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大人のADHDの方が、マインドフルネスで得られる5つのメリット

ADHDは、自己規制の障害である。マインドフルネスは、自己規制のトレーニングである。 Zylowska & Mitchell 2020 

 こんにちは。先日書いたADHDママの話が、身近なところで反響が多かったので、ADHDとマインドフルネスの話を掘り下げて行きたいと思います。

 私は、MBRP(アディクションのためのマインドフルネス再発予防)講師なので、MBRPを5クール過去に教えています。依存症の方の中には、ADHDを合併する方も多い印象があり、マインドフルネスをADHDの方が身につける苦労を見ています。それと、同時に、ADHD傾向の方がマインドフルネスを身につけると利点も計り知れないと感じています。

 自分自身がADHDなので、じっと座る瞑想を実践するのは大変でした。どうやって身につけたかというと、本当に数分むずむずしながら耐えるという忍耐トレーニングを少しずつ深めていきました(むずむず足症候群もあるのかも)8週間のオンライン・マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)を受講後は、30分〜40分座れるようになりました。いまでは、本当に50分くらい?は座ってられるようになりました。そして、集中力が増したり、頭がスッキリするようになったという話は前回の記事でも書きました。


 昨年末に、「Mindfulness for Adult ADHD:Clinician Guide」(大人のADHDの方に対するマインドフルネス:臨床家ガイド」という本がGuilford Pressより出版されました。Lidia ZylowskaというUCLAのマインドフルネスに関わっていた女性精神科医とJohn Mitchellという方による臨床ガイドです。私はLidiaの瞑想ガイドもよく聞いていますが、ADHDにありがちな傾向に対するガイダンスが的確で唸っています。

 「大人のADHDの方が、マインドフルネスを身につけるとなぜよいのか?」という点についてが、イントロダクションに書かれていましたので、今日は自分の体験もまじえながら、その点について簡単にご紹介していきたいと思います。

 この本では、Zylowska先生がUCLAで開発されたMAPs forADHDという8週間のプログラムの概要とそのファシリテーションについてが、書かれています。推薦は、ADHD業界の大御所Russel  Berkley先生が書いていらっしゃいました。

 そして、この本は我々のチームが翻訳し、金剛出版より出版することが予定されています。来年度以降の出版の予定です。


ADHDは、自己規制の障害である。マインドフルネスは、自己規制のトレーニングである。 

このことが、イントロダクションの最初に書かれています。

 近年発表された行動変容についての論文でも、マインドフルネスがなぜ行動変容に役立つのかというと、「自己規制」ができるようになるからだという主張がメタ分析から明らかにされていました。

 自己規制とは、自分で自分をコントロールできることと言い換えることができるでしょう。それができないのが、依存症やアディクションであり、ADHDの方の特徴です。

 引用は、すべて上記の本からになります。

マインドフルネスとは、注意を向ける練習であり、いまこの瞬間の体験を受容する練習である。

 マインドフルネスは、自分が今、この瞬間に行っていることに意識を向けるトレーニングです。忙しい頭の中や、様々な自分についての感覚から距離を置き、「認知していることを認知する」メタ認知をトレーニングすることが可能です。

 具体的に言えば、怒っているときに怒っていることに気づいたり、瞑想から意識がさまよったときに、それに気づいて呼吸に意識を戻したりすることがメタ認知です。

 自分の場合の例をあげます。繰り返し瞑想の訓練を行っているうちに、今している仕事から意識がそれてグループラインへの返信に気がそれていることに、途中で「は!」と気づき(メタ認知)、今は、仕事をしているのだったと、もとに戻れるようになっていきます。意識がそれたことに気づき、より機能的な選択ができます。

 現代社会では、スマートフォンなどの普及により多くの人が、「今本当にしなければならないこと」を見失いやすく、目の前のスマートフォンの刺激につられて、自動操縦モードに陥っているのではないでしょうか?集中できず困っている人は実は多くなっているのでは?との印象を、9割がスマートフォンの画面を見つめているちょっとびっくりする風景を電車内などで見かけると思います。まあ、自分もipad見ていることが多いですので、人のことは言えません。

 マインドフルネスは、感情的、認知的自己規制を発展させるアプローチになっているので、自動操縦モードから、今ここに集中や意識を再び向け、大切なことに気づくことができるようになります。

メリット1 注意の自己規制がよくなる

 注意が訓練されます。意識がさまよったら、それに気づいてアンカー(呼吸や身体感覚)に意識を戻すというトレーニングがマインドフルネス(の一つ)です。トレーニングを繰り返しているうちに、注意・集中が訓練されます。

 まさにADHDは、日本語でいうと注意欠如・多動症ですから、注意欠如をトレーニングできるマインドフルネスは、そのままダイレクトに効果が見込まれるわけです。

マインドフルネスは、実行機能を強化し、ワーキングメモリーをストレス下でも、保護してくれます。

 ええ?では、もっとマインドフルネスを娘保育園時代にも行っていれば、保育園からリュックを持ち帰り忘れるという事態は免れたのでしょうか・・・

 たしかに、自分の場合も、マインドフルネスで実行機能は改善しました。主観的には、マインドフルネスのトレーニングを実践するようになってからのほうが、マルチタスクが可能になったり、やりはじめたことを延期せず終わらせられる、(誤字脱字は多いものの汗)文章を書き上げることができるようになりました。

メリット2 感情制御がよくなる

 マインドフルネスを身につけることの一つの大きなメリットは、感情的な反応性が下がることです。MBRPでも、「感情的に反応しなくなった」「切れにくくなった」「衝動的に反応しなくなった」などと言う感想をよく聞きます。

 マインドフルネスを実践すると、いったん間をおけるようになることから、感情的に反応してしまうことが減るのです。

 感情に早い段階で気付けるようになります。例えば、怒りを感じているときは、体が戦闘態勢に入っています。肩に力が入り、顔が紅潮します。こういった、体のサインにより早く気づくことで、「より効果的な」次の一手が打てるようになるのです。例:疲労で、イライラしてきたから、このあたりで休憩をはさもうなど。

メリット3 新しい反応の選択や、新しい適応的な行動を取れるようになる

注意欠陥に関する「価値判断」をしないことが増えることによって、集中力を修正することができるようになります。そうすることで、マルチタスクがシングルタスクとなり、終わらせられるようになります。

 瞑想を教えていると、皆さんが、瞑想をちゃんとできない、集中できないことにものすごくネガティブな価値判断をしていることに驚きます。自分に厳しく、「今日もだめだった集中できなかった」「瞑想は、難しい」「私は、瞑想にむいてない」「無になれない」そんな感じで、自分に厳しくダメ出しをされる方が多いのです。

 マインドフルネスの父である、ジョン・カバットジンは、「意識が何百回、何千回とそれてもそれでいいのです。それが人間も心というものです」と繰り返し述べていたので、「意識はさまようもの」と私は思っています。

 最近の研究でも、やることがなくなると、起動するディフォルトモードネットワークが、課題をさがすようにできているというではありませんか。要するに、人類の脳は、やることがなくなると心がさまようようにできているのです。当然さまようのです。そこにダメ出しは必要ありません。ただ、元に意識をもどせばいいだけです。戻すたびに、マインドフルネス筋肉が強くなっています。


メリット4 自己への認識が変化する

 自分という自己感覚に、とらわれすぎないようになります。自己理解が、自然に深まります。自分のADHD的な脳の特徴や、パターンや、内的資源などに気づくようになります。

 例えば、自分の場合だと、空腹に弱いことにマインドフルネスを実践して気づきました。空腹になると、頭痛がして、イライラして、注意が散漫になり、ネガティブになります。家族は、空腹に強いので、空腹時対策(ドライブ中などの)として、カロリーメイトや、ブドウ糖のラムネを常備しています(笑)

 先日の記事でも書きましたが子どもといると脳がより散漫になることにも、気づきました。そのため、複雑な仕事は、一人の時に落ち着いて、頭がすっきりしている午前中に実施するようにしています。

 マインドフルネスを身につける恩恵の一つに「無常」を知ることが挙げられます。自分の気持も身体感覚も、これは耐えられないと思っている苦労も、すべては変わりゆくもの、過ぎゆくもの・・ということに、瞑想をしていると気づくようになり、ある程度のことは受けいられるようになります。

 そして、いかに自分がエゴにとらわれているか?ということにも気づくようになりました。

メリット5 セルフ・コンパッション

 ADHDママの何がつらいってやっぱり、「私は良いママでない」「ちゃんとしたママじゃない」という痛烈な自己批判です。

 忘れ物や提出物忘れのたびに「ああ、私ってなんてだめな母なんだろう」と思いますし、しかもそれを思ってもまた繰り返すので、「私なんて、いなくなったほうが・・・」とまで、瞬間的ですが、思うこともあるのです。

 マインドフルネスを身につけていると、セルフコンパッションが高まります。

 マインドフルネスを実践する上で、価値判断などの自分の付け足しに気づいて、手放せるようになっていくと、より自分に対して優しくなれます。さらには、セルフ・コンパッションのスキルを磨いていくトレーニングもあります。(マインドフル・セルフ・コンパッションなど)

ADHDを持っている方が感じやすい恥の感覚、スティグマ、自己批判などに対して、おおむね自己受容的になります。

 その他にも、ストレスマネージメントが改善したり、対人コミュニケーションが改善するといったものもありました。

ADHD用のMAPsではこれらについても、扱っている模様です。

まとめ

 いかがでしたでしょうか?

 ADHDの方のマインドフルネスの習得では、より短時間に瞑想の時間を区切り、やる気があがるような動機づけの工夫が不可欠とされています。

 さらに学びを深めていきたいと思っています。

 ADHD的傾向を持つマルチタスク母さんとしましても、昼過ぎに頭がぼんやりしてくるころに、「STOP」や「まいっかな瞑想」をして、「今、何が大切?」「優先順位は?」と自分に問いかけるのは、とてもためになっています。

(ガイド瞑想更新しました)

 先週末に、心理臨床学会でマインドフルネスのワークショップの講師を担当させていただいたのですが、300名を超える多くの方々が参加してくださり、熱い熱気を感じました。特に、どう臨床に使えるか?に皆さん関心が強いようでした。マインドフルネスを本格的に教えるには、まずは自分がマインドフルネスを身につけて1年以上の瞑想体験や、教えるための学び(講師養成講座)も必要です。そのことも別記事にまたしようと思っています。

 臨床家の皆さま、マインドフルネスは、ADHD支援にも有効です。




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