卵焼きの作り方
義理の両親、両親、妹家族、弟がそれぞれ彼の耳元でそれぞれの言葉をかける。XXさんのお経をあげる声が、それらの言葉を彼の耳の奥深いところ、そして天に上げていくようだった。
一巡すると、激しくも慈悲深い雨のように降り注いでいたお経は止み、嵐が去った後のように、空気が軽くなっていた。
儀式が終わると、私たちはXXさんを囲んだ。
「今回はご縁があり私が法事を執り行うことになりました。執り行う以上は、皆様にとって彼がどんな方だったか知りたいので、ぜひ教えてください。」
義理の両親が、彼の小さい頃の話をしだした。生まれた時から顔がしっかりとしていて、早熟だったこと。義父がよくキャッチボールやサッカーを一緒にしていたこと。小さい頃は車掌さんになりたくてその真似をよくしていたこと。リーダー気質でいつもたくさんの友達がいたこと。二十歳くらいの時に、法事にいったらそこのお坊さんに「君の目は特別だ。」と言われ、誇らしかったこと。
まるで玉手箱を開けたかのように、生まれた頃から、20歳頃までの彼がもくもくと出てくる。
義理の両親が一通り話し終わると、子供達がパパとしての彼を一生懸命に話し出した。
「いつも色々なことを教えてくれたよ。卵焼きの作り方とか、ステーキの焼き加減とか。」と息子がいった。
「そうそう、卵は混ぜる時、空気を入れるようにお箸で縦に回しながら混ぜるんだ!」と娘が付け足す。
「パパは大きくて、優しかった。抱っこしてくれたし、肩車してくれた。いっぱい笑わせてくれた。」
「サッカー教えてくれた!」
「自転車の乗り方も教えてくれた!」
「あとね、パパのおならは臭かった。」
二人は一生懸命にパパのことを話す。まるで、たくさん話せばパパが帰ってくるのではないかと信じているかのように。
優しく全てを受け入れながら聞いてくれるXXさんに、みんなが思い思いに彼との思い出や彼の人柄を話し出した。
私は何も言葉にならずただひたすら聞いていた。
それに気づいたXXさんは、私に、「どんなご主人でしたか?」と聞いた。
しばらく考えた後、
「楽しい人でした。人生楽しまなきゃ損、みたいな感じで生きていました。」とだけ、絞り出した。
気がつくと、あっという間に2時間がすぎていて、彼の思い出話や人柄について笑顔で話していた。みんなの顔にかかっていた霧が、少し晴れていた。
XXさんは
「僕もあってみたかったなぁ。」
と呟くと
子供達に向かって、
「本当に素晴らしいお父さんだね。死んでしまって今はよくわからないかもしれないけれど、これからもお父さんは色々なことを教え続けてくれるんだよ。今までに教えてもらったことが大人になった時に初めて本当の意味がわかったり、天国からも色々なことを教えてくれるよ。」
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