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【歌舞伎鳩】爪王・猩々・天守物語(十二月大歌舞伎②)

歌舞伎座新開場十周年 十二月大歌舞伎
2023年12月3日(日)~26日(火)

第一部:旅噂岡崎猫・今昔饗宴千本桜
第二部:爪王・俵星玄蕃
第三部:猩々・天守物語



爪王つめおう

ざっくりとしたあらすじ
自慢の白鷹・吹雪を飼う鷹匠。ある時、庄屋から山の麓を荒らす老獪なの退治を依頼され、鷹匠は吹雪を連れて雪山へ。狐と吹雪の戦いは、狐の勝利に終わる……。狐と白鷹の戦いを描く舞踊劇。
きちんとしたあらすじはこちら


狐:中村勘九郎
鷹:中村七之助
庄屋:中村橋之助
鷹匠:坂東彦三郎


狐と鷹が主な登場人物(人物?)というところで、まず設定が面白い。実際に鷹が狐を追い払うようなことってあったんですかね? もしそれがあったとするならば、おそらく生活に近いところにある動物たちを題材にしているわけで、そういった生活が発想の元となり、人間の舞う、舞踊が生まれるという流れもまた、面白いなと思いました。

鷹と狐、どちらも動きに動物っぽさがあり、そこも見応えがありました。面白かった。特に吹雪の首の動かし方。小刻みに揺れる頭と、その鬢に飾り付けられた鳥の羽が合わせて揺れるのが、とても鳥っぽくて説得力がある。
鷹に関しては、衣装も素晴らしかった……白い振袖に鷹の羽の銀の絵柄、シンプルなのに豪奢で、空を駆ける王者の貫禄がある。はじめ出てきたときはあんまり美しいので、ちょっと逆に引きました。。。

そして最初に吹雪がやられた時の鷹匠の悲しみが深く、そんなに……?と思ったのですが、「鷹匠は野生の鷹を捕ってきて仕込んでともに生活をしているため、吹雪は恋人のような子供のような存在」との解説があり、納得しました。演出上の都合もあるとは思うけれども、だから鷹は女形なんですね。
*この鷹匠、すっぽんから出入りするので、それは良いんだ……とも思いました。舞踊だからOK?なんですか?(すっぽんは人間以外のものが出入りするところだと教わったための疑問)

対して狐、なんというか、可愛い。素朴というか、獣だなあという感じ。雪を蹴って遊んでいたりなどする。可愛い。しかしひとたび踊り始めると、ダイナミックな動き方をするため驚きます。ぴょーんと横に跳ねて舞台袖に捌けるし、最後もずしゃーっと頽れてすっぽんから捌ける。上記の映像にもある、あの座ったままの動き方とか、身体能力どうなってるんですか?????

鷹と狐の戦いが主軸なわけですから、ひとたびその戦いとして舞い始めると、動きがダイナミックで華麗で、とても見応えがありました。最後、勝ち誇った吹雪の舞い上がる神々しさたるや。鳩には光輪が見えました。
幕見席がいつも完売しており、人気演目なんだな〜と思っていたのですが、これは人気にもなりますね。時間などが許せば鳩ももう一度見たかったです。


幕見2列25番あたり




◆いざ桟敷席

念願の桟敷席……! 歌舞伎座の桟敷席……!!!!!

東桟敷5番あたり

どうしても座ってみたかった桟敷席のお切符を奮発しました。なぜなら天守物語がかかるので。泉鏡花なので……。
すごいすごい。とても近い。いつも遠くから眺めていた緞帳の、織目まで分かりますよ。近い。怖い。近い……!と、大興奮の鳩でございましたが、始まってみて分かったことは、桟敷席の素晴らしさは視界だけではないということでした。
なにって、です。これはまったく予想をしていなかったというか、三等と幕見に通い詰めていなければ気が付かなかったかもしれない。三等や幕見席とは音の聞こえ方が全然違う。もちろん三等・幕見席でも特に不満を感じるような音響ではありません。
あの黒御簾の、水音を表す太鼓の音であるとか、または義太夫さんたちの声であるとか、その一つ一つの音の、身体への迫り方、響き方が全然違うのです。あの太鼓の、身体の中の水分を全て震わせていくような、あの感じ、あれが感じられる。鳩は実は大きい音が怖い、太鼓の音もあまり好きではないという輩なのですが、歌舞伎座にいてその恐怖を久しぶりに思い出しました。
また、これは良い点なのかは分からないのですが、劇場に反響する音が聞こえる。空間に響いて返ってくる、あの時差のある、特殊な音。これもおそらく一階席ならではなのでしょうね。
そしてこれは真偽不明というか、突き止められなかったのですが、効果音などを作る人、客席の後ろにもいたりするんですかね? 桟敷東席なので、自分の右手が舞台側、左手が客席後方になるのですが、効果音が左手から聞こえる?ように感じることがあり……まあもしかしたら気のせいかもしれません。
ともかく桟敷席、とても素晴らしい体験でした。良いな、やっぱり良いお席で体験することは大切なのです。素晴らしかった。


猩々しょうじょう

ざっくりとしたあらすじ
親孝行者の酒売りには、常連に不思議な客がいる。どれだけ飲んでも酔うことなく酒を飲み続けるその客に、名を問うと、水中に棲む猩々であるという答えである。
中国・揚子江のほとりで、酒を用意して猩々を待つ酒売り。やがて現れた猩々は大いに喜び、酒を飲みつつ上機嫌に舞い踊る。舞踊劇。
きちんとしたあらすじはこちら


