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『星屑の森』―AKIRA―(5)

お姉ちゃんと菜佳は、それぞれ両手を繋ぎ合い、向かい合って座っている。

さっきまで興奮していた菜佳も、お姉ちゃんに目を瞑るように言われ、大人しく瞼を閉じた。

マスターは、BGMにかけていたジャズのレコードを止め、ハーブティーを淹れ始めたようだ。
ガラス製のポットにハーブを入れ、ケトルからお湯を注ぐ音がする。
ハーブティーの香りが、湯気に乗って、私達の元にやって来た。
甘い香りと共に、ほんのりとレモンや林檎の様な爽やかな果実の香りがする。
それは私達を邪魔しない、ささやかな優しい香りだ。

菜佳は、いつの間にか眠ってしまった。
座ったまま、小さな寝息を立てている。

それを確認して、私はお姉ちゃんに視線を送る。
すると、お姉ちゃんは「しょうがないわね」という顔をしてから、私の目を見て頷いた。

私は、お姉ちゃんの隣の席に座ると、
二人が繋いだ手の上に、自分の掌を重ねた。

そして、お姉ちゃんが「すうっ」と大きく息を吸い込んだのと同時に、しっかりと目を閉じた。



――真暗闇が続く中、私は両腕を振って、一生懸命に進む。
足が地面に着いておらず、空中を漂うような状態なので、ひたすら腕と脚を振って、前と思う方向へ進むしかないのだ。

少しすると、目の前に強い光が現れた。
私は、その光に思い切って飛び込む。

「わっ」

突然、重力を感じて、私の身体は地面に打ち付けられた。

「痛ったい…」

顎(あご)を擦りながら、手をついて立ち上がろうとすると、

「痛いわけないでしょ」

と声が降ってきた。

見上げると、お姉ちゃんが立っていた。
やっぱり、「しょうがないわね」という顔をしながら、私に手を貸してくれる。

そうだ。ここは、現実世界ではない。
痛さがあるはずないんだ。

私が立ち上がると、お姉ちゃんは「あそこ」と言って、斜め左前の方を指差した。

ここは、見渡す限り平地の続く、ただ真昼の様に明るいだけの空間だ。
しかし、ひとつだけ存在するものがある。

お姉ちゃんの指差した方向には、枝葉を大きく広げた、一本の木が立っている。

これは、『記憶の樹』。
誰もが一つ必ず持つ、記憶の具現。
持ち主の記憶を宿す、ただ一つの存在だ。

お姉ちゃんには、不思議な能力がある。
手を繋ぐことで人の内側の世界に入り込み、その人の『記憶の樹』に触れることができる。

そして、『記憶の樹』から、その人の悪夢の元になる、黒い記憶を探し出す。

(つづく)

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