デンマークの高校【歴史の授業】
先日、デンマークの高校の歴史の授業を見学させていただいた。生徒たちはこの夏に卒業する高校3年生で、最終試験を間近に控えていた。
今学期の全体の授業テーマは「革命とイデオロギー」時代設定は1700年代〜1900年代。具体的には次の2点が学習目標とされていた。
①産業化や革命がどのように起こり、その中でイデオロギーがどのように生まれたのか。
②それらのイデオロギーが歴史にどのような影響を与えたのか。
見学した回の授業は、生徒がいくつかのグループに分かれて、1グループずつ先生とディスカッションをする形式で進んだ。残りのグループは教室の外でディスカッションの準備に向けてグループワークを行っていた。
ディスカッションのテーマは「革命やイデオロギーに関する資料から何が読み取れるか、また、どのような論点を提示できるか?」
資料としては、フランス革命・産業革命にまつわる絵やデータ、マルクスとエンゲルスの共産党宣言・アダムスミスの国富論の一節、そして現在の欧州議会の政党グループを示す図が取り上げられていた。
具体的に生徒からは、次のような意見が上がった。
ディスカッションは、先生がうまくリードしながら進んだ。例えば「この絵を書いた作家は誰に対して共感を示していると思う?」「マルクスは自身の考えを主張するために、どんな歴史のイデオロギーを利用している?」と生徒に問いかけていく。
そして、生徒が誤った解釈をしていた場合はしっかりと指摘する。例えば、フランスの絶対王政下の時代を示す絵に描かれた「奴隷」を「労働者」と答えた生徒に対しては「この時代にはまだ"労働者"という概念は生まれていないよね」と訂正していた。
そして何より、生徒からはバンバン意見が出て、ディスカッションが止まる瞬間がない。誰かが意見を言っている間も複数人が手を挙げて、意見を言うのを待っている状態。この光景には毎度驚かされる。
授業後に、先生とお話しする機会をいただいた。
普段の授業でもディスカッション、グループワーク、ロールプレイングなど生徒主体の活動が中心で、講義はしても最大10分だそう(デンマークの生徒は講義が嫌いで、これ以上は集中力がもたないからだという)。
授業内容については、カリキュラムがそこまで細かく定められているわけではないため、先生の自由裁量が大きく、国際情勢や生徒の興味に合わせて決めているという。
試験は口頭試験のみで、今回のように資料から自身で論点を示し、それに対する分析・解釈をプレゼンする形式で行われるそう。評価手法はSOLO Taxonomy(Structure of the Observed Learning Outcome)と呼ばれる手法が用いられており、知識をいかに正しく理解しているかというQuantitativeな基準だけではなく、それを発展させていかに自分の考えを展開できるかというQualitativeな基準も考慮し採点される。
先生が考える歴史教育の目的は、歴史が現在の世界にどう繋がっているのかを理解すること。きっと歴史を歴史として学ぶというよりも、今を理解するための一種のツールとして用いている感覚なのだと思う。
そして、授業で大切にしていることは、生徒一人ひとりが考えを形成し、解釈すること。「日本の生徒の方がより多くのことを知っていると思う」「ただ私が期待するのは一つの決まりきった答えではなく、一人ひとりの考えを聞くこと」と話してくれた。
最後に私の感想を少し。
今回デンマークの教育現場を目の当たりにして、改めて愕然とした。私が高校時代に経験した歴史の授業とはあまりにもかけ離れていて、年万歩も先を行っていたから。
受験のためにひたすら年代と人名を暗記することには全く意義を見出せなかったけど、目の前で繰り広げられたディスカッションからは歴史教育の「意義」を確かに見出すことができた。
そして、おそらく歴史に限らず、どの授業においても一つの正解よりも「どう考えるか」が大切にされていて。デンマークの若者たちは、おそらく小学校、もしかすると生まれた瞬間から、自分の考えを持つ訓練を受けてきたのだと思う。それは学校の枠を飛び越えて、社会や自身の人生に対する考えを持つことにも繋がっているような気がする。
それぞれの社会背景があって、一長一短があるのも分かっているけれど、でもどうしても、この目で実際に見てしまうと、デンマークの教育の方が「良い」と思わずにはいられない。どちらの教育をこれからの日本の若者に受けてほしいかと問われれば、迷わずデンマークの教育と答えると思う。
先生曰く、デンマークでも受け身の教育をしていた時代もあったそうだけど、日本とどこで、なぜここまで分岐してしまったのだろうか…..
もちろん、日本の教育をそのままデンマーク型にすることはできないし、する必要もないと思う。ただ現状を変える必要があるということは確かで、「じゃあどうやって?」を考える際に、デンマークの教育のあり方は大いに参考になるだろう。
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