見出し画像

「かぎ当番の小さなネコ」 ミムコさん「妄想レビュー♯19」参加作品

ね(ねずみ) うし とら う(うさぎ) 
たつ(りゅう) み(へび) うま ひつじ
さる とり いぬ い(いのしし)。

そのむかし、12ひきの動物たちは、「十二支じゅうにし」として、一年ごとに交代しながら、その年の「大将たいしょう」にしてもらうことを神さまと約束やくそくしました。

12月の終わりに近づくと、毎年、足音が聞こえてきます。

その年の干支えとの動物が、新しい年のとびらを開ける「かぎ」を持ってやって来るからです。

その「かぎ」でとびらを開けると、次の年の干支えとの動物が待っていて、
また次の一年後のとびらを目指して、ゆっくりゆっくり「かぎ」を運んで歩いていくのです。

大事な「かぎ」を受け取って、とびらを開けるのは、ネコのおしごと。
ネコは十二支じゅうにしには入っていないけれど、新しい年へのとびらを開けるための大事な役目やくめがあるのです。

今年は、のしのしという足音が聞こえてきました。
今年の干支えとのトラが、とびらに向かって歩いてきたのです。

「おおーい、かぎを持ってきたぞーい、がおおーん」

とびらを見つけたトラがよびかけます。

ところが、どういうことでしょう。
とびらを開けるために、ここで待っているはずのネコのすがたが見当たりません。

さて、ネコはどこにいってしまったのでしょう?

大みそかの夜、ネコは男の子のあったかいおなかの上でねむっていました。

「グルルル……、グルルルル……」

あまりにも心地ここちがよくて、とびらを開ける役目やくめのことなど すっかりわすれて、ねいきまで立てています。

男の子はまだねむったばかりでしたが、ネコの声で目がさめてしまいました。

おなかのあたりにあたたかさを感じて、おふとんをそっと上げると、茶色のしまもようのネコがすやすやとねむっているではありませんか。

男の子は、そのネコをおなかの上からすくって、そっと手のひらに乗せてみました。

ネコはとても小さくて、男の子の両方の手のひらに、すっぽりとおさまります。
小さくて、あたたかくて、とてもやわらかくて。
男の子は親指でそっとなでてみました。

すると、ネコは目をさまして、お月さまみたいにかがやくきれいな目で男の子をじっと見ました。

男の子がそっと手をはなしてあげると、トタタタタと部屋のすみへにげてしまいます。

「だいじょうぶだよ。なにもしないよ」
男の子が話しかけると、

「今、何時にゃ?」
とネコは聞きました。

「今はね、えーと、夜の九時だよ」
男の子が時間を教えると、ネコはとつぜん、「みぎゃー!」と大きな声を上げました。

「大変にゃ! もうすぐ新しい年が来てしまうにゃ!」

ネコはまどガラスをカリカリひっかいて、外に出たがっているようです。

男の子はまどを開けてあげました。

すると、ネコは夜空に向かってトタタタタとすばやく走っていきます。
ネコの走った後には、金色の小さな星のつぶがきらきらとかがやいて、細く長い道ができています。

「わー!」
あまりにもきれいで、男の子は感げきしました。

その時、男の子の部屋のラジオがとつぜん鳴り始めました。

最初は、日本の歌手の歌が流れていましたが、すぐに外国語で「ハロー」と聞こえて、その後には「チャオ」、「ボンジュール」、「アンニョンハセヨ」、「アロハ」と色んな国のあいさつが聞こえてきます。

男の子がまどから外を見ると、ほかのお家のテレビやラジオも鳴り出していました。
テレビには遠くはなれた国の人たちの顔が見えて、手をふっています。
ラジオからは色んな国の人たちの明るい声が聞こえてきます。

どうやら、ネコがトタタタタと走っていたところにはたくさんの電波が行き来していて、
ネコが走った後にできた小さな星たちが、色んな電波どうしをあっちこっちに、ごちゃまぜにしてつなげてしまったみたいです。

男の子も、ラジオにむかって話しかけます。
「こんばんわ。ぼく、ゆうき」

すると、ラジオの向こうから、「ハイ、ユーキ!」とたくさんの声が帰ってきました。

さて、ゆうきくんが世界中の人たちとあいさつをしている間、あのネコはどこへ行ったのでしょう。
無事にとびらの元へたどり着くことはできたのでしょうか?

茶色のしましまの小さなネコは、走りつかれて東京タワーのてっぺんで休んでいました。
うとうとして、また気持ちよくねむってしまいそうです。

「こんなところにいたのかい、がるる」
そこへやって来たのは、今年の大将たいしょうのトラです。

もうすぐねむってしまいそうなネコをそっとせなかに乗せると、とびらのところまで風のようにかけぬけていきました。

「ネコさんよい、もうすぐ新しい年が明けるよ。この『かぎ』でとびらを開けておくれ」
トラが声をかけると、ネコは目をさまして、一度大きく体をのばしました。

トラの口から「かぎ」を受け取ると、ネコはとびらの「かぎあな」に「かぎ」を入れて回します。

「がちゃり」

かぎが開くと、とびらはだんだんと開いていきます。


時計の針は、ちょうど12時。
ラジオの前でまだ起きていたゆうきくんは、「あけましておめでとう」といいました。

ラジオの向こうからは、「ハッピーニューイヤー!」など、たくさんの言葉とたくさんの声が聞こえてきます。


世界中の人たちが、新しい年のおいわいをしていたその頃。
トラはネコから「かぎ」を返してもらうと、とびらの向こうで待っていた、次の干支えとである「うさぎ」に「かぎ」を渡しました。

ネコがとびらの向こうに見たのは、光かがやく新しい一年。

どうか、新しい年もすてきな一年になりますように。

(了)


🌟ミムコさんの「妄想レビュー♯19」から物語を書かせていただきました☺
 ゆうきくんが気に入ってくれるといいな♪


いつも応援ありがとうございます🌸 いただいたサポートは、今後の活動に役立てていきます。 現在の目標は、「小説を冊子にしてネット上で小説を読む機会の少ない方々に知ってもらう機会を作る!」ということです。 ☆アイコンイラストは、秋月林檎さんの作品です。