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【経済本100冊】Vol.40:『「価格」を疑え』(著:吉川尚宏)のあらすじ


こんにちは!メンタルブロック解除人こと心理カウンセラーの大和です。
こちらでは、「数字に疎い心理オタクが、経済関連の本を100冊読むとどうなるか?」と言う企画で、読破した経済関連の本を紹介して行きます。
既に経済に詳しい方もそうでない方も、今後の本選びの参考にして頂ければと思います。


今回ご紹介するのは、吉川尚宏さんの『「価格」を疑え』です。

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基本情報

タイトル: 「価格」を疑え
著者名:吉川尚宏
初版発行年月:2018年5月
ページ数(大体):約220pg
難易度所感〈五段階〉:★★★★ ややムズい

大和の適当あらすじ

政府が様々な市場に介入して、価格を歪めているんだよと言うことを教えてくれる本。


全体の感想

全体的にやや難しめの、しかしながら非常に論理的で歯応えのある本でした。テーマ的には、ビール・バター・携帯電話料金・地下鉄運賃等、日常身近なものをテーマにしているので、興味が湧きやすいです。ここではビールとバターの問題の学びポイントをピックアップ。

一見単純に見える問題の奥に、実は組織的な大きな歪みがあった何て言うのは、ジャーナリスティックで、推理小説ものでも読むようなワクワク感があって、これ読むと滅茶苦茶アタマ良くなった気がします(笑) 実際、著者もかなり頭のいい人だと思いますし、よく噛み砕いてあらゆる側面から丁寧に解説してくれていますが、それでもちょくちょく読んでて理解の追いつかない所はありますので、そこはネットとかで調べて各自補完すると良いでしょう。

著者は恐らく反権力の、小さな政府志向の考えの持ち主で、その考えを裏付ける為の論としての本だと思います。各業界の経済の仕組みを知る上では参考になりますが、貧富の格差が拡大している今日においては、著者の自由放任主義的な考えは読者には賛否両論あるかも知れません。一見、庶民側に立っているかのようなスタンスではあるんですけどね(笑)

大和の学びポイント


< 学びポイントまとめ >

★ビール各社は小売店にリベートを支払っている
★2016年の酒税法改正でビール会社のリベート制度が禁止に
★中小酒店はそもそも価格競争をするべきではない
★2016年改正酒税法の曖昧さ
★改正酒税法以前に、そもそもビール市場が縮小していた件
★企業努力による値引きと不当廉売を見分けるのは困難
★バター不足原因に関する農水省の説明
★バター不足が起こる生産構造的理由
★バターの生産・流通構造は計画経済
★一物多価の生乳価格
★牛乳と乳製品の可逆性と裁定取引の関係
★雪印事件による脱脂粉乳のイメージダウン
★脱脂粉乳需要が減るとバターも不足するメカニズム
★輸入バターの貿易規制問題
★バター不足問題の総括


< 各詳細 >

★ビール各社は小売店にリベートを支払っている
・・・一般的にビール各社は小売店に、販売奨励金としてのリベートを支払う。これは、販売を増やしてくれる小売店に対する、メーカーが支払うインセンティブである。メーカーにとってこの制度の利点は、表面上の販売価格を値崩れさせることなく、小売店に販売を促すことができることにある。他方、小売店にとっての利点は、返品制度を崩さず値下げ原資を確保できることにある。日本の商慣行は返品可能が一般的だが、買い取りによるまとめ買いがしにくい小規模な小売店にとっては特に、リベートはまとめ買いのボリュームディスカウントに代わる、限られたインセンティブの機会となるのである。これがビールの販売価格決定に大きな影響を与える。


★2016年の酒税法改正でビール会社のリベート制度が禁止に
・・・ビール各社が小売業者に支払うリベートの制度は、以前より国税庁より不当廉売を指摘する声があり、また、小売業の安売り攻勢に苦しむ中小一般酒販店の政治団体が自民党に働きかけたこともあって、2016年に酒税法が改正され、メーカーは正当な理由無く、仕入れ値に人件費を加えた原価を下回った価格での販売を規制されるようになった。もし原価を下回った価格で販売を続けた場合には、社名の公表や、酒類の販売業免許取り消し等の厳しい罰則も設けられた。この法改正の名目は、「価格競争に疲弊した酒店を守ること」である


★中小酒店はそもそも価格競争をするべきではない
・・・2016年の酒税法改正で、保護の対象とした中小酒店は売り上げが伸びたかと言うと実はそうでも無かった。と言うのは、そもそも大量のビールを販売し得る大手流通業はボリュームディスカウントで卸値を下げることができ、延いては小売価格も抑制できるのである。一方、取引量の少ない中小酒店は大きなボリュームディスカウントができない為、卸値も比較的高く、これにマージンを乗せて販売していては、大手流通業に対して価格競争で勝ち目は無いのである。また、コンビニはビール類を定価で販売しているが、彼らは決して価格競争を仕掛けている訳では無い。寧ろ価格プレミアムに見合う利便性を訴求している。一般酒店も目指すべきは価格以外の付加価値であって、そうした経営努力なしに価格規制を働きかけても、消費者から離反されるだけである。

★2016年改正酒税法の曖昧さ
・・・2016年の酒税法改正は、ビール会社のリベート制度を規制し、不当な価格競争を抑制しようと言う目論見だった。その為に厳しい罰則も設けられたが、その一方で、いくらなら安売りと見なすかが各社の解釈次第とされ、曖昧なままだった。また、そもそ改正酒税法が存在しなくとも、独占禁止法では不当廉売を禁止しており、もしメーカー・卸・小売りの過程における価格設定で原価割れが起きているなら、公正取引委員会が独禁法違反の観点で取り締まれば良いのである。酒類だけをターゲットにして、独禁法では無く酒税法で取り締まるのは不合理であり、その根拠が曖昧である

★改正酒税法以前に、そもそもビール市場が縮小していた件
・・・一般酒店の保護を名目に、2016年に改正酒税法が成立したが、そもそも規制は必要だったのだろうか。と言うのは、消費者の観点からすれば、酒類販売における一般酒店の位置付けは年々低下し、存在感が無くなって来ている。そして、小売りチャネルを巡る競争は衣食住のあらゆる商品で起こっていて、酒類だけがその例外では無い。大手も安泰とは言えず、ネット販売との競争に晒され、年々その地位が危うくなって来ている。加えて、ビール市場自体が縮小傾向にあるので、そうした中で規制を導入したことで、結果として値上げを招き、よりビール離れを加速してしまったのでは無いだろうか

★企業努力による値引きと不当廉売を見分けるのは困難
・・・2016年の改正酒税法では、ビール会社の小売店へのリベートが規制されたが、そもそも大手流通企業にとっては、ビールは客寄せの商材であって、それ単体で儲けることを必ずしも考えている商材では無い。他商材も売りたいと考える小売企業にしてみれば、この規制で価格設定の柔軟性を失わせることにもなりかねないのである。また現実には、企業努力による値引きと、不当な安売りとを区別することは困難である。一方的に、「一般酒店の保護」を名目に政府が介入することは非合理であり、商品価格からダイナミズムを失わせ、市場を歪めてしまう恐れがあるのである


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