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みなと新聞セミナー「遺伝育種でおいしい養殖魚づくり」の様子をお伝えします

2023年11月22日に開催された第18回セミナー「遺伝育種でおいしい養殖魚づくり」の模様です。

養殖魚の育種に関するセミナーを開催しました

みなと新聞は22日、魚の遺伝育種をテーマとしたオンラインセミナーを開きました。講師として登壇いただいたのは、松原孝博愛媛大学南予水産研究センター長です。セミナー終了後に実施したアンケートでは、「わかりやすい説明で、養殖技術確立のスタートから現段階までの流れを追うことができ非常に参考になった」「遺伝子育種を利用した研究を進めていく上で大変参考になった」など、非常に満足度の高い講演だったとの回答を多数いただきました。

松原先生はスマ(スマガツオ)を対象とした研究に取り組んでおられます。セミナーでは主に養殖生産を確立した段階のお話から、「おいしさ」に関わる遺伝的要素の探求、そして代理親生産技術を軸とした次世代育種システムについて講演をいただきました。

養殖生産を確立したお話の中ではスマの早期成熟・産卵誘導に成功した際のポイントや、稚魚用に開発した人工飼料の性能、個体の選抜手段などの説明がありました。続けて「おいしさ」を定量的に評価するために、1200個体以上のスマから1個体当たり150項目のデータを調査したことを紹介。大きさや形状、色や肉質、官能評価などによる味の情報、数日後の味わいの変化などのデータを多角的に分析し、そこから高品質なスマの特徴を導き出すと同時に、遺伝的要素を検出しているといったお話がありました。

大量のデータを多角的に分析し、スマのおいしさについてさまざまなことが分かってきた

完全養殖と次世代育種システム

続いて松原先生が現在取り組んでおられる次世代育種システムについての解説がありました。先生によれば、水産業界で今後拡大するであろう完全養殖においては育種を組み込んでいくことが必須となるとのことでした。人の手で卵から親までのサイクルを循環させる完全養殖では、親魚の形質が優良であることが求められるためです。一方で農水省が「みどりの食料システム戦略」で掲げる「2050年までに人工種苗100%」を達成するには、従来の育種の手法では時間が足りません。そうした中、育種を大幅に高速化できるのが代理親生産技術を軸とした次世代育種システムだといいます。

同システムは例えば供給量が圧倒的に多い、市場で水揚げされた魚から優良系統を見つけ、その魚から生殖細胞を取り出し凍結保存します。その生殖細胞を仔魚へ移植して代理親とし、代理親から優良系統を復元するものです。こうした代理親生産のサイクルを繰り返すことで育種を大幅に高速化することが可能になったといいます。この他、実際に行っている不妊化処理や人工授精技術の説明、生殖細胞が定着した様子の紹介もありました。また、従来の育種では系統ごとにいけすを用意して育てる必要があるため多大なコストが課題となりますが、同システムでは生殖細胞を凍結保存することで系統を管理できるため低コストで済むとしています。

育種を高速化するためのブレイクスルー技術となる代理親生産技術

スマの技術をマダイ、ブリへ

スマで培ってきたこれらの技術を、養殖生産量の多いマダイやブリへ転用する構想もあるといいます。将来像として、マダイでは例えばうま味が強く魚病耐性がある系統や軟肉質で美白体色の系統など多種多様の系統を作出し、それをオーダーメードのように受注生産することや、ブリでは輸出用の超大型として、まれに存在する満3歳で初回産卵を迎えるような大型ブリを大量生産するといった構想例が挙がりました。

スマの技術をマダイやブリに転用できれば、産業的に大きな意味を持つ

講演後の質疑応答では「稚魚用に開発した人工飼料と従来の飼料では成長のパフォーマンスはどれくらい変わりましたか」「代理親による優良系統の復元率はどれくらいでしょうか」など、多数の質問が寄せられました。

松原先生には非常にわかりやすく講演をいただき、ありがとうございました。また、本セミナーにご参加いただきました皆さまには、改めて御礼申し上げます。