「ごめん。」

次の日も、梅雨の合間の晴れ間が出ていた。窓を開けると、あたたかな風が爽やかで、正直、とても心地良く、気持ちがよかった。気持ちが良いと思ったことに罪悪感を抱き、ブルブルと頭を横に振った。どんな天気も気持ちがいいことなんか、これからはもうないんだ、と自分に言い聞かせた。

顔を洗いに洗面所に行くと、鏡に映る中年の女性の姿にゾッとした。髪は枕に暴力を振られたかのようにぐちゃぐちゃで、数ヶ月染められないまま放置された白髪が根元を雑草のように覆い尽くし、目の下にはぷっくりとした大きなクマがグレーの水分を溜め込み、眉毛は伸び放題で太くボサボサになっていて、目の周り涙が干からびて白く塩を吹いていた。

誰、これ。。。

朝、不意に爽やかな風を浴びてしまった身体はリフレッシュをせがむように私を美容院に向かわせようとしていた。

一瞬、美容院に行くという考えに乗ろうとしたが、その後「美容師のXさんにはなんというのか。」「また死んだ事実を広めることになるぞ。」「やめておけ」「もう美容院に行ったって意味がない」などと頭の声が騒ぎ出した。

ふとトイレに行こうとして降りてきた息子を見ると、彼の頭も髪が伸び放題に伸びていて、重たそうだった。

「一緒に美容院行こうか」

と誘うと、

「うん」

と言った。

娘も誘って、3人で自転車に乗って、夫も一緒に通っていた美容院に向けて出発した。

自転車で切る風が私の髪を通り抜け、久しぶりのその感覚は気持ちよかった。目を瞑り、その心地よさに身を任せた。が、次の瞬間、悲しみ以外の感情を味わってしまった自分に罪悪感を抱いた。ふと我に戻り、

「ごめん。」

と小さな声でつぶやいた。








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