猩々:尾上松緑
酒売り:中村種之助
猩々:中村勘九郎


猩々二人(二匹?)で舞い踊るので、同じ格好をして踊ると、だいぶ舞い方の個性が見えるものだなと思いました。勘九郎さんは首の動かし方など、軽快な動きが多く、松緑さんはゆったりと大きい感じ。霊獣が戯れているのが見えるようでした。




天守物語

ざっくりとしたあらすじ
白鷺城天守閣には、妖の姫君・富姫が従者とともに住んでいる。
騒がしい城下の鷹狩りの一行を、雨を降らして散らすために、白雪姫(夜叉ヶ池)に頼んで帰城する富姫。今日は可愛い妹分の亀姫が遊びに来る日である。亀姫が来訪し、楽しい一日を過ごす二人。帰り際、亀姫が目を留めた白鷹を、富姫は土産に与える。
その夜、富姫の元に一人の若者・図書之助が現れる。人間を立ち入らせないようにしている天守に現れた図書之助を追い返そうとするが、図書之助は、播磨守の大切にしている白鷹を逸らしてしまったために探しにきたと言い、それが見つからないならば自分の命はないものだと話す。図書之助の探す白鷹は、富姫が亀姫の土産に与えたものであった。清々しい様子の図書之助に好意を抱いた富姫は、二度と天守へ来ないようにと誓わせ、図書之助を城下へ帰してやるが……。
きちんとしたあらすじはこちら


富姫:中村七之助
姫川図書之助:中村虎之介
亀姫:坂東玉三郎


素晴らしかった……。幕が開いた瞬間に、そこは白鷺城のお天守であった。城下を眺めつつ暮らす妖たちの雅やかな生活。なかなか突飛な設定がたくさんあるにはあるけれども、それを当然として設定するのが良い。突飛とは言え、自然のことであったりはするので、人間と隣り合わせで暮らしているというところが強調される。人間が捨ててきた自然で純粋なものを、妖たちは捨てないで愛でている雰囲気。

前半部分
やっぱり亀姫様の「お勝手」が好きですね……なにあの可愛い拗ね方……?(永遠に亀姫様が可愛いという話をしている回)今回は玉三郎さんが亀姫で、またこれが愛らしいお姫様なわけで、あまり野暮なことを言うのもなんですが、役者さんのことを考えると不思議な心持ちになりますね。でも確かに七之助さんの富姫の、愛らしい妹分でした……。
前回シネマ歌舞伎を見た時に散々騒いだ勘九郎さんは、今回は舌長姥役。出てきた瞬間から背も縮んだお婆さんで、よぼよぼと歩きつつもしっかりとした、どれだけ長く生きているんだと思わせる妖なわけでしたが、中村勘九郎ってもしかして5人くらいいる? など思わせるほどの好演。この役者さん、見るたびに様子が完全に違うんですが、やはり5人くらいいるのでは……?そうでないと計算(何の?)合わなくないですか……???(後半最後に、近江之丞桃六という別役で出てくるのですが、ここでもまた違った感じのお爺さんをやってくるため、困惑の鳩)

後半部分
図書之助が全てを持っていきましたね。あれは清々しくまっすぐで、忠義心もある、純な青年でした。あれは惚れる、富姫が惚れるという説得力がある。天守物語(というより泉鏡花作品?)は、愛というよりも、恋心が何よりも凌駕するという物語だと思っているので、この図書之助はとても良かったです。
シネマ歌舞伎版でも思うには思ったのですが、富姫の惚れ方が結構唐突に見えるんですよね。暗闇の中で顔も見えないまま応対して、その話ぶりから富姫は惹かれていくけれども、図書之助は忠義一心。手燭を灯してやって顔を見てようやくそこで、富姫は恋心を認め、図書之助はその美しさに心を動かされる。
「帰したくなくなった。もう帰すまいと私は思う」
欲を言うと、富姫にはもっと、恋に心を奪われてほしかった。というのも、このシーンで、隣の人が笑ったんですよね。それにかなり驚いてしまったんですが、鳩は話が頭の中に入っているので分かるけれども、やっぱり初見の印象では唐突と思ったわけで(笑いはしませんでしたが……)、忘我の極致を演じるのは難しいところであるなと思いました。

女中頭・薄(上村吉弥)が城下の様子を富姫に知らせるくだり、名演でした。言葉と仕草だけで城下の様子を実況し、薄の胸中も言葉に乗りながら、この後へ向けてぐっと気持ちを押し上げてくる。
ここから天守での乱闘となり、獅子がついに動くのが、迫力があって良かったです。獅子頭がだいぶ大きいので、四肢が現れるととてもダイナミックに動く。あれを相手取るのは怖そう。富姫を守ってきた獅子の怒りがついに現れ、富姫の恋を守ろうとするんだなあ。富姫や天守の人たちは、獅子頭を旦那様と呼ぶが、獅子頭は富姫をどういう気持ちで見ていたのだろう。

獅子の怒りと前後を忘れましたが、富姫の「たった一度の恋なのに!」という嘆きがぐっときます。富姫の出自を語られたあとのこの台詞は悲壮感がいっそう増しますね。

はじめにも書きましたが、全体を通して結構突飛なことが多々ある。最後もまさかそんな方法で、という終わり方をするわけですが、でもそれこそが、人間の世界でない天守の世界を作り上げていて、完全にひとつ別世界を成立させている。鳩はこの設定の仕方がとても好きです。ファンタジーっぽくもあり、でも隣にあるような絶妙な距離感。物語の核が富姫の恋であるところが、またロマンチックですね。
恋が何ものをも凌駕する。他人を恋することは、“恋に落ちる”というように、自らの心のうちのことであるはずなのにその感情が外から齎されるような感覚を得る。感情の大きな波のうねりを何よりも肯定する筋立ては、ロマンチックで、やはり魅力的ですね。

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