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ただ在ることの大事さ 〜生きる姿勢としてのマインドフルネス〜

当センターでは、2021年4月からMBSR講師養成講座を開催しています(2022年10月開講3期はこちらから)。
2021年10月からの講師養成1期の受講者であり、助産師/一般社団法人U-me代表の望月里恵さんにお話を伺いました。
(詳細プロフィール末尾)

インタビューア 宮本賢也

瞑想との出会い

宮本:
これまで、印刷会社でのアートディレクターなどを経て、現在、助産師としてお仕事をされる傍ら、一般社団法人U-meを設立し地域の子育て支援もされている望月さんですが、マインドフルネスとの出会いはどのようなことだったのでしょうか。

望月:
大学卒業後の、20代半ばの頃、大きな気分の落ち込みを経験しました。いま考えると、その頃はクセの強い考え方をしていて、とても生きにくさを感じていました。それで、カウンセリングを受けたりしました。自分の心に向き合うようになって、気持ちは徐々に落ち着いていきました。その後も、研修やセミナー、本などを読んで、心理学からスピリチュアルなものまで、いろいろ試す中で、瞑想に出会いました。

当時は集中力や心の穏やかさを得るために瞑想をしていたように思います。それから7−8年くらいは瞑想をしたりしなかったりという時期がありました。ジョン・カバット・ジン博士の著作にも早いうちに触れていたのですが、最初の頃は、「特定の在り方で注意を向ける」ということをしてどうなるのだろうか、とあまり興味がわきませんでした。今考えると、瞑想に対して問題解決型の期待をしていたのだと思います。

宮本:
その後、瞑想の実践はどうなりましたか。

望月:
瞑想にしっかりと向き合うにようになったのは助産師を開業してから少ししてからだと思います。マインドフル・バーシング(マインドフルな出産)を教えていらっしゃった先生のクラスを受ける機会があり、マインドフルネスに深く興味を持つようになりました。その頃は、家のことでも仕事のことでも辛いことがあっても辛いと口にするのが難しかったのですが、そのマインドフルネスでは一緒に受講していた方々のやさしさを感じて、一緒に瞑想する暖かさを感じました。

瞑想からMBSRへ

宮本:
そこからMBSR講師養成へ参加されたきっかけは何だったのでしょうか。

望月:
それまでも、もともと、お母さん方に瞑想を伝えられたらという思いは持っていましたのですが、そのような中で、医療との関わりのなかで伝えるなら、エビデンスのあるものがよいと考え、いろいろ調べた上で、今回のMBSR講師養成に行き当たりました。

宮本:
ご自身で最初にMBSRを受講されたときはどのように感じましたか。

望月:
それ以前の瞑想実践は、ガイド無しで20分くらい、ということが多かったので、コース中盤には45分の座る瞑想も大変でしたが、段々と慣れていきました。一番印象的だったのは、自分が自分に厳しくしすぎている、ということでした。そして、MBSRの7週目にある「自分に栄養を与えてくれる/枯渇させる活動」をリストアップするワークでは、自分が枯渇させる活動ばかりがリストアップされたのに対して、他の受講者の方が栄養を与える活動をたくさんリストアップされたのが驚きでした。

回を重ねるごとにグループの雰囲気が暖かくなっていき、みんなで助けながら学ぶという雰囲気があったことも印象的でした。

最初に感じたMBSRの難しさと、「ただ在ること」の大事さ

望月:
その一方で、クラスでは先生が直接の答えを言わないというケースも有り、MBSRを完全に理解したという感じがしないまま終わりました。たとえば、深く瞑想に入れたという感想をシェアしても、それが素晴らしいという話にはならなかったりして、どの方向に向かっていけばいいのか、禅問答を受けているような感覚もありました。それまでに参加したことのある坐禅会などでは、聞けば答えを教えてくれたものが、MBSRでは雲を掴むようなところがあり、後半モチベーションを維持するのが難しいと感じたことがあります。

宮本:
その時に抱いた疑問について、今はどう感じられていますか。

望月:
簡単に言うと、その時の疑問は、多くのことが明らかになったと感じています。MBSRを受けていたころは、目的のために座っていたように思います。いま、講師プログラムを受けていくにつれ、マインドフルネスを行なうのは何かのためでなく、ただ在る、ということを行っているのだと感じます。

講師養成トレーニングの参加を決めた頃は、MBSRを教えることは自分にとってツールやライセンスの一つになればというくらいの気持ちでいました。それもあり、実は申込みをした後に、自分の中に迷いが現れました。というのも、ライセンスをとるため、というのは、ありのままでよいというマインドフルネスと相反するのではないか、と思ったからです。

その頃、ティク・ナット・ハン師の書籍の翻訳も手がけられている島田さんの瞑想会に参加した際に、「伝えるのではなく伝わるものしか伝わらない。講師はその場の触媒になる。」といった趣旨のことを聞きました。それで、大事なのは形よりも、自分自身の在り方なのだと気づきました。自分がありのままでいることで自然と伝わるものがある、と。

MBSR講師養成のモジュール1に参加した時、講師養成の先生方が伝えようとしてくださっていることも、まさしくそのような「在り方」なのだと感じ取ることができて安心しました。先生方の「在り方」を受け取ることで、迷いや不安は完全に払拭されたのです。そしてその時から、MBSR講師養成は私にとって、ライセンス取得という目的以上に、マインドフルネスの実践を深めるためのトレーニングになりました。

MBSR講師になることとは生き方に根ざしたもの

宮本:
そうして、いまは、講師になるということをどのように捉えていますか。

望月:
今は、マインドフルネスは生き方により深く根ざしたものだと感じています。これから人生をかけて探求していきたい、生き方の姿勢だと思っています。

そして、講師になるということは、ライセンスをとるということよりも、受講頂く皆さんと一緒に探求する、旅をする、ということだと思います。本質的なことは言葉では伝わりにくいものです。その本質的なものがどう伝わっていくかと言うと、講師自身がマインドフルネスや人間としての在り方をどれだけ信じられるか、心の底から愛することが出来るか、ことによると思います。

MBSRの講師の役割は一緒にいる、ということではないかと思います。
その点、お産に似ているかもしれません。生むのはお母さんであり、助産師は黒子です。後ろからそっと支える立場です。ときには言葉をかけるより沈黙のほうがお母さんの支えになることもあります。自然の持つタイミングを一緒に待つことも大事です。信じて待ちます。こちらが出来ることは多くなく、そばにいて、励まし、寄り添う。マインドフルネスでも同じように、先生が受講者の皆さんに寄り添う、という態度が大事だと思います。

ともに学ぶ仲間の存在

宮本:
講師の先生とともに、一緒に学ぶ仲間の存在はどうでしょうか。

望月:
このIMCJ/IMAのプログラムでは、1年半以上のコース期間中を通じて、ずっと同じ仲間で取り組むようになっています。この仲間で一緒にやる、というのはとてもサポートになっています。ただ単位を取るように資格を取るのとは違う、みんなで一緒に学んでいく、サンガ(注:仏教における学びのコミュニティ)といっても良いと思います。その仲間の存在の中で気付かされることがたくさんあります。

そして、日々の実践の大切さも痛感しています。このトレーニング期間における自らの実践を通じ、自分自身が実践を通じて自分に接することを学び、それを元に受講者の方にマインドフルネスが伝えられるのではないかと思います。自分自身に寄り添う実践が、そのまま講師としての実践だと思います。

宮本:
このプログラムでは4人一組のピアグループで定期的に集まって頂いています。

望月:
その場が、自分をオープンに出来る場になっています。これがなかったら、単位を取るだけの、ライセンス的なトレーニングになっていたかも知れません。他の受講者の方々から学ぶことも多く、またその交わりの中で自分自身の実践も深まっていると思います。

体験と共にあることの大事さ

望月:
最近ではネガティブ・ケイパビリティ、ヴァルネラビリティという言葉もありますが、ありのままであるということは、解決しないこととともにあることでもあると思います。MBSR講師養成プログラムに参加していて思うのは、問題解決をできるときはすればいいけれども、それが難しい時は、解決しないままで、その体験とともにやさしくある、ということが時には大事だということです。瞑想のときなら、思考が生まれてきたときも、その思考と共にいて、待ってみる。人生において壁が現れてきたら、その壁と共いて、待ってみる。

宮本:
時には問題解決を急がず、ありのままに、その体験や問題と一緒にいることが助けになるということですね。そのように、ありのままにいると、どのようなことが起こるのでしょうか。

望月:
シンプルにストレスが減ったり、集中力も上がったり、自分や人にやさしくなれると思います。そして、うまく行かないことに心が乱れなくなります。思い通りに進まないこと、コントロールできないこと、その時にコントロールを手放して待つことが出来るようになります。
そして、それにより受け取ることも出来るようになります。

受け取ることで気持ちが育つ

望月:
最近思うのは、受け取ったことしか自分の中から出てこないと言うことです。愛しようとか、コンパッションを向けようとか、ともすれば概念的になりかねないのですが、自分が実際に受け取った体験があれば、自然と周りの人やものが愛おしくなる感覚があります。

私の場合は、歩いていると、地面が、ジャッジせずに自分の体全体を受け止めてくれている、と感じた時に、大きく豊かな気持ちになります。ありのままの自分を、自分自身で認めていることに気づきました。それに気づいたのはMBSR講師養成トレーニングの一環として参加した5日間のサイレントリトリートのときでした。何かを受け取れたという感覚がありました。

今後マインドフルネスが多くの方に届くために

宮本:
今後、マインドフルネスが多くの方の手に届くにはどのようなことが必要だと思われますか。

望月:
マインドフルネスは、認知度も十分ではなく、実際に受講できる機会もまだまだ小さいので、まずは、それを広げていくことが必要じゃないかと思います。講師同士がお互いにサポートし合いながら、一緒に広めていくというようにしていきたいです。お互いにサポートしていく、という関係性が、今回の講師トレーニングを通じてできてきていると思います。これを大事にして、愛の輪を広げていきたいと思っています。
2025年の大阪万博にも共創パートナーとして参加することになっています。多くの方と共同しながら、マインドフルネスを広めていければと思っています。

宮本:
本日はありがとうございました。

望月 里恵さんプロフィール

1981年生まれ。大阪府立大手前高等学校卒業後、京都嵯峨芸術大学短期大学部美術学科及びデザイン専攻科を修了し美術学士(建築)取得。25才で心身を崩し、自分の心と向き合うことで、人はとても生きやすくなるということを知る。
その後、大手印刷会社でアートディレクターを務める傍ら、心と身体について独学を続け、リーマンショックを期に退職を決意。テレビで開業助産師という職業を知り、命の誕生の不思議と、妊娠出産にかかわる心身の変化に魅せられ、助産師を目指すことに。
独立行政法人国立病院機構大阪医療センター附属看護学校卒業、看護師免許取得後、神戸市看護大学助産学専攻科に進学するが妊娠出産にて中途退学。出産の翌年に宝塚大学助産学専攻科入学、助産師免許を取得する。産科勤務を経て、ママと家族の心にもっとそばで寄りそい、生みやすさ・育てやすさ・生きやすさを共に目指したいと考え、2020年、リエ助産院を開業する。
2021年4月、地域の母子保健活動において感じた問題を解決するため、一般社団法人U-meを設立。同年10月より大阪市中央区の京阪シティモールにてひろば型子育て支援拠点「U-me-cafe」を開設する。
現在は、『生みやすく育てやすく生きやすく』のさらなる追究のため、世界的にスタンダードな科学的根拠に基づいたストレス教育プログラム・MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の日本で初めての講師養成プログラムに参加中。2022年8月よりMBSR8週間プログラムを提供開始予定。

望月さんプロフィール詳細/HPはこちら

2022年10月開講 第3期 はこちらより

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無料オリエンテーション開催 6月26日(日)19:30-21:30

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