連載小説「天の川を探して」(4)亀宮神社(ミムコさん企画「妄想レビューから記事」参加作品)
チハヤの口笛で鳥たちが光の道を作る。この光は、「彦星様人形」のいる「きのみや神社」に続いているらしい。
私はポケットにしまった人形を優しく触りながら、「きっと、あなたは『織姫様』なのよね。チハヤちゃんたちが言うんだもん、間違いない。もうすぐ、『彦星様』に会えるからね」と心の中で話しかけた。人形はうんともすんとも言わないけれど、喜んでいるような気がした。
暫く山の中を進むと、突然ぽっかりと空が開けた。もう夜になっているけれど、空は厚い雨雲に覆われたまま月さえ見えない。雨を遮ってくれた樹々はここにはほとんどなく、雨はしとしとと私たちを濡らした。
「着いたで。ここが『彦星様』のいる、亀の宮と書いて『亀宮(きのみや)神社』や」
チハヤの指さしたところを見ると、白い立派な鳥居の形をはっきりと捉えることができた。その大きさに私が感心して口を開けていると、「アンちゃん、こっちやで。こっちに『彦星さん』おるんよ」と、ミヤは早速私の手を引っ張って、足早に歩き始めた。
こんな遅くに、誰もいない神社に初めて来た私は、ドキドキしていた。ここに越してくる前だったら、こんなところ絶対に怖くて近寄らない。けれど、今は三人がいるから心強く、これからまた不思議なことが起こるんじゃないかと期待で胸は膨らんだ。
ミヤに手を引かれながら辺りを見ると、ぽつんと立った灯篭(とうろう)の近くに、亀の石像が置かれていた。「きのみや」は、漢字で「亀宮」と書くらしいから、カズキとミヤに関係のある場所なのだろうか。私は、「ふたりが亀に守られているなら、ここは最高に安心できる場所ね」と思い、小さな長靴で歩き続けるミヤの背中を微笑みながら見つめていた。
🌟🐢🌟
本殿の建物裏から続く細い石畳の坂道を進んで行くと、小さな祠(ほこら)のようなものがあった。中は真っ暗でよく見えないが、木でできた格子の奥で何かが座布団の上に置かれているようだ。
「ミヤちゃん、『彦星様』はここにいるの?」
「そやで。ここにおる」
後を追ってきたチハヤとカズキが私とミヤに追いつくと、私を除いた三人は祠に向かって静かに手を合わせた。私も、三人の真似をして手を合わせる。
「さあ、ここからが本番や。みんな、心の準備はええか?」
カズキがそう言うと、チハヤとミヤは「おお!」と腕を上げて元気よく返事をした。
「ここからって、どうするの? よく見えないけど、鍵がかかってるんじゃない? もしかして、動物たちに頼むの? でも、傷とか付けたらさすがにまずいんじゃない?」
私がひとり心配しておどおどしていると、「まあ、心配すんな」とカズキは言って、祠の真裏に姿を消した。
少しすると、カズキは祠の正面に戻って来て、「じゃーん」と私に古びた鍵を見せた。
「え? これ、祠の鍵なの? なんでー? すごい!」
私が目の前で起きた奇跡に一人興奮していると、チハヤとミヤは「ちゃう、ちゃう」と言って手を横に振った。
「アンちゃん、だまされたらあかん。こいつ、鍵の場所、知っとるだけやねん」
「兄ちゃん、タダシおじさんから教えてもらってたで。ミヤたちのおじさん、ここの神社の人やもん」
ふたりがこう言い、冷めた目でカズキを見ると、分が悪くなったカズキは「そんなん、どうでもええやろ! さ、鍵開けよ~」と言って、さっさと祠の鍵を開け始めた。
暗闇に目が慣れたとはいえ、小さな鍵穴に鍵を差し込むのは私にはとても無理だ。格子戸に鉄製の錠が掛かっていたことさえ、私は気付かなかった。鍵と錠のおおよその場所を知っていたとしても、ここで育った子たちの目はすごいなあ、と私は心から感心したのだった。
『ガチャリ』と音を立てて錠が開くと、カズキは格子戸を少しだけ開け、中に手を伸ばした。そして、中にあるものを掴むと、私の方に振り返った。
「ほら、これが『彦星様』やで。アンちゃんの人形に似とるやろ?」
カズキが手に掴んで私に見せたのは、薄っすらと白い、楕円形の形をしたもののようだ。布が巻かれていて、着物を着ているみたいだけれど……。
「ごめん。私、よく見えないや」
カズキとチハヤとミヤが、私に熱い視線を向けているのを感じたけれど、「わー、そっくり!」と嘘を言うことはできなかった。
三人ともがっかりしちゃうかな、と心配してそーっと皆を見ると、「そらそやな。こんな真っ暗な場所で見ろいう方がおかしいねん」「そやで、兄ちゃん」と、なぜかカズキがチハヤとミヤに責められた。
「こうなったら、直接行くで! 『三途の川』へ!」
カズキはそう言うと、私の腕を引き、祠の南方向へ歩き出した。
(つづく)
🌟つづきは、こちらから🌌
#妄想レビュー返答
※この小説は、こちらの「妄想レビューの返答」として書かせていただいた、ミムコさんの企画「妄想レビューから記事」の参加作品です🍀
詳細は連載第1回を確認いただけましたら幸いです🌜