葬儀打ち合わせ

葬儀屋さんの車に乗って、監察病院へいく。車の窓から見る外の風景は相変わらず平和だ。土曜日で、公園に親子連れがたくさんいる。どうしても同じ世界に生きていることが信じられない。

監察病院に着く。死体しかみない病院なのに、とても綺麗だ。ガランとした待合に、誰もいない。受付に女の人が一人だけ座っていて、受付を済ませる。

長い廊下にはたくさんの個室が並んでいたが、どれも空っぽだ。その先の解剖室で、なんの傷もない、二日前に寝た時と同じ彼の身体は切られてしまう。切って、何かわかるのだろうか。

私たちは個室に通された。葬儀屋さんと、義父と、私。警察署での打ち合わせの続きが行われる。悲しい目の担当者が、一通りの流れを説明してくれる。まずは、死亡届を書くのだそうだ。間違えてはいけないらしい。震える手で慎重に、一文字一文字書く。なんだ、この感覚。いつか同じ感覚を味わったことを思い出す。うだるような暑さの日に二人で書いた、結婚届。修正液を使わないように、二人で緊張しながら一文字一文字書いた。こんなにもあの時とは一文字の重さが違う。彼の崩れた、流れるような文字がこの世に生まれることは、もうないのだ。

泣きながら、死亡届を書き終える。

すると、すぐに葬儀の打ち合わせに入る。悲しい目の担当者は会社のパンフレットを広げ、祭壇に飾る供花から決めるという。まだ彼が死んだ事実を受け入れていないのに、なぜこんな打ち合わせをしているのか。と思った次の瞬間、決めなければいけない膨大な選択の一つ一つに、冷静に次々と決断し、仕事のように対処した。花は白を基調にしたものもあれば故人が好きだった色にアレンジすることもできるそう。海が好きだった人は青のお花にしたら、ハワイが好きだった人は南国のお花を入れたり。パンフレットで見ると小さく寂しそうに見える花飾りから、何十万と出して華やかに見せる供花まで、本当にピンキリだ。やはり寂しすぎるのもどうか、ということで義父とそれなりのボリュームのものを選ぶ。次に、棺桶。ヒノキ製だといくら、スギ製だといくら、彫刻があるものだといくら、彫刻がないものだといくら。遺体が数時間入っているだけで、焼かれてしまう棺桶に高価なものを選んでもしょうがない。棺桶は一番安いものにした。




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