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マインドフルネス認知療法(MBCT)入門公開講座Dr.Andrea(part2/3)

2020年7月2日にオンラインで行われた、カナダの精神科医、British Columbia大学Associate Professorである、Andrea Grabovac博士によるマインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy / MBCT)の公開講座Part2/3です(Part1はこちらより)。
※なお、下記はInternational Mindfulness Center Japan担当者が概訳したものです。また、スライドはAndrea博士の英文バージョンを、事務局で和訳したものです。

Andrea:このスライドは、MBCTのトレーニングを受ける人が知っておくべきスキルについてまとめたものです。

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MBCTは、一つの対象に対して注意を保つトレーニングを行います。たとえば、呼吸の感覚などです。ボディスキャンは、微細な身体的な感覚を養うためのものです。これを内受容的気づき(interoceptive awareness)と呼びます。思考の内容は個人に属するものとはされません。自らが体験している認知のエラーの種類に関わらず、そのことを信じることはありません。思考は、過ぎ去っていくメンタルな感覚である、と理解します。そして最も大事なことは、不快なものであったとしても、平静さ(equanimity)を伴って体験を受け入れ、許すことです。これらのマインドフルネスのスキルを用いることにより、悲しみに抵抗することにより生じる二次的な感情や余分な苦しみがなくなり、最初に起きた悲しみをうまく扱うことができるようになります。
MBCTのスキルは、医療の現場において、将来的なうつの再発予防について、抗うつ薬の維持投与と同等の効果があることが実証されました。よって、うつ再発予防のために抗うつ薬を飲みたくない人にとっては、一つの選択肢になりえます。また、グループで行う認知行動療法と同等の効果も認められました。カナダでは、うつの処置のガイドラインにおいて、1次治療の維持療法として推奨されています。また、急性うつの2次治療としても推奨されています。イギリスでは、NICEのガイドラインで、MBCTが3回以上のうつを経験した人向けの心理療法として推奨されています。
MBCTは他にも依存症にも用いられており、それはMindfulness Based Relapse Preventionというプログラムになっています。精神病の治療においても研究され、用いられています。ここ、バンクーバーでは、外来患者向けのMBCTも始めました。実際の日常生活においてとても大変で、困難で、気持ちがこんがらがってしまった外来の精神患者に効くかどうかを見極めたいと思っています。

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これはランダム化比較試験ではありませんが、MBCTを受講した250名の患者のデータを集めたものです。コースを始めた時点では、ベックの尺度で22ポイントと、うつの程度は中くらいでした。実際に、急性のうつの人がいたのです。そして、8週間終わった時点が赤いグラフ、6ヶ月後が緑のグラフです。うつのレベルはとても穏やかか、うつが無くなるところまで下がりました。

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私達は、マインドフルネスについての質問(The Five Facet Mindfulness Questionnaire)を用いて、マインドフルネスのレベルの計測も行いました。統計的に、コースを始めた時から8週間後にかけて、明らかな向上が見られました。そして、驚いたことに、コースを修了してから6ヶ月たった時点でも、マインドフルネスの力が向上し続けていたのです。

(瞑想練習)
それでは、いまから数分間、マインドフルネスの実践をおこなって見ましょう。
よろしければ、心地よい姿勢で座ってください。(椅子に座っている場合)足を床に置き、腰の幅より広く広げて、安定して体を支えてください。可能であれば椅子の背もたれを使わず、背中を伸ばします。目は閉じて頂いても結構ですし、まぶたを開けたまま力を抜いてそのあたりを眺めておくことでも結構です。鼻や上唇のあたりで呼吸の感覚を感じていきます。まずは注意がここに向いていくことをそのままにしておきます。呼吸が入ってきて、また出ていくままにさせておきます。呼吸を長くしたり、短くしたりコントロールする必要はありません。また、深い呼吸、浅い呼吸といったことも、呼吸が生じるままにしておきます。入ってくる空気の冷たさや、出ていく空気の暖かさを感じるかもしれません。空気が上唇や鼻にふれる感覚に気づきます。鼻や鼻腔の小さい範囲の感覚から、心の動きを感じるかもしれません。そうして、思考に気づく準備ができます。思考が生じるたびに、その思考の中には有益な情報も含まれているかもしれませんが、それは思考に過ぎない、メンタルな感覚である、ということに気づきましょう。
次のステップは、思考に自動的に反応せず、思考と一体化しないようにすることです。思考に対し、ありがとう、でもいまは遠慮しておきます、と言っても良いかもしれません。
3つのめのステップは、思考から緊張を解き放ち、意図を向けると決めていたものに注意を戻すことです。いまであれば、鼻の部分で感じる呼吸の感覚です。生じた思考が、説得力があって興味深いものであっても、2秒以内に、あえてその思考から意識を解き放ち、呼吸の感覚に注意を戻します。
あと1分間、ご自分で練習を続けてみましょう。
意識が呼吸、体の感覚、音などに向くたび、そのことをあまり自分自身のことだと考えないようにして、がっかりしたり打ちのめされたりしないようにしましょう。これは認知の機能をトレーニングする機会であって、これこそが私達が瞑想の練習を行う理由です。
ですから、腹をたてること無く、体や心の感覚に気づき、そこから注意を離して、鼻の入り口の温度、動きなど、生じている感覚に注意をもっていきます。あと何回か呼吸をしたら、手や足を軽く動かして、目を閉じている方は目を開けてください。(練習終わり)
一緒に練習に取り組んでいただきありがとうございました。

それでは、これから、MBCTの8週間について、どのようにトレーニングを行っていくかを見ていきたいと思います。先程見たように、またこれからも出てきますが、それぞれのセッションは、同じような構成になっています。

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マインドフルネスのプログラムは、MBCTの他にも様々なタイプのものがありますが、そのプログラムの如何に関わらず、受講者が学ぶことは同じスキルです。すなわち、無常さ(impermanence)、体験が生じては過ぎ去っていくことに注意を向け、幸せな状況を生み出しそれを永久に保ち続けることはできないために体験においては常に不満足さが伴うこと、そして独立して存在する「私」というものは存在しないということに気づくことです。受講者は、歯を磨くといった日常の活動、ボディスキャン、マインドフルムーブメント、マインドフルウォーキング、これらのあらゆる練習を通じて、先程言ったような現象に注意を向けることになります。
セッション1では、自分自身が自動操縦状態に陥っていることを観察するところから始めます。今ここに存在しない状態で人生を送る、ということが如何にたやすく生じるかということを知ります。ここではレーズンエクササイズを行います。一人一つずつレーズが配られるのですが、エクササイズの前に無意識のうちにレーズンを食べてしまう人すらいます。また、シャワーを浴びるときに、自分がもう髪を洗ったかどうかさえ覚えていない、というようなことが話題にのぼることもあります。
セッション2では、「体験について考えること」と「マインドフルに、直接、体験すること」の違いを見ていきます。ここでは、マインドフルネスの練習の妨げになる5つのことについて取り上げます。すなわち、執着(attachment)、嫌悪(aversion)、眠気(sleepiness)、落ち着きの無さ(agitation)、疑念(doubt)です。
セッション3では、早くも40分間の座る瞑想を一緒に行います。セッション2では、心地よい感覚について観察し、セッション3では不快な出来事について、不快な感覚への自動反応が起きていることをホームワークで観察することになります。それらの中で、自分に備わっている、心地よさを求める感覚を探索します。
これが、セッション4を行うための準備になります。このセッションはMBCTにおいて最も大事なセッションの一つです。ここでは、私達の自動反応の本質について深く理解をしていきます。私達の深層にプログラムされた、不快さに対する嫌悪と、快に対する執着についてです。40分間の座る瞑想で、選択しない注意(choiceless awareness)によって快と不快の両方の感覚が生じ、過ぎ去っていくことを眺めます。
セッション5では、受容(acceptance)と平静さ(equanimity)について取り組みます。
セッション6では、思考は、精神的な感覚に過ぎない、ということをより確実に理解していきます。胆嚢が胆汁を作り、皮膚が皮膚の細胞を作るように、脳が思考を作ります。臓器が体に必要なものをつくるように、脳という臓器が思考を作ります。何も特別なものではありません。
セッション7では、出来事に対してこれまでの癖に従って自動反応をする代わりに、自分自身をいたわるような上手な対応の仕方をするにはどうしたらよいか、とういことを探ります。
そして、最後にセッション8で、全体を振り返り、練習を継続していくためにどうしたらよいかということを扱います。

Part3/3に続く

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募集中のプログラム

◎マインドフルネス認知療法

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今回お話いただいたAndrea先生にSupervisionを受け、UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)で講師トレーニングを積んだ井上清子が講師を努めます。

◎オンラインマインドフルネスStudy Group

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国内外の経験豊かなマインドフルネスの先生をお招きして行う、月例のオンラインStudy Groupです。今回お話いただいたAndrea先生にも10月にご登壇いただきます。

最後までご覧いただきありがとうございます。一緒にマインドフルネスを深めていきましょう。お気軽にご連絡下さい!