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トラウマとアディクション・依存症:Felittiの小児期逆境体験の研究から

「アディクション・依存症の背景には必ずといってよいほど、トラウマがある。」

これは、長年のアディクションへの支援や、自分自身が自助グループに参加し仲間の話を聞くなかで強く実感し、また多くの文献が示しています。

トラウマ・サバイバーが皆アディクション・依存症を発症するわけではありませんが、アディクション・依存症の背景には、少なからず「トラウマの影響がある」と感じています。

トラウマ研究の世界的権威であるヴァン・デア・コルクは以下のように述べています。

van der Kolk

なぜ、トラウマのある方が、アディクション・依存に陥るのでしょうか。トラウマの痛みを癒すために、物質を使用する可能性があるのです。トラウマの痛みが具体的にどう言うものかというと、交感神経と副交感神経(簡単にいうとテンパりとリラックス)の調整がうまくいかないために、非常に苦痛な状態が続くのです。

白川は、ピリピリしている人は、抑制系(お酒や抗不安薬)、過食、過度なSNSなどで誰かとつながって安心感を得たいとする欲求が強く、麻痺が強く、健忘や解離を起こしやすい人は、覚醒剤などのアッパー系にハマりやすいと指摘しています。


小児期逆境体験とは何か?

小児期逆境体験とはどんな体験なのでしょうか?

ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、身体的虐待などを含む、深刻なトラウマが、小児期逆境体験です。

Felittiの研究

Felittiという研究者が、1998年に、成人の肥満などの背景を調べてみたところ、性的虐待などの小児期逆境体験と呼ばれるトラウマがあることが判明し、画期的な研究となりました。

小児期逆境体験についてのFelittiの言い分は、以下のようにまとめられます。

  1. 小児期に経験したストレスやトラウマが、成人期になってからの身体的、精神的、社会的な健康に影響を与えることを発見しました。

  2. 小児期逆境体験は、身体的な健康にも影響を与える可能性がある。Felittiは、小児期にストレスやトラウマを経験した人々が、成人期に肥満や糖尿病、心血管疾患などの疾患を発症するリスクが高いことを発見しました。

  3. 小児期逆境体験に対する支援や治療は、成人期における健康につながる可能性がある。Felittiは、小児期逆境体験による影響を減らすために、サポートグループ、カウンセリング、心理療法などの治療法が有効であることを示しました。

  4. 小児期逆境体験に関する認識を高めることは、社会的な健康につながる可能性がある。Felittiは、小児期にストレスやトラウマを経験した人々が、社会的偏見や差別などの社会的ストレスによって、さらに健康に影響を受けることを指摘しています。したがって、小児期逆境体験に関する認識を高め、サポート体制を整えることが、社会全体の健康につながるとFelittiは考えています。

下の動画は、小児科医による小児期逆境体験についてのわかりやすい動画です(Felittiではないです)。日本語訳もついておりますので、ぜひご覧になってください。すごく大事な動画です。

トラウマとアディクション・依存症

小児期逆境体験の研究の中で、アディクションとの関係はどう説明されているのでしょうか?以下の表をご覧ください。

小児期逆境体験が、4個以上ある人は、0個の人を比較すると自殺企図は、12倍、注射による薬物使用は10.3倍、自分自身をアルコール依存症だと思うは約7.4 倍、違法薬物の使用は4.7倍のリスクがあることが示されました。

それだけ、アディクション・依存症にたいして、小児期逆境体験が強い影響を及ぼしているということです。

日本の調査では


日本のダルク(Drug Addict Rehabilitation Center)の調査によると、利用者男性の67.5%、女性の72.7%が、中学生までの被虐待経験を持っていることが明らかになっています。

このように、アディクション・依存症と、トラウマ体験はつながりが深いのです。

まとめ

依存症・アディクションに陥る人は意志が弱い、性格に欠点があるなど個人の欠点に起因するとする偏見やスティグマが以前として強くあると思います。

しかし、依存症・アディクションの背景には、このようなトラウマの問題があり、治療が必要なトラウマを抱えながら懸命の自己治療の結果としてアディクション・依存症を発症している可能性が高いのです。

アディクション・依存症は、意志の問題ではなく、病気であることの背景には、このようなトラウマ体験の多さが一因としてあることを覚えておいていただければ、アディクション・依存症への理解が増すのではないかと思います。

また、アディクション・依存症の当事者の方は、トラウマについてどう向き合っていくか、どうケアしていくかが回復において、一つの重要な課題になります。

私の個人的な回復の体験からは、アディクション・依存症がある程度落ち着いてから、トラウマをケアする時間、トラウマについて安全な場で語る時間が必要だと感じています。しかし、トラウマがアディクション・依存症に関係しているのだという理解を持っておくことは、その人の疾病理解を深めると感じています。その話は、また次回詳しく書きたいと思います。 

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