朝起きたら世界が変わっていた ①

あの朝のことを書いてみようと思う。

不思議なウイルスの時代に入ってもうだいぶ経ったある日の朝。起きるとデジタル時計の赤い文字が7:30を示していた。私は窓を開け、朝の光と空気を部屋に入れるのが日課だった。その日の空は嘘のように青く、これまた嘘のような雲が動くわけでもなく、ただ座っていた。ショッピングモールやディズニーランドにあるような偽物の空のようだった。そんな偽物の空に、真っ黒な稲妻が走ることになるとはまだ知る由もなかった。

今日もいいお天気だな、子供たちまた私道で遊べるな、と思って、横で眠る娘と一つ先のベッドに眠る息子に二人ともー!起きなさーい!と大きな声で言った。

私たちの寝室はクイーンサイズのベッドが一つ、そしてシングルサイズのベッドが二つ連なっていた。四人でその寝室に、お互いの寝息に包まれながら寝ていた。

夫は、ベッドにはいなかった。

不思議なウイルスの時代に入ってから、毎朝朝ごはんを作るのが彼の日課となっていた。お昼と夜は私が作り、朝は彼。作った人じゃない方がお皿を洗う。お互いになんとなくそのような習慣となった。彼は仕事柄夜遅く朝も早いのが当たり前だったで、睡眠時間が少なくても大丈夫な体に仕上がってしまっていた。このころは私たちより早く起きてランニングに行ったり、朝ごはんを作ったりしてくれていた。

私は彼がランニングにでも行っていると思い、特に何も考えなかった。子供たちを起こして、絵本を読んだり、そのころ私と子供の間で流行っていたライオンの親子ごっこをしてじゃれあってきゃっきゃっと遊んでいた。

デジタル時計の赤い文字が8:00になってもリビングからは音がしない。そろそろ下に降りてみようと思って、子供たちをおいて先に階段を降りた。すると、彼がソファで寝ている。

「もう、またソファで寝てー!」

と叱った。今までも何度もソファで寝落ちしていて、それではちゃんとした睡眠が取れないからちゃんとベッドで寝るようにいつも言っていた。

寝室に持っていたたコップを台所においてソファに行ってみると、何かが変だ。体が異様な物質のようだった。不気味な静けさがリビングを覆う。

「もう起きて、8時だよ!」

と彼の顔を見ると、片目だけが開いていた。壊れたまぶたが閉まらなくなった人形のようだった。絶対に寝ている顔ではない。

もう、彼はここにいない。

直感的にそう思った。一瞬でパニックに陥り、狂乱しながら

「起きて!起きて!起きて!起きて!起きて!....ダメダメ、ダメダメ、まだ子供たち小さいんだからダメ。ダメダメダメダメ。まだダメ!!!」

とっさに防災士の資格を取った時に習った心臓マッサージと人口呼吸を始めた。

ダメだ、ソファだと沈んじゃう。床に下ろそう。

80キロ近い彼をどのように床におろしたのかは覚えていない。彼の身体を触るともう冷たかった。でも、首の後ろに手を回した時に微かな生温かさを感じた。赤ちゃんに哺乳瓶のミルクを飲ませる時に手の甲で確認する時のような生温かさだ。ほのかな、微かな生温かさ。

あ、まだ温かい。大丈夫かもしれない。

床に下ろすと、「ブルルル」と彼から音がした。

生き返った!!!
違う、さっきの私の息が出ただけなんだ、、、

必死に人工呼吸と心臓マッサージをしながら、

「起きて!」とほっぺたを叩きながら叫んでいた。

尋常ではない声を聞きつけて、子供たちが降りてきた。私たちがふざけあっているのかと思ったのか、最初は笑っていた。きっと、何が起きているか全くわからず、処理しきれなかったのだろう。

あぁ、こんなところを見たら子供たちはトラウマになってしまう、、、

「いいから上に行ってなさい!!!」

そう叫んで、119番通報した。


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