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わたしの相方、イシダさん

わたしへの復讐か、お金が目的なら
300万あげるから二度と会わないでほしい


わたしが不安障害と診断される前、今の家に住み始めてからすぐ相方に言ったことばだ。



このとき、相方がなにを言ったかは覚えていない。
ただ300万よりもわたしをとったことで、現在も居を共にしている。



今後、不安障害のことを書くにあたって、相方の存在は語らねばならない。



そこで今回は相方について触れたいと思う。
見る人が見たら身バレは免れないが、どうか笑ってほしい。
普段の呼び方通り、イシダさん(仮称)と呼ぶことにする。

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こんにちは、イシダさん


イシダさんとの関係は、もともとキャストとお客様。



第一印象は全然しゃべらない人。
はじめましてのワンセットで帰ったあと、もう2度と会うこともないと思ったが、30分後に指名で戻ってきてから、その関係は始まった。



お客様に順位をつけるのは抵抗があるが、
あえてつけるとしたら いちばんの太客様だった。



しかし、わたしも若かった。
いちばん好きだったけど、いちばん嫌いなお客様だった。



ひとまわり以上 年上のイシダさんに食ってかかり、喧嘩した回数は数知れず。



「もう店に来なくてもいい!」くらいの覚悟で、言わなくていいことも山ほど言った。



それなのに、だ。
喧嘩(というか、わたしが一方的に喚いていただけな気もするが)をすると、
イシダさんは日本のどこにいようと駆けつけてきた。



ただ、わたしに不快な思いをさせたことを謝るためだけに。



自分に非はあらずとも、膨大な時間とお金をかけて不機嫌なわたしに会いにくる。



イシダさんはそんな人。出会って丸5年になるが正直いまだによくわからない。

ごめんね、イシダさん

今日そっち行っていい?


2020年12月のはじめ、午後5時過ぎ。


大阪で働いているイシダさんにLINEをした。


なぜこんな経緯になったかは、また後日書くが、
この当時イシダさんも、そこそこ大変な状況にあった。



それでもなにも聞かずに


いいよ、おいで




とだけ返信してきた。
そして、その数時間後にわたしは新大阪行きの新幹線に飛び乗った。



新大阪のホームまで迎えにきてくれたあの日から、わたしたちはキャストとお客様ではなくなった。



お互い、なんとか明日を生きるための相方になった。
戦友に近いものがあるかもしれない。



結婚するわけでも、まして交際するわけでもなく、
ただ、お互いの利害が一致したから同じ物件の同じ部屋に住むことになった。



イシダさんからしたら貧乏くじをつかまされたようなものだ。



料理はしない、排水溝の掃除は嫌がる。寝起きがすこぶる悪い。

とにかく金に細かくて口うるさい。

数年間の間に信頼関係を築いたはずなのに、身分証を見せろと言われる。



「付き合いたくない女」「地雷女」の条件を丸めて捏ねたような女と一緒に住むことになってしまったのだ。



それなのに、わたしが少しでも家事をすると、飽きもせず「ありがとう」を欠かさない。



イシダさんはそんな人。なにを考えているかわからないが、多分なにも考えていない。

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どうなの、イシダさん


お分かりかとは思うが、わたしはあまりモテない。



一部のコアな人からはお声がけもいただくが、消費されるだけの関係をモテと思い込むほどの純真さは無くなってしまった。



対してイシダさんは過去も現在もモテる。たぶん。



実際に、わたしが働いているお店の女の子からイシダさんは人気だった。



「いいなあ、イシダさんみたいなお客さんが欲しい」と言われたこともある。



それを聞いたわたしは、とびきりの変顔をしてタバコをふかすのが常だった。



「なあなあ、イシダさんてモテるん?」と悪代官のような顔で聞くと、



「んー、どうだろうね」とニヤニヤしながら言う。否定しないところがムカつく。あと、そのときの顔も大変ムカつく。



元カノたちは揃いも揃って美人だったらしいが、人は歳を重ねていくと好みが変わっていくのだろうか。



もしかしてイシダさんも、多くはいないと思いたい勘違いおぢと同じで、若さに魅力を見出すタイプなのだろうか。



(そこまでおバカさんではないと思いたいが)



イシダさんはそんな人。社会人になって20数年。都会と飲み屋で磨かれたであろう審美眼はいかに。

わたしの相方、イシダさん


いつだったか、お店で仲の良かったお姉さんに、イシダさんとのこれまでを聞かれたことがあった。



「あずみ(源氏名)がイシダさんのことをどう思ってても、この先の人生、腐れ縁になりそうだね」



話を聞いたお姉さんは、そう言った。



この先なにが起こるか、どうなるかはわからないが、
少なくともどちらかが飽きるまでは、なんとなく心地のいい、諦めの空気を共有していくのだと思う。



そしていつか、お姉さんの予言らしきものも笑い話になるのかもしれない。



それまでは、わたしの喜怒哀楽に付き合ってもらおう。



きっと喜んで付き合ってくれるはずだ。たぶん。
たまにスルーされるけど。



イシダさんはそんな人。
そしてそれが、わたしの相方、イシダさんである。

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