【第12回】Netflixドラマ『ハリウッド』は、ライアン・マーフィーが綴る虐げられたマイノリティたちへのラブ・レター
【海外ドラマファンのためのマガジン第12回】
1940年代後半のハリウッドが舞台になっているNetflixドラマ『ハリウッド』。
前回の第11回でも触れましたが、このドラマは、フィクションとノンフィクションの交錯率がとっても高いのです。
実際にあった出来事と、フィクションの部分の境界線がまったく分からないように作られています。
なので、どの部分がノンフィクションかということを把握しておくと、より制作者の意図が伝わるのではと思い、まとめてみました。
実在したハリウッド関係者が実名で登場
1940年代後半のハリウッド黄金時代に、監督、脚本家、俳優を夢見る若者と、映画会社の人々が黒人脚本家が執筆した『ペグ』を映画化するお話。
『ペグ』は、後に『メグ』とタイトル変更されます。
メインキャストの若者たちと、映画会社の重鎮たちは、フィクションの人物ですが、映画関係者として登場する俳優たちに、実在の人物が多数登場します。
〈登場する実在の俳優〉
ロック・ハドソン(超人気俳優 映画『ジャイアント』など)
ヘンリー・ウィルソン(ロック・ハドソンのエージェント)
アンナ・メイ・ウォン(中国系で初めてのハリウッド俳優)
ペグ・エントウィスル(イギリス人の女優)自殺する
ハッティ・マクダニエル(黒人初のオスカー受賞者『風と共に去りぬ』)
ヴィヴィアン・リー(イギリス人女優『風と共に去りぬ』スカーレット役)
タルーラ・バンクヘッド(アメリカ人女優)奔放な性格
ジョージ・キューカー(映画監督)ゲイとは公表していない。
ノエル・カワード(劇作家、作家、俳優、イギリス人)
エレノア・ルーズベルト(第32代フランクリン・ルーズベルト大統領夫人)
実際のアカデミー賞の初受賞者は別の人
もう一つ、知っておいていただきたいのが、第7話目(最終回)に登場するアカデミー賞受賞式のシーン。このシーン全体が、旧時代のハリウッドに対する痛烈な皮肉にもなっていて、完全なるフィクションです。
オチになっているので詳しくは書けませんが、当時、社会的マイノリティだったために、その才能を発揮する権利を奪われてきた人々の嘆きを浄化するようなエピソードが描かれます。
ドラマの中には、実在の俳優たちが実名で登場するのですが、彼らの無念をドラマ内で解消し、賞賛する場を作るという試みをしているんです。
構造としては、2019年公開の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のシャロン・テート事件の描き方のように、実際に起こった事件や事実とは違う展開になるという作り方です。
〈実際の初オスカー受賞者〉
黒人初のオスカー受賞者→ハッティ・マクダニエル(1939)『風と共に去りぬ』
東洋人初のオスカー受賞者→ナンシー梅木(1957)『サヨナラ』
黒人初の主演女優賞→ハル・ベリー(2001)『チョコレート』
ライアン・マーフィーのメッセージ
ライアン・マーフィーは、ゲイを公表しているクリエイターで、過去の作品でも、ジェンダー、人種、LGBTQの問題をつねに取り上げてきました。
ライアンが製作したドラマ『glee/グリー』(2009-2015)のグリー部のメンバーを見れば一目両全ですが、白人、黒人、アジア系、スペイン系、ユダヤ系、LGBTQ、ハンディキャップを持った人、で構成されていて、これこそザ・ダイバーシティです。
多種多様な才能をもった人々が排除されることなく、堂々と生きていく社会を実現するために、ドラマを製作して、その一翼を担おうとしている意気込みが伝わってきます。
『POSE』(2018~)では、アメリカのドラマ史上初の、主要キャストの9割がゲイかトランスジェンダーというキャスティングを成功させています。
ライアンは、いわば世界ダイバーシティ化計画の第一人者ともいえる存在。
Netflixドラマ『ハリウッド』では、才能ある女性が組織の中で決定権を持ち、ゲイである人が公の場で堂々とカミングアウトすることが可能で、人種に関係なくその才能を適所で活かせるという世界を実現しています。
ドラマの時代、1940年代後半から70年かけて、ようやく今、現実の世界でもダイバーシティな社会の入り口にやってきました。
黒人の脚本家アーチーが、自分がアジア系だということを隠している監督のレイモンドにこんなセリフを言います。
「ハリウッドを変えるんだ。お前は、ルーツを隠すアジア系監督じゃなくて、ただの監督になるんだ。オレは黒人の脚本家じゃなくて、ただの脚本家になる。」
このセリフに、このドラマでライアンが言いたいことがすべて詰まっています。
歴史的に人種やジェンダーに対する偏見があったことは変えようのない事実です。
でも、それは歴史として受け止めて考察し、今いる人々で、今の世の中を
変えていけばいんだ
ライアンのメッセージを、わたしはそんなふうに受け止めました。
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