむしろ金銭を払わなけ

    • みえないものを数える

      豊かというのは「いっぱいある」ということで、 その対義語の乏しいというのは「少ししかない」ということだ。 重要なのは「なにが」いっぱいあったり少ししかなかったりするかということなのだろう。 わたしはよく聞く、瓶に石を詰める例え話が好きだ。 ある人の前に瓶がある。 容量は決まっていて、横にはたくさんの石や砂利や砂がある。 瓶にまず石をいっぱいに詰め込む。 ある人は聞く。 「瓶はいっぱいか?」 問われた誰かは答える。 「はい、いっぱいです。」 ある人は頭をふって砂利を

      • 幸運はなにに左右されるか②

        買ったばかりの包丁の切っ先がわたしの腿を削り、 ついでにコンクリートがスマホの側面を削った日の続き。 この日のわたしが「ついてる」か「ついてないか」はどう決まるのか。 結論から言えば、それはわたしによって決まるとわたしは信じている。 たとえば神様みたいな存在がいたとして、いたとしたらこんなくだらないことに構うだろうか、いや絶対構わない。 つまり、無数にいるうちの人間ただひとりを「ちょっとアンラッキーな気分にさせてやろう」なんてみみっちさの極みみたいなことはぜったいしな

        • 幸運はなにに左右されるか①

          サクッと腿になにか刺さった感触がした。 「包丁だ」 気づくと同時に脚を退かすべく少し動いたが 角度がよろしくなかったようだ。 切っ先はどうやら刺さったままで、今度はスウッとスライドされた。 ため息をついて脚を下に抜いて傷を確認する。 1cm角くらい皮膚が抉れていて、隣の皮膚との段差があること、ぷくぷく溢れている濃い赤色。 思ったよりしっかり傷ついていたことに狼狽する。 よくあるアパートのキッチン、シンク下の包丁立てにわたしは包丁をしまっている。 ステンレス包丁が憧

        生きなきゃと思った話

          うまれてはじめて

          娘は寝るのが下手だ。 わたしは娘を妊娠して、Twitterで専用アカウントをつくった。 そこで妊娠や出産に関する情報を集め、産後は子育ての苦労を分かちあった。 母乳が出ない、乳房が詰まって張って痛い、ミルクを飲まない、義実家との付き合い、夫の子育てや家事、とにかく何もかも共感できてたのしかった。 娘はとにかく眠らなかった。 眠れなかったというべきか。 娘が顔を真っ赤にして泣いて起きるその度、わたしは乳房を含ませたり抱き上げたり歌を歌ったりした。 ほとんどの場合また眠る

          うまれてはじめて