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男のたしなみ

認知症グループホームでは、入浴後に髭剃りをすることを勧められている。
入浴はだいたい週2日だから、その間にもヒゲを剃ることも。
昔は習慣だったけど、今はちと面倒なことみたいで自ら進んでヒゲ剃りをする人はまれ。

電気カミソリはブーンブーン

手が不自由な人のヒゲは、入浴後にリビングで介護職員がヒゲ剃りをする。
電気カミソリを使ってブーンブーン。
「なんか上手く剃れへんなぁ。ごめんやで。だってさ、私ヒゲないから。」
と言い訳をしながら数分間。
一向に剃れる気配がない。

チクっとするのか、たまに顔をゆがめる。
「痛い?」と聞くとこくっとうなずく。
これではアカン!と他の介護職員に助けを求める。

残念ながら、その日は女性の職員ばっかり。
「私、電気カミソリ使ったことあるよ。」と言ってくれた職員と交代。
「どうやってするの?」
「こう、ヒゲに直角になるようにあてて…」
ジャリジャリジャリ~
「あ、剃れてる!すごい!!少しやってみていい?」
と交代してもらって、やってみる。
ブーンブーンブーン…ブーンブーン…
「やっぱりあかんわ。」
と結局彼女にやってもらうことに。

練習が必要です。

夜の方がよかった?

高齢者の朝は早い。
だいたい5時前から目覚めてしまって、眠れない人が数名はいる。

「もう少し横になってはったら?」と部屋から出てきた人に声をかけると
「トイレ行こうと思って」という。
さっきも行ってはったけどなぁ、と思いつつトイレを出たり入ったり。

仕方がないので
「もうすぐ6時やし、洗面所へ行って顔を洗って歯磨きしましょか?」
と彼の歯磨きセットにタオル、石鹸にカミソリを用意する。

洗面所の前に座って、歯磨きしてから顔をバシャバシャっとお湯で洗う。
そこですかさずカミソリを手渡す。
「はい、ヒゲ剃り。使う?」
「ヒゲかぁ。。。」
石鹸もつけずに、ササっとこするようにしてヒゲ剃る。

さて、お茶でも出そうかなっ、て用意をしてると部屋へ戻って眠ってる。
もしかして、夜にヒゲ剃る習慣だったりする?

モデルさんは泡だらけ

中には身の回りのことをするのが、少し難しかったりする人も。
洋服の着かたが分からなかったり、カミソリを歯ブラシと間違えて口に運んだり。
でも、元々の習慣や手順をすることで、体が思い出してできる時もある。

お湯を入れた洗面器を前に置いてからヒゲ剃るフォームを手に乗せる。
「〇さん、ヒゲ剃りするよ。」
というと、泡を石鹸と思ったようで手を洗い始めた。
「この泡、ヒゲ剃りのやで。」と伝えて頬にぬると不思議そうにしてる。
で、「カミソリ」と手渡すと、前に洗面器があることに気づく。
すると思い出したかのように、カミソリをバシャバシャお湯で洗い始める。

丁寧に首周りまでヒゲを剃っていく。
「息子さんか、『お父さん自分でヒゲ剃れるんですか?!』ってびっくりしてはったらから、写真撮って送ってあげよう!」と、写真撮影が始まる。
すると、「わしもヒゲ剃っとこか」もう一人来る。
二人でシャカシャカヒゲをそる。

二人とも、シェービングフォームのモデルのようやなぁ